30話
ユイはソファに座りながら、どこか考え込むような顔をしている。
さっきの話が頭に残っているんだろう。
しばらくして。
「……あの」
ユイが少し遠慮がちに口を開いた。
「聞いてもいいですか?」
相棒が軽く頷く。
「構わん」
俺も特に止めない。
ユイは少しだけ安心したように息を吐いた。
「昔、戦ってたって言ってましたよね」
「まあな」
「それって……どんな感じだったんですか?」
曖昧な質問だ。でも、ユイなりに踏み込もうとしているのは分かる。
俺は少しだけ考える。
「普通だ」
「普通……ですか?」
「戦って、生き残るだけ」
ユイは少し首を傾げる。
「それだけですか?」
相棒が横から言う。
「それだけじゃ」
「それ以上でも、それ以下でもない」
その声は、少しだけ静かだった。
ユイは黙る。少しだけ、言葉を選ぶ。
「仲間とか……いましたよね?」
「ああ」
俺は短く答える。
「何人くらいですか?」
「覚えてない」
「え」
「入れ替わりが多かった」
ユイの表情が少し固くなる。
「入れ替わりって……」
「死ぬやつもいれば、抜けるやつもいる」
「新しく来るやつもいる」
淡々とした言い方だった。
ユイは少し言葉を失う。
「……」
相棒が続ける。
「長く続けば、そうなる」
「ずっと同じ面子ではいられん」
ユイは小さく頷いた。
「でも……」
「最後はどうなったんですか?」
少し間。俺は答える。
「最後のやつは生きてる」
ユイが少し安心した顔をする。
「そうなんですね」
「全員死んだわけじゃない」
「よかった……」
その反応に、相棒が小さく笑った。
「優しいの」
「普通ですよ」
ユイは苦笑する。それから少し考える。
「なんで、そんなに戦ってたんですか?」
「有名になりたいとか……じゃないですよね」
「違うな」
俺は即答する。
「生きるため」
短い言葉だった。
相棒も頷く。
「それだけで十分じゃ」
ユイは少し驚いた顔をする。
「それだけで……」
「世界も危なかったからの」
相棒がさらっと言う。
ユイが固まる。
「……え?」
「今なんて言いました?」
「別に大した話ではない」
相棒はあっさり流す。
「色々あったというだけじゃ」
ユイはじっとこちらを見る。
「色々って……」
俺は軽く言う。
「まあ、面倒だったな」
「いや、絶対それだけじゃないですよね」
ユイが思わず突っ込む。
レイカが横で小さく笑った。
「その反応が普通だ」
ユイはレイカを見る。
「だっておかしいじゃないですか」
「戦い続けて、仲間が入れ替わって、世界が危ないって……」
そこまで言って、少し止まる。
「……でも」
ユイはゆっくり息を吐く。
「二人とも嘘ついてる感じじゃないんですよね」
相棒が少しだけ目を細める。
「嘘は言っておらん」
「だが全部は話しておらん」
ユイは苦笑する。
「ですよね」
「でも」
少しだけ真剣な顔になる。
「それでもいいです」
「無理に聞きません」
俺は少しだけ視線を向けた。
「そうか」
「はい」
ユイは笑った。
「その代わり」
「少しずつでいいので、教えてください」
相棒がくすっと笑う。
「欲張りじゃの」
「だって気になりますし」
ユイは素直に言う。
レイカがその様子を見ながら、静かに口を開く。
「いい判断だ」
「え?」
「全部を一度に聞こうとするのは愚かだ」
「必要な分だけ知ればいい」
ユイは少し考えてから頷いた。
「……はい」
そのまま、また空気が落ち着く。
さっきより少しだけ、距離が近くなった気がした。
ユイはもう深くは聞かない。だが、完全に諦めたわけでもない。
少しずつ知ろうとしている。
それでいい。
俺たちも、無理に隠すつもりはない。
ただ――全部を話す必要もない。
それだけのことだ。
相棒が小さく呟く。
「変わったの」
「何が」
「こうして話すのも」
俺は軽く答える。
「そうかもな」
ユイがそれを聞いて首を傾げる。
「なんの話ですか?」
「気にするな」
「気になりますよ」
そんなやり取りをしながら、時間はゆっくり過ぎていった
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