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Lovers High  作者: ショコラ*
第一章 足枷
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「そうそう! 大学でね、すごいことがあったの。芸能人みたいな人たちと友達になっちゃった」


 暗くなりかけていた空気を変えたくて、今日1番の出来事を口にする。

 初対面なのに、すっかり惚れこんでしまった美しい3人組の話。主観的でまとまりのない報告を嵐は笑って聞いていたけれど、その表情は徐々に真剣なものになっていった。


「男の人ふたりって、どんな感じだった?」

「うーん……ひとりは硬派で気難しい感じ。ひと声何か言うだけで、みんな従っちゃうような迫力がある」

「だから『王様』なんだ」

「そう。で、もうひとりは……」


 今日唯一2度対面した、セイを思い浮かべる。その微笑みを思い出し、心臓がトクトクと高鳴った。


「王子……もしくはナイトってイメージかな。友達からも聞いたんだけど、ヒロとリネの代わりに前に出ることが多いんだって。人当たりは1番いいんじゃないかな」

「へえ……。その人たちに名前覚えられたの?」

「うん、びっくりだよね。凡人がめずらしかったのかな」


 今考えても、なぜあれほど好意的に受け入れられたのか不思議で仕方がない。


「俺も入学したら、紹介してね」

「わかった」


 なんとなく、嵐の顔には緊張が見てとれた。きっと春からの新生活に不安があるのだろう。嵐ならそんな心配いらないのに。


 ――このときは何も知らなくて、的外れなことを考えていた。


「ごちそうさま」

「片づけは俺がやっとく」

「え、ほんと?」

「任せとけって。レポートあるんだろ? 夜更かしするとまた貧血起こすぞ」


 そう言いながらにこっと笑う嵐。やっぱり、その気になれば秒で彼女が作れると思う。私がひとり占めしてちゃいけないよね……


「さみしくなったら、またおいで」

「行きません」

「ユウが『抱きしめて』って言うなら――」

「言いません! もう、私行くから。じゃあね!」


 思わず赤くなった私を笑う嵐を尻目に、慌てて部屋へ向かった。今の家には、私と嵐それぞれの部屋がある。電気をつけてカーテンを閉めると、私はバッグを開けた。


「あっ」


 そういえば携帯、入れっぱなしにしてたんだっけ。確認すれば着信が何件か入っている。

 2件の着信は、孝明から――これは無視で。

 百合からのレポートに関するメッセージは、その場ですぐに返信する。お気に入りショップからのDMはあとで確認するとして……


『今日はありがとう』


 リネから来ていたメッセージに、心臓が跳ねた。


『ユウと友達になれて、すごく嬉しかった!』


 ――食堂で言いそびれたけど、私たちいつも3号館のカフェにいるの。空き時間があったら気軽に遊びにきてね。それから、自分も連絡先交換したかったってセイがうるさいんだ。よかったらヒロとセイの分も登録してあげて。ふたりともいい人だから、みんなで仲良くなれたら嬉しい! じゃあ、また会えるのを楽しみにしてます。


 無意識に顔がゆるんでしまう。今まで執着したことなんてなかった携帯が、すごく大切なものに思えてきた。私はリネにお礼と、近々3号館にお邪魔する旨のメッセージを送り、セイとヒロにも連絡を入れる。こちらには悩んだ末、『リネから教えてもらいました。よろしくお願いします』というシンプルな文になってしまったけれど。


 ひと通り連絡を済ませたあとは、レポートに取りかかる。決して最先端とは言えないノートパソコンを開き、大学のネットカフェで途中まで作成した文章を読みかえした。すでに3分の2はできているから、そこまで時間はかからないはず。


 お気に入りの洋画のサウンドトラックを小さなボリュームで流し、しばらくの間集中する。最後まで書き終え、推敲を重ねていたとき――

突然携帯の着信音が鳴った。この音は電話だ……この時間帯に連絡してくる人がいるなんてめずらしい。画面を見て相手を確認した瞬間、息をのんだ。

 3秒くらい名前を見つめたあと、ようやく通話ボタンを押す。


「……もしもし」

『久しぶり、ユウ』


 電波に乗って聞こえてきた、彼の声。胸が締めつけられるように苦しい。


「急に……どうしたの?」

『孝明と別れたんだってね』

「あ……う、うん……」


 言われた言葉にうつむいた。こうして私の身に起きたことを、彼がすべて把握していることは知っているのに。現実を突きつけられるたび、息苦しさを感じてしまう。


『好きな人でもできた?』


 そう問われた瞬間、直感した。本題はこっちだ。


「……違うよ。しばらく彼氏はいらないかなと思って」

『そう』


 さっきの嵐と同じ、シンプルな返事。それなのにどうして彼の声は、心が冷えるような響きをしているのだろう。

 ――私はこの人が、世界で一番恐ろしかった。


『だったらいいんだ』

「……うん」

『また彼氏が欲しくなったら、遠慮なく言ってね』

「……」

『それと、さ』

「うん」

『たまには遊びに来てよ。顔が見たい』


 きっと彼は、あの冷たい微笑みを浮かべているのだろう。思わず言葉に詰まった私を見透かすように、彼は優しく続ける。


『じゃあね、ユウ。おやすみ』

「おやすみ……ルイ」


 電話が切れても、しばらくの間動けずにいた。彼――ルイは、私の心を一瞬で暗闇に突き落とす。嵐が「あいつ」と言って、敬遠している相手。きっと、この先私の心がルイに向かうことはない。それでも……彼から逃げることはできなかった。

 私たちは光の見えない、かなしい関係を結び続けている。



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