42話
ギルド本部、奥の部屋。
空気は落ち着いたが、完全に緩んだわけではない。
レイカは腕を組んだまま、エルフの女を見ている。
「一ついいか」
レイカが口を開いた。
視線は真っ直ぐ女の方へ
「名前は?」
当然、通じない。
女は何も反応しない。ただ静かに見返すだけ。
ユイが小さく言う。
「やっぱり分からないですよね……」
「だろうな」
レイカは視線をこちらに向ける。
「お前たちなら分かるんだろ」
俺は少しだけ頷く。女の方を見る。
「『名前を聞いてる』」
短く伝える。
女は一瞬だけ目を細めてから、口を開いた。
「『シエル』」
そのままの音。静かに響く。
ユイが小さく復唱する。
「……シエル?」
俺はレイカに向けて言う。
「シエルだ」
レイカが小さく頷く。
「シエル、か」
その名前を一度だけ口にする。
「私はレイカだ」
通じないと分かっていても、言う。
シエルは少しだけ首を傾げる。
意味は分からないだが、名前を名乗っているのは察したのか、軽く頷いた。
ユイが少し嬉しそうに言う。
「ユイです!」
元気よく名乗る。当然、通じない。
シエルは一瞬だけ視線を向けて、また頷く。
「……なんか通じてる気がします」
「気のせいだ」
レイカが即答する。
俺は少しだけ補足する。
「こっちの言葉は無理だ」
「聞き取れてもいない」
「完全に別だ」
ユイが驚く。
「じゃあ今の会話って……」
「俺たちだけだ」
相棒が言う。
「通訳が必要じゃな」
レイカが小さく息を吐く。
「面倒だな」
「まあいい」
再びシエルを見る。
「敵じゃないなら問題ない」
その判断は早い。
シエルは静かにその場に立っている。だが、その目は周囲をしっかり見ている。
状況を把握している。
ユイが少し近づく。
「……あの」
シエルに話しかける。
「えっと……よろしく?」
当然、伝わらない。だがシエルは少しだけユイを見る。
そして、ほんのわずかに口元が緩んだ。
「……あ」
ユイが少し驚く。
「今、笑いました?」
「気のせいじゃろ」
相棒が言う。
レイカはそのやり取りを見ながら、静かに考える。
(言葉は通じない)
(だが意思疎通は最低限できる)
(そして、あの強さ)
ちらっと俺たちを見る。
(完全に同じ系統だな)
小さく笑う。
「いいだろう」
レイカが言う。
「シエル」
名前を呼ぶ。
通じないが、構わない。
「しばらくここにいろ」
「問題は起こすな」
シエルはじっと見返す。
意味は分からない。だが敵意がないことは理解している。
ゆっくりと頷いた。
ユイが少し安心したように息を吐く。
「よかった……」
その横で、相棒が小さく呟く。
「賑やかになるの」
俺も同意する。
「だな」
そしてシエルを見る。
昔と変わらない。
だがまた一人、戻ってきた。
それだけで十分だった。
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