10
「期待はあれからもしていないけど誕生日が土曜でよかったわ」
「あ、あの……」
「ん? なによ」
いや、それにしたって四時ぐらいに来るのは急ぎすぎのような……。
だってご飯を作るのは夜だ、プレゼントをいまから買いにいくつもりではあるけど時間が凄く余ってしまう。
彼女が飽きてしまって早めに解散になることが一番最悪だった。
それに告白だってお昼とかにするよりも夜にした方が雰囲気が出ると思うのでここはなんとかしないといけない。
「ま、九時半ぐらいになったらここを出ればいいわよね。期待はしていなかったけどなにか買ってくれるってことなら素直に甘えるわよ」
「まだまだ時間があるのでお家に帰って九時半頃までゆっくりしていた方が――」
「嫌よ、なんで集まることが決まっているのにまた帰らなければならないのよ」
駄目か。
「あ、お誕生日おめでとうございます」
「ん」
「えっと、入ります……?」
というか、こんな時間に両親のどちらかが起きていたということだよね。
比較的早めではあるけど流石に四時とか五時頃に出ていくようなことはないからそれしかないと分かっていても気になってしまう。
「んー入ったら寝てしまうからやめておくわ」
「それならこの上のお布団を掛けておいてください」
「んー」
早く九時半になってくれますように。
そのときにつばさと合流して一緒にお出かけした後にここに戻ってくる流れだからまずはそこからだ。
「いや、やっぱり入るわ」
「はい」
自分のお部屋なら一緒に寝転んでいても緊張しないことが分かった。
彼女は寝転ぶと私の方を向いてきた、そのまま黙って見てきていたから頭を撫でさせてもらっても目を閉じただけだった。
緊張はしないけど寝てもらった方がいいか。
「待ってるんだけど?」
「へ?」
「誕生日になったらしてもらいたいことがあるって言ったじゃない、もう忘れたの?」
「ああっ」
それでなにを……?
教えるつもりはないようでこちらを見てきているだけだ。
抵抗はされなかったものの、頭を撫でることはいま彼女が求めていたことではないようだ。
「まさか……」
「そうよ、そのまさかよ」
これは深く考えすぎてしまうと駄目なやつだ。
それでも先に歯を磨いてきた。
距離を詰めていく行為だから臭うかもしれない状態ではしたくない。
「お待たせしました、いまからやります」
「ん」
先程みたいに寝転んでそのまま彼女を抱きしめる。
地味に難しかったけど文句を言われるようなことはなかった。
でも、これをしてもらいたかったとなると……ねえ?
今日動こうとしている身としてはどうしても期待してしまう。
「はは、キスでもよかったのよ?」
「き、キス!?」
一瞬、浮かびかけて慌てて捨てたとかでもなく、そもそも出てこなかったことだった。
告白をして、それを受け入れてもらえたら暴走した脳が求めてしまったりもしたかもしれないけど現時点では……。
「そんなに驚くこと? つか、こういうことをしているのにそういうのがなにもないと思っていたの? 普通は無理でしょ、私は同性なら誰にでもベタベタ触るってわけじゃないんだから」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「なによ、あんたが止めるの? 歯を磨きにいったからそのつもりなのかと思ったんだけど」
「ち、違いますっ。だけど今日の夜に私からその……」
「へえ、大事な話ってそれだったのね」
ああ……計画が台無しだ。
「ん」
「え、いま……?」
「どうせ今日の朝か夜かって違いしかないじゃない。あと、丹下がいると難しくなるかもしれないから先に言っておいた方が気が楽になるでしょ」
つばさ云々はともかくとして、確かに先に言えた方が心臓に優しいか。
自分が自分を苛めていたらアホらしいので乗っかってしまうことにする。
それにあのとき考えていたようにここで逃げるなら消えた方がマシだ。
「さやが優しくしてくれる度に好きになっていったんです」
「いつから?」
「警戒を解いたあたりから……ですかね」
私の中ではあの頃、気になるあの子を教えてもらったときだから不味いことだった。
好きな子がいる子を好きになるなんて本当に不味い、奪えてしまっても不味いことなのに……私のところに来てくれて引き続き優しくしてくれるから負けてしまったのだ。
「え、じゃあ五月頃からってこと? あんた……私でよかったわね」
「それは間違いなくそうです」
「あ、まあ……みんながみんな悪いことをするわけじゃないけど中には酷いことをしてくる人もいたかもしれないし……」
「さやがある意味、意地悪だったからです」
優しくしてもらえることが嬉しいけど嬉しくない状態だった。
こうなっているからいいものの、こちらに優しくしつつもし私の想像通りにあの子を選んでいたとしたら大爆発していた。
「は、はあ? 優しかったから好きになったって言ったじゃない」
「あの子のことを教えてもらってからだったので……」
「だからそれはあんたの勘違いよ」
うん、だから勘違いでよかったという話だ。
「好きな相手に好きな相手がいる状態って結構あるわよね。その点、あんたはこっちに向いていたから他のことを考えなくてよかったわ」
「えっと、さやも私のことが好き……なんですよね? いつからなんですか?」
「知らない」
え、あれっ。
いま笑っていたのに急にバッと背を向けられてしまった。
「私もあんたが好き、だからいつ好きになったのかどうかなんてどうでもいいのよ」
「そ、そうですか。で、でも、ありがとうございます」
いまはベッドの上だからそ、そういう雰囲気にならなくてよかったと思う。
これからつばさに会わなければならないのにキスなんてしてしまっていたら……。
「丹下でも呼びましょ」
「はい」
呼んですぐに来てくれるのがつばさという女の子だ。
ただ、今日は早すぎたのかそのままベッドに寝転んで「おやすみー」と寝ようとしてしまっている。
「む、ここからこづえんの匂いとさやさやの匂いが……」
「さっきまで一緒に寝ていたからね」
あ、これをやりたかったのかな?
それなら付き合うだけだ。
「なんとっ、そこまでの関係になったんですか!」
「ま、付き合っているしね」
「へ?」
「あんた実は聞いていてこづえの真似でもしてんの?」
分かる、そういう反応になってしまうものなのだ。
彼女がおかしいだけ、つばさは堂々としていればいい。
「なーにをやっているんだよー!」
「しー流石に迷惑よ」
「ま、まさか一緒に寝ていたって……」
「期待していなかったんだけど凄く早い時間に起きちゃってさっきここに来たの、それでこづえが告白してきたって流れね」
想像でしかないけどここまで重ねられると期待してしまっていたかのように感じる。
いや待って、そもそもあのことを出してきたのはさやだから……。
「うっっそくさ!」
「はあ? なにがよ?」
「期待していなかったとかありえないねっ、だって積極的に抱きしめたりしていたのはさやさやでしょ!」
確かに。
「したくなるときがあったんだから仕方がないでしょ。あんただって恥ずかしがりながらも絶対にやるわよ」
「なんで告白は素直に受け入れられたのにそういうところでは素直になれないのさ」
「よく分からないわねー」
「よく分からないのはさやさやだよ!」
そうか、ここで彼女のあの言葉が大事になってくるわけか。
結局、好きだということは変わらないから細かいことはどうでもいいと。
「こづえーん、私とも一緒に寝てよー」
「ちょっと、流石にそれは駄目よ。フリーだったときと違っていまは彼女がいるんだから考えて行動してちょうだい」
「フリーのはずだったときからさやさやに邪魔されていて私は全く自由に行動できなかったよね」
話せるようになってからすぐだったから不満が溜まってしまっているのかもしれない。
「あんたよくそんなことが言えたわね、あんたなんて抵抗しないこづえに自由にやりすぎていたじゃない」
「でも、さやさやと違って抱きしめたりとかはできていないし……」
「好き同士じゃないんだから当たり前でしょ?」
「さやさやだって今日までは分かっていなかったじゃん」
「いや、こづえって結構露骨だったからね、それで不安にならなくて済んだわけだし」
か、隠せているようで全く隠せていなかったことが恥ずかしい。
「そ、そこは普通に教えてくれるんだ」
「そりゃ違うことを言ってもダサいだけじゃない」
「じゃあ期待していなかったというのは本心からの言葉なの?」
「そうよ、誕生日とかただ過ぎていくだけの日だったからね」
結局、話すことができないままでいるからどんな人達なのか分かっていない。
でも、お誕生日の件とかを教えてもらって考えてみたら結構……厳しいようなそうではないような、と。
「私はこづえが好きよ」
「おお、おめでとう」
「はは、ありがと。こづえのおかげであんたとも話せるようになったからよかったわ」
「ま、まさかそんなことを言ってもらえるとは……」
「だから言ったでしょ、あんたにだけ厳しいとかじゃないって」
そんな感じで朝からわいわい過ごして。
「ふぅ、疲れました」
何故か夕方頃になってさやのお家でやることになってしまったからヒヤヒヤした。
しかもさやのお母さんと一緒にやることになったから余計に、ただ、話してみても普通に優しい人だったからスッキリはしなかった。
「な~」
「にゃ~」
「さやさやはずるいね、こづえんも貰ったうえにこんなに可愛い存在達と一緒に暮らせているんだから」
彼女が飼うと言ってくれていなかったらサヤさんの方は外に帰すことになっていたかもしれないから感謝しかない。
「何回でも来ればいいじゃない、そうすればダブルコヅエとダブルサヤが迎えてくれるわよ」
「ぷふっ、な、名前だけは毎回笑いそうになっちゃうけど!」
「くっっそっ、むかつく顔ね」
わーとつばさが廊下に逃げて彼女と二人きりになった。
「ま、呼んでよかったわ」
「はい、三人でいられて嬉しかったです」
「あと、あんたの料理とかもよかったわよ」
「ふふ、ありがとうございます」
お母さんはサポートに回ってくれたから私が作ったと言えるのもいい。
そういうところでは親子で似ているな、そういう感想が出てきた。
「中途半端なところだけどこれからもよろしく」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
差し出された手を握って軽く上下に振る。
彼女は優しい笑みを浮かべていて、きっと影響を受けた私の表情も柔らかいものになっているはずだった。




