49話
朝。
薄く差し込む光で、目が覚めた。
いつもより少し暖かい。
……いや、暖かいというか――
重い。
違和感に気づいて、視線を落とす。
すぐ分かった。シエルが抱きついていた。
腕を回されている。しっかりと、逃げ場がないくらいに。
顔もかなり近い。
寝息がかかる距離。
「……」
起きている気配はない。
完全に寝ている。
「『……離れろ』」
小さく言う。当然、反応はない。
相変わらずだ。
昔から変わっていない。
寝ている間、無意識に抱きついてくる癖。
何度もあった。
そのたびに引き剥がしていたが――力が無駄に強い。
今回も同じ。軽く動かそうとしても、びくともしない。
「……面倒だな」
そのままにしておく。
数秒後。
「……ん」
隣で動く気配。ユイが目を覚ました。
ぼんやりした目でこちらを見る。
そして完全に固まった。
「……え」
状況を理解するまで、数秒。
「え???」
声が一段上がる。
「ちょっと待ってください」
「なんですかそれ」
「見ての通りだ」
「見たままが分かんないんですけど!?」
ユイが起き上がる。
じっと見る。
「抱きついてますよね?」
「ああ」
「なんでですか!?」
「癖だ」
「癖!?」
その声で。
「……ん」
シエルが少しだけ動く。目をゆっくり開ける。
数秒、ぼんやりと天井を見る。
そして視線をこちらに向ける。
「『……朝か』」
「『離れろ』」
「『嫌だ』」
即答だった。
「なんて言ってるんですか!?」
「離れろって言ったら嫌だって」
「えぇ……」
ユイが困惑する。
シエルは特に気にしていない。むしろ少しだけ力を強める。
「『寒い』」
「『嘘だろ』」
「『本当だ』」
全くそんな様子はない。
ただの癖だ。
相棒が起きる。
状況を見る。一瞬で理解する。
「……やっておるの」
「やってるな」
完全に他人事だ。
ユイが訴える。
「普通なんですかこれ!?」
「普通ではない」
「ですよね!?」
「だが昔からじゃ」
相棒が淡々と答える。
ユイがさらに混乱する。
「昔からって……」
シエルがようやく少しだけ体を起こす。だが腕は離さない。
そのままこちらを見る。
「『問題あるか』」
「『ある』」
「『ない』」
また即答。ユイが小さく呟く。
「……強い人って自由なんですね」
「偏見だな」
「でも否定できないです」
そのやり取りの中で、シエルがようやく腕を離す。
ゆっくりと起き上がる。
「『……よく寝た』」
「『そうか』」
何事もなかったかのように言う。
ユイがじっと見る。
「……すごいですね」
「何が」
「距離感」
「気にするな」
「気にしますよ!?」
相棒が軽く伸びをする。
「朝じゃな」
「飯だ」
俺が言う。ユイが少し落ち着いてから笑う。
「なんか……」
「やっぱりいいですね、ここ」
「三回目だなそれ」
「だって本当なんですもん」
シエルがその会話を見ながら、小さく呟く。
「『賑やかだな』」
俺が短く訳す。
「賑やかだってよ」
「褒められてます?」
「多分な」
「また適当ですね!?」
朝の空気は、いつもより少しだけ騒がしい。
だがそれも悪くなかった。
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