73話
夜。
ユイとレイカは帰った後。
家の中は、いつもの三人
静かな時間。
シエルがソファで本を読んでいる。
日本語の本だ。
「……ここ、難シイ」
「どこだ」
俺が覗く。
「漢字」
「……多イ」
「慣れだ」
「……頑張ル」
そんなやり取り。
その時。ピンポーン。
チャイムが鳴る。
全員の動きが止まる。
こんな時間に来る相手は限られている。
「……誰だ」
相棒が小さく呟く。
俺は立ち上がり、玄関へ向かう。
扉を開ける。
「……は?」
そこにいたのは見覚えのある顔。
短めの髪。ラフな格好。
どこか軽い雰囲気。
そして――ニヤッと笑う。
「『久しぶり』」
異世界の言葉。完全にそれ。
一瞬で分かる。
「……お前」
「『いやー、やっと見つけたわ』」
軽いノリ。間違いない。
「葵か」
「正解」
そのまま中に入ってくる。
「邪魔するねー」
靴を適当に脱ぐ。リビングへ。
シエルと相棒が一瞬で反応する。
「『……葵』」
「『おー、元気してた?』」
シエルが立ち上がる。
「……本当ニ、来タ」
「『来た来た』」
軽く手を振る。
そのままソファに座る。
「いやー、日本久しぶりだわ」
普通に日本語。
だが。
「『でもやっぱこっちの言葉の方が楽』」
すぐに戻る。
相棒が呆れたように言う。
「『相変わらずじゃな』」
「『そっちこそ』」
軽い掛け合い。
シエルがじっと見る。
「……何デ、ココ分カッタ」
「『勘』」
「雑だな」
俺が言う。葵が笑う。
「半分はな」
「もう半分は普通に情報集めた」
「こっち来てから、色々探ってたんだよ」
レイカの顔が一瞬浮かぶが、口には出さない。
「……戻ってきたのか」
「うん」
「最近な」
軽い調子だが、その目は少しだけ違う。
長い時間を経たやつの目だ。
シエルが少し前に出る。
「……会ッテナカッタ」
「『そうだなー、最後ぶり』」
「『何年だ?』」
「『数えんな』」
相棒が即答する。
葵が笑う。
「だよな」
そのままシエルを見る。
「……てか」
「普通に日本語喋ってるじゃん」
「……覚エタ」
「すげーじゃん」
軽く頭を撫でる。
シエルが少しだけ嫌そうにするが、避けない。
相棒が小さく言う。
「『懐かしいの』」
「『だろ?』」
葵が笑う。
そのままこちらを見る。
「で」
「どう?こっちの世界」
「平和だ」
「それな」
即答。軽い笑い。
だがその裏にあるものは同じだ。
「『向こうと比べたら天国』」
「『間違いない』」
短い会話。
十分すぎるほど伝わる。
葵がソファに深く座る。
「とりあえずさ」
「しばらくここいさせてよ」
「は?」
「いいだろ別に」
「面倒だな」
「今さらだろ」
即返し。
相棒が笑う。
「『増えたの』」
「『賑やかになる』」
シエルが小さく頷く。
「……ウン」
そのまま、空気が一気に変わる。
過去の仲間が、また一人戻ってきた。
それだけでこの場所は少しだけ――懐かしくなっていた。
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