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人の流れに紛れるように、ふたりは並んで歩いている。
駅前のざわめき。
行き交う足音。
誰も、立ち止まらない世界の中で。
それでも。
隣にいる存在だけが、やけにくっきりと感じられた。
神代は、何気なく前を見たまま歩いている。
特別なことは何も言わない。
でも、その距離が、妙に心地いい。
肩が触れそうで、触れないくらいの間。
――昔と同じで。
――でも、何も知らないままの距離。
夕焼けが、ビルの隙間から差し込んでくる。
オレンジ色の光が、ふたりの影を長く伸ばした。
その影が、少しだけ重なる。
理由なんて、どこにもないのに。
神代が、ふと足を緩める。
それに合わせるように、私も歩幅を落とす。
自然に。
本当に、自然に。
まるで最初から、こうすることが決まっていたみたいに。
(――ああ)
胸の奥で、静かに何かがほどける。
思い出は、もうどこにも残っていない。
名前も、約束も、全部消えてしまったはずなのに。
それでも。
こうして、また隣にいる。
ゼロからじゃない。
きっと、どこかで続いている。
目に見えない形で。
言葉にならないまま。
(今度は)
一歩、踏み出す。
隣を歩くその人を、そっと横目で見る。
(ちゃんと、はじめから)
小さく息を吸って。
何も言わずに、また前を向く。
人混みの中で、ふたりの歩幅は揃っていく。
偶然みたいに。
でも、確かに。
同じリズムで。
(今度こそ)
願うように、心の中で呟く。
(“終わらない関係”になりますように)
その想いだけが、静かに残った。




