32話
ギルド本部の一角。
レイカに連れられて奥まで来た俺たちは、そのまま広めのスペースに案内された。
床は硬い素材で、周囲には少し距離を取って立てるくらいの空間がある。
「ここは?」
ユイが聞く。
「簡易の訓練場だ」
レイカが答える。
「模擬戦や調整に使う」
その言葉に、周りにいた数人の冒険者がちらっとこちらを見る。
「レイカさん、何するんですか?」
「ちょっとな」
レイカは軽く槍を肩に担ぐ。
そしてこちらを見る。
「一度、見せてもらう」
「何を」
「実力だ」
シンプルだった。
相棒が少しだけ口元を緩める。
「ようやくか」
「ずっと気になってただろう」
「まあな」
レイカは正直に頷いた。
「ユイの話と、実際に見た動き」
「それがどこまで本物か、確認したい」
周囲の冒険者たちも少しずつ集まり始める。
「模擬戦か?」
「誰と誰だ?」
「レイカさんか?」
ざわつきが広がる。
ユイが少し慌てる。
「え、ちょっと待ってください」
「いきなりですか?」
「問題ない」
レイカは落ち着いた声で言う。
「軽くでいい」
そして槍を軽く構える。
「どっちが来る?」
相棒が一歩前に出る。
「妾が行こう」
そのまま刀に手をかける。
空気が変わる。さっきまでの軽さが消える。
レイカの目が、わずかに細くなる。
「いいな」
「来い」
ユイが慌てて後ろに下がる。
「ちょ、ちょっと本気じゃないですよね?」
「加減はする」
レイカが言う。
「そっちもな」
相棒は何も答えない。ただ、静かに構える。
次の瞬間。
――消えた。
ザンッ。
音だけが遅れて響く。
レイカが即座に槍を振る。
ギィンッ。
金属音。
刀と槍がぶつかる。
周囲の空気が一気に張り詰めた。
「……速いな」
レイカが小さく笑う。
「お主、もう少し抑えろ」
相棒が軽く言う。
「分かっておる」
言いながら、もう一歩踏み込む。
再び斬撃。
レイカが後ろに跳ぶ。
その動きも速い。
だが
「浅い」
レイカが言う。
「本気じゃないな」
「お主もじゃろ」
「当たり前だ」
レイカが笑う。
次の瞬間。
ドンッ。
床が鳴る。
レイカが一気に距離を詰める。
槍の突き。一直線。
だが鋭い。相棒が体をずらす。
紙一重で避ける。
そして。
ザッ。
懐に入る。
レイカの目が一瞬だけ開く。
「そこか」
槍を逆手に持ち替え、無理やり軌道を変える。
ガンッ。
再び衝突。数秒の攻防。
それだけで、周囲の空気が完全に変わった。
「……おい」
「今の見たか?」
「レイカさん押されてねぇか?」
ざわつきが大きくなる。
ユイは目を見開いている。
「え……」
その間にも、二人は止まらない。
だが。
「そこまで」
俺が声をかけた。二人が同時に止まる。
距離を取る。
レイカが息を吐いた。
「……なるほどな」
槍を肩に担ぐ。
「十分だ」
相棒も刀を納める。
「どうじゃ」
「予想以上だ」
レイカは素直に言った。
そして俺を見る。
「お前もやるか?」
「面倒だ」
「そう言うと思った」
レイカは小さく笑う。
周囲の視線が完全に変わっていた。
さっきまでの「誰だ?」という空気はない。
明らかに警戒と興味。
「なんだあれ……」
「レイカさんと互角って」
「新人じゃねぇだろ」
ユイがこちらに来る。
「すごすぎませんか!?」
「普通だ」
「普通じゃないです!」
レイカが横で言う。
「普通じゃないな」
そして周囲を一瞥する。
「こいつらは特別だ」
その一言で、空気が一気に締まる。
レイカは続ける。
「手を出すな」
「絡むな」
「無駄だ」
静かな声だった。だが、圧は十分だった。
周囲の冒険者たちは黙る。
レイカがこちらを見る。
「これでいいだろ」
「文句はない」
相棒が小さく笑う。
「悪くなかった」
「それはどうも」
レイカも笑った。
その目は、完全に楽しんでいた。
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