122話
その日の夕方。
ユイとレイカはまだ家にいた。
特に用事があるわけではない。
気付けばそのまま居座っている。
最近では珍しくもなかった。
リビングではシエルが本を読み、相棒が紅茶を淹れている。
葵はソファに寝転がり景斗は棚を整理していた。
「ん?」
棚の奥から箱が出てくる。
かなり古い箱だった。
景斗自身も何が入っているか忘れている。
「何だそれ」
レイカが聞く。
「知らん」
「知らんのかよ」
箱を開ける。
中には何枚かの写真。
そして古い手帳。
小さな装飾品。
そんな物が入っていた。
ユイが興味津々で覗き込む。
「写真ですか?」
「ああ」
景斗も一枚取り出す。
その瞬間葵が吹き出した。
「あっ」
「何だ」
「懐かしいなそれ」
写真には数人の男女が写っていた。
異世界で撮影した物だ。
魔導具による写真。
日本のカメラと似たような技術だった。
ユイが写真を見る。
そして。
「……あれ?」
首を傾げた。
もう一度見る。
さらに近付いて見る。
「え?」
レイカも見る。
「は?」
二人の反応が同じだった。
景斗、相棒、シエル、葵。
全員写っている。
そして。
「変わってない……」
ユイが呟く。
本当に変わっていなかった。
服装こそ違う。
背景も異世界だ。
だが顔が同じ。
今と同じ。
一切老けていない。
「いや待て」
レイカが写真を奪う。
「これいつだ」
「三百年くらい前」
景斗が答える。
レイカが固まった。
「三百年?」
「ああ」
「三百年前?」
「ああ」
「見た目同じじゃねぇか」
「そうだな」
景斗は普通に頷く。
ユイが頭を抱えた。
「改めて聞くと怖いんですけど!?」
その反応は正しい。
普通の人間なら怖い。
写真に写る人間が三百年後も全く同じ姿なのだから。
葵が笑う。
「慣れる慣れる」
「慣れませんよ!」
即答だった。
相棒が紅茶を飲みながら言う。
「昔はもう少し幼かった気もするがの」
「誤差だろ」
景斗が返す。
シエルも写真を見ていた。
そして。
「若い」
「今と変わらんだろ」
「少し若い」
「気のせいだ」
実際、誤差程度だった。
レベルが高くなった頃には外見の変化がほとんど止まっている。
だから写真を見ても。
今との違いが分からない。
ユイが別の写真を手に取る。
今度は大勢で写っている。
景斗達以外の姿もあった。
「この人達は?」
その言葉に少しだけ空気が変わる。
景斗は写真を見る。
懐かしい顔。
戦士、魔法使い、神官、冒険者。
色々な人間が写っていた。
「仲間だな」
静かな声。
「昔の」
ユイも察したらしい。
それ以上は聞かなかった。
景斗は写真を眺める。
何十年も旅をした仲間。
酒を飲んだ仲間。
一緒に戦った仲間。
笑い合った仲間。
そしてもういない仲間達。
相棒も隣から見る。
「懐かしいの」
「ああ」
葵も起き上がった。
「この頃か」
「まだ俺が入る前だな」
「そうじゃな」
シエルも写真を見る。
知らない顔が多い。
それでもどの人物も笑っていた。
「楽しそう」
「楽しかったぞ」
景斗が答える。
辛いことも多かった。
戦争もあった。
死もあった。
だが楽しかった記憶も確かにあった。
ユイが小さく言う。
「皆さん、全然変わらないんですね」
景斗は少し考えた。
そして。
「見た目はな」
そう答える。
確かに顔は変わらない。
写真の頃と同じだ。
だが積み重ねた時間は違う。
失ったものも得たものも全て違う。
相棒が笑う。
「お主は昔から変わらん気もするがの」
「それはない」
「ある」
葵も頷く。
「あるな」
シエルも頷く。
「ある」
三対一だった。
景斗がため息を吐く。
ユイとレイカが笑う。
そして写真の中では数百年前の彼らもまた。
今と変わらない顔で笑っていた。
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