54話 怠惰の代行者
朝、目が覚め体を起こす。
なんか体が少しだるい。
日はすでに上っており少し熱い。
背伸びと欠伸をして朝ションに向かう。
「いや~、やっぱり朝起きた時の溜まりに溜まった尿を放出するときの快感サイコーだなー」
最後の一滴を出し終わると体が震える。
「ふぅ~、ってうお!?」
振り返るとメルティがいた。
「可愛いね」
可愛い?可愛いって俺の息子のことか!?
「何が?」
一応聞いてみる。
「ハル君の、ここ」
ご丁寧に指まで指してきやがる。
「そ、そうすか・・・」
「メルティーもしよ~っと」
メルティは履いているなんて言えばいいのかわからない服を脱ぎだす。
「ちょ、何してんの!?」
「え?おしっこ」
「昨日外でするの恥ずかしいとか言ってなかったか!?」
「恥ずかしいけど、ハル君になら見せてもいいかな~って」
「よくないに決まってんだろぉ!」
俺は走って逃げだす。
数分後。メルティは用を足したのかすっきりした顔で帰ってきた。
「おはよ~」
リリアが目をこすりながら起きる。
「はぁ、なんか疲れたー」
寝たばかりだというのにリリアは寝転がる。
だが確かに体がだるい。
正直立っているだけでもだるい。
「ハル君、今日も特訓するの?」
「特訓?だるいからしない」
「えー?だるいからって・・・」
メルティに少し睨まれる。
だってしょうがないだろ?
だるいものはだるい。
あー、だるいなぁ。
俺は地面に寝転がる。
あれ?俺なんで息してるんだろう。
息するのめんどくさいなぁ。
俺は呼吸をやめた。
徐々に苦しくなり始めるがそれもだるく感じる。
「ハル君!息して!死んじゃう」
メルティに叫ばれるが体が動かない。
メルティは俺に近づき人工呼吸をし始める。
「それでいいんだよぉ、息して生きるのはめんどくさいからねぇ」
一人の男が姿を現す。
髪はぼさぼさで服装も汚くボロボロだ。
「お前は、怠惰の代行者の・・・。名前なんだっけ?影薄いから記憶にないんだよね」
メルティはそういう。
怠惰、だと?
こいつも代行者なのか?
苦しい。息が・・・。
「あ!ハル君ごめんね」
再び人工呼吸が始まる。
苦しさはなくなったがやはり自分では呼吸できない。
こうなったら・・・。
手を何とか動かし口に当て空気を手から送り出す。
空気が肺に入り鼻から出ていく。
自分で呼吸できないならこうするしかない。
体がとてつもなく重いが何とか立ち上がる。
同じくリリアも苦しそうにしていたので近づいて空気を送り込む。
「すー、はぁ、すー、はぁ」
何度かリリアに息をさせ双剣を抜き痛いかもしれないが腕に剣を少し刺す。
魔術師殺しの剣。このだるさが魔術によるものなら効果覿面のはずだ。
だがリリアは息をしない。つまりこれは魔術じゃない。
「ハル君。無駄だよ。これは魔術じゃなくて異能なの」
「異能?」
「そう、異能は各代行者に一つずつあるもので私の異能は空間を歪める能力だね」
だから攻撃が当たらないのか。
「そうそう。異能。めんどくさいから単刀直入に言うけどメルティ、君は代行者を裏切ったってことでいいんだね?」
「うん。私は代行者を裏切った」
「だったら生かす価値はない。ここで死んでくれ」
怠惰は動かないまま何かを行使する。
「がっ!」
心臓が止まる。
まさか、怠惰の能力か?
だるさの極限にまでいたり思考が止まる。
「ハル君!!」
メルティは駆け寄ろうとしたが立ち止まり怠惰を見る。
「おい、今すぐ異能を止めろ」
地を這うような声で怠惰に言い放つ。
「嫌だね、直接殺してもいいんだけどめんどくさいから勝手に死んでくれ」
メルティも息ができないのか苦しそうに顔を歪める。
怠惰は立っているだけ。
メルティは呼吸が持つうちに怠惰を倒すため駆ける。
だが怠惰は立ったままだ。
「がっ」
体が動かなくなりメルティは地面に倒れる。
そうだった。こいつの異能は近づけば近づくほど効果が上がるんだ・・・。
メルティは思い出したがこの距離ではそれも意味はない。
「はぁ……。メルティが、こんな人間の男に現を抜かして死ぬなんて、本当に無意味で面倒だね……」
怠惰は重い足取りでハルトの元へ歩み寄る。
その足跡すら、地面が腐り落ちるようにどろりと沈んでいた。
「……、……」
ハルトの意識は、すでに真っ暗な闇の中にあった。
だが、その胸の奥で、メルティとの特訓で練り上げた魔力の火種が、微かに、けれど熱く爆ぜる。
「・・・!!」
俺は力を振り絞り立ち上がる。
立ち上がると同時に剣を抜き放ち怠惰の腕を切り落とす。
怠惰は顔を歪めるが叫ぶのもめんどくさいのか何も言わない。
俺は意識を失う前にメルティに空気の玉を送り出す。
メルティはそれを察したのか空気を吸う。
「任せて!ハル君!」
メルティは恐るべき速度で怠惰まで駆け抜け拳を振る。
拳が怠惰の顔に直撃しはるかかなたまで吹き飛んで行く。
距離ができたので怠惰の異能は解除される。
「「「はぁ、はぁ、はぁ」」」
三人は肩で息をして寝転がる。
「何とか、なったな」
「うん・・・」
こうして俺たちは代行者の襲撃を何とか乗り越えたのであった。
・・・
一方怠惰は・・・。
「いてててて。やられちゃったなぁ」
腫れた頬を擦り立ち上がる。
「このまま帰ったら憤怒君に怒られるかもなぁ。めんどくさいけどまぁいっか」
「はぁ、めんどくさい」
そう独り言ち、転移した。




