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転生した天才弁護士は口八丁手八丁で全てを乗り切る。俺は、魔王すら説得してみせる  作者: 虹の箸


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完全勝利

ただの孤児が、どうやって四大公爵家の息がかかった機密情報に辿り着くか?

それは前世で培った「弁護士としてのノウハウ」と、先の事件で得た「莫大な富」を使うのだ。

私はスラムの最深部、法も届かないマフィアのボスにスラムのコネを金を使いながらつたい、ようやく面会に漕ぎ着けた。


そして今、向かいの豪奢な椅子に座るのは、王都の裏社会を牛耳る闇組織の長、ドン・マルコ。顔に深い傷跡を持つ、凄みのある男だ。

「たかが浮浪者のガキが、俺に何の用だ? 随分と俺に面会するのに金をばら撒いたようだが、俺の貴重な時間を潰すような話を聞かせてみろ、お前は明日ドブ川に浮かぶことになる。ま、命が惜しけりゃ黙って面会料として金を置いてさっさと失せな」

葉巻の煙を吐き出すマルコに対し、私は前回の報酬の半分が詰まった重い革袋をテーブルに叩きつけた。チャリン、と黄金の鳴る乾いた音が響く。

情報ファクトを買いたい。豪商バルガスと、その背後にいるラインハルト公爵を繋ぐ、裏の金の流れだ」

「……あぁ?」

怪しみ、手下たちが一斉に武器に手をかける中、私は一切怯まず、心の中でスキル『説得力』を起動した。

「現在、あなたの組織は王都衛兵隊の度重なる摘発により、深刻な資金難に陥っているはずだ。この金があれば、衛兵の幹部を買収し、組織を多少なりとも立て直せる。さらに、私がバルガスを社会的に抹殺すれば、彼が牛耳っていた東区画の流通ルートが一つ空く。……賢明なあなたなら、目先のガキを殺したり、小銭を奪うより、私に協力して巨大な利権を得る方を選ぶはずだ」

嘘偽りのない事実とメリットだけを並べた完璧な論理。

それがマルコの警戒心と、魔力ゼロへの偏見をすり抜け、強制的な『納得』へと変換される。

「……くっ、くははは! 違いねえ。面白えガキだ。商談成立ディールといこうじゃねえか」

こうして私は、金と論理で闇組織の圧倒的な情報網を買い上げた。

特権階級の魔法使いは「魔法の結界」で金庫を守る事には執心するが、泥臭いスラムの住人が自分たちを監視しているとは夢にも思わない。闇の者たちの尾行により、事業を破綻させるためだけに作られた幽霊会社『黒蛇商会』の存在と、末端の経理担当者の身元が即座に割れた。

次に、商業ギルドの文書保管庫アーカイブに籠もった。

前世で何万枚もの裏帳簿や監査報告書を読み込んできた私の目から見れば、彼らがでっち上げた登記簿や発注書は、不自然な数字の羅列(矛盾)だらけだった。ペーパーワークを軽視する魔法至上主義の、決定的な盲点である。

そして仕上げだ。

私は、闇組織の手を借りて路地裏へ引きずり込んだ「黒蛇商会」の経理係に対し、帳簿の矛盾を突きつけ、スキルによる【司法取引】を持ちかけた。

『このまま口を噤んでいれば、詐欺の主犯として処刑台行きです。しかし、今ここで本当の送金記録を私に渡し、法廷で証言するなら、あなたを「脅されて従わされていた被害者」として法的に保護しましょう』

「バルガスを裏切れば殺される」という恐怖を、「真実を話さなければ確実に破滅する」という論理が上書きする。男は泣き崩れ、バルガスから大貴族の隠し口座へ金が流れたことを示す『本物の送金記録』を私に手渡した。

――全ては、敵の退路を完全に断ち切るための「事実ファクト」の弾丸を装填する作業。

そして、今日。

王都の中心に位置する、商業ギルドの『高等調停所』。

実質的な法廷であるその円形闘技場には、豪商バルガスと、黒幕であるラインハルト公爵が勝ち誇ったような笑みを浮かべて座っていた。

「さあ、始めようか。トーマス殿の破産手続きと、鉱山権利の譲渡調印式をな」

バルガスがせせら笑い、ラインハルト公爵は退屈そうに指先で炎を弄んでいる。

「異議あり(オブジェクション)」

私の声が、水を打ったように静まり返った調停所に響き渡る。

私は分厚い証拠書類の束をテーブルに叩きつけ、幽霊会社『黒蛇商会』の実態と、計画倒産のカラクリを白日の下に晒した。

「で、でっち上げだ! 公爵閣下、この無礼な平民を黙らせてください!」

顔面蒼白になったバルガスがすがりつくが、ラインハルト公爵は冷酷に言い放った。

「黙れ、バルガス。平民同士の汚い騙し合いに、私を巻き込むな。私は無関係だ。期日が守られなかった以上、鉱山の権利は私のものだ」

見え透いたトカゲの尻尾切り。

(……ここからが、私の仕事だ)

私は深く息を吸い込み、ラインハルト公爵を真っ直ぐに見据え、スキル『説得力』を最大出力で放つ。

「閣下。確かに、この巧妙な資金洗浄の手口から、閣下の直接的な関与を法的に証明することは不可能です」

あえて自分の限界(事実)を認め、嘘をつかないことで条件を満たす。

「しかし事実として、バルガスの口座を経由した莫大な資金の最終着地点は、閣下の隠し金庫です。もしこのまま強引に鉱山を差し押さえれば、閣下を政敵と見なす他の公爵家が『不当な横領』として一斉に牙を剥くでしょう」

公爵の指先から、炎が消えた。

「一介の商人の計画倒産に加担し、政敵に弱みを握られるとなれば、閣下の名誉は地に堕ちます。……逆に、今ここで『この豪商に騙されていた』と宣言し、彼を切り捨てれば、閣下の名誉は傷一つなく保たれる。さらに私共は、今後この鉱山から得られる正規の税収を、遅滞なく閣下へ納め続けることをお約束します」

「リスクを冒して不正を抱え込む」か。「商人を切り捨てて名誉と安定した税収を得る」か。

私が提示した完璧な論理が、強制的な『納得』となって公爵の脳髄を支配する。

「……見損なったぞ、バルガス。私を騙し、このような不正に手を染めていたとはな。この契約は白紙だ」

「か、閣下ぁぁっ!?」

後ろ盾を失い、闇組織と経理係の寝返りによってすべての証拠を握られたバルガスは、その場にへたり込んだ。

「……本件は、契約の無効、並びにバルガス氏の詐欺行為を認定する!」

調停官の木槌が鳴り響く。結審だ。

依頼人のトーマスが泣き崩れて私に頭を下げる中、私は崩れ落ちたバルガスを冷ややかに見下ろした。

魔法の炎一つ飛ばすことなく。嘘を一つもつかず。

スラムの闇と、たった一枚の書類、そして研ぎ澄まされた論理の剣だけで、私は圧倒的な力を持つ巨悪を斬り捨てたのだ。

(ああ……やはり、法廷は最高だ)

沸き上がる熱い余韻を噛み締めながら、私は小さく笑った。

魔法なき弁護士の、完全勝訴である。


お読みいただきありがとうございました。

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