エピローグ 帰還/データセンター・スーパーコンピュータ・AI
悠真は、しばらく都市を離れていた。
特に理由はない。
ただ、少し遠くまで行ってみたかった。
戻ってきたのは、それから数か月後だった。
丘の上に立つ。
「……」
悠真は街を見下ろした。
そして、固まった。
「……何だ、これ」
以前見た都市とは、規模が違う。
巨大な建物が並んでいる。
窓は少ない。
壁は分厚い。
周囲には大量の水路が走っている。
建物の間には、警備を担当する人々。
記録を運ぶ人々。
電源を維持する人々。
冷却を担当する人々。
そして、建物の中には無数の書庫がある。
「……」
悠真はゆっくり坂を下りた。
入口には大きな看板があった。
『中央記録集積所』
「記録集積所……」
中へ入る。
そこには、見たこともないほど大量の記録が保管されていた。
書記がひたすら記録を書いている。
別の人間が分類する。
さらに別の人間が複製する。
検索係が索引を管理する。
保管係が棚へ運ぶ。
そして、同じ記録を複数の都市へ分散して保存している。
「これ……」
悠真は周囲を見渡す。
「データセンターか」
誰も意味を理解していない。
ただ、膨大な情報を保存し、いつでも取り出せるように維持している。
さらに奥へ進む。
今度は異様なほど大きな計算所があった。
中には、何百人もの算術士がいる。
いや。
何千人だ。
同じ計算を分割している。
結果を別の担当へ渡す。
別の担当が計算する。
さらに別の担当が確認する。
複数の都市から計算結果が集まり、それを中央で統合している。
「……これ、普通の計算所じゃないな」
管理者が答える。
「はい」
「何をしてる?」
「非常に大きな計算です」
「どれくらい?」
「一人では終わりません」
悠真は中を見渡す。
「スーパーコンピュータ……」
また誰にも伝わらない言葉だった。
しかし、悠真は理解した。
大量の人間を一つの計算機として扱う。
計算を分割する。
同時に処理する。
結果を集める。
確認する。
もう一度計算する。
必要なら別の都市へ処理を移す。
これまで作られてきた仕組みが、さらに巨大化している。
そして、その奥。
一つの部屋だけ、人が異様に少なかった。
中央に一人の人物が座っている。
その前には大量の記録。
左右には専門家が並んでいる。
「ここは?」
悠真が尋ねる。
「推論所です」
「推論?」
「はい」
一人の専門家が説明する。
「過去の記録を読みます」
別の人間が資料を渡す。
「情報を整理します」
さらに別の人間が整理する。
「複数の可能性を比較します」
専門家たちが議論する。
「結果をまとめます」
中央の人物が口を開く。
「最も可能性が高いのは、こちらです」
悠真は黙った。
「……」
「これ、AIじゃん」
中央の人物が悠真を見る。
「AI?」
「いや」
悠真は訂正した。
「人間によるAIか」
記録を読む。
整理する。
学習する。
推論する。
回答を作る。
そして、その回答を人間が確認する。
完全に自動ではない。
しかし、やっていることは明らかに人工知能だった。
その日の夕方。
悠真は丘へ戻った。
見渡す。
データセンターがある。
スーパコンピュータがある。
AIがある。
通信網がある。
巨大な記憶装置がある。
複数都市による並列処理。
冗長化された通信経路。
冷却。
電源。
保守。
すべて人間が担当している。
悠真は笑った。
「……すごいな」
最初は門番一人だった。
それが今では。
世界そのものがコンピュータになっている。
そのとき。
総督府から、一人の伝令が走ってきた。
「悠真さん!」
「何?」
「神託です」
悠真は空を見る。
「また?」
「はい」
「今度は何?」
伝令は紙を開く。
「新しい知識を生み出せ」
「……」
悠真はしばらく黙っていた。
丘の下では、無数の人間が動いている。
記録する。
計算する。
通信する。
考える。
判断する。
そして、それぞれの結果がまた新しい記録になる。
悠真は都市を見下ろした。
「神様も、だいぶ欲張りになったな」
誰も答えない。
ただ、遠くの通信塔が光る。
一つ。
二つ。
三つ。
その光が都市から都市へ渡っていく。
そして。
また新しい計算が始まった。




