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大英雄の修行旅、荷物持ちは最凶魔王  作者: 西奈 喜楽
第二章

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リトリュイーズ大公国王都日報

―――以下、リトリュイーズ王都日報社『リトリュイーズ王都日報』第七三二四号より抜粋

統天暦398年発


【王都発】

北方疎開指定地で大規模住民失踪

フェルンハイム町、数千人の行方不明を確認 軍・大公府が合同調査開始


 大公府および王国軍は昨日、北方地方の疎開指定地であるフェルンハイム町において、大規模な住民失踪事案が発生したと発表した。


 軍先遣隊が現地へ進入した際、町内から住民の姿が完全に消失していることが確認された。現時点で把握されている行方不明者は三千人から四千人規模に及ぶとみられ、身元確認作業が続けられている。


 失踪者には避難民のほか、行政官僚、貴族関係者、商人らも含まれている。


 革命紛争の影響による避難先として指定されていた同町は、これまで比較的安定した治安を維持していたことで知られていた。


 現地を取材した本紙記者によれば、町内に戦闘や略奪の痕跡は確認されなかった。


 住宅の扉は施錠されたまま残されている例も多く、食卓には配膳途中と思われる食事が放置されていた。暖炉には燃え尽きた薪が残り、一部住宅では調理途中の鍋や作業中の工具がそのままの状態で発見されている。


 また、町中央広場の石壁には血液とみられる赤色の液体によって巨大な文字列が記されていた。

 記されていた文言は、


 『独知之契』


 の四文字である。

 王立学術院は現在、この文言の由来および歴史的背景について調査を進めている。


 軍および大公府は現段階で失踪事件との関連性を断定していない。


 なお、本紙が複数の軍関係者および行政官に取材を行ったところ、一部関係者が著しく動揺した様子を見せた。


 ある官僚は「こんなはずではなかった」と繰り返した後、取材を中断。別の関係者は「聞いていた話と違う」「約束が違う」と発言したものの、その内容について説明を拒否した。


 大公府広報局はこれらの発言について、「個人の心理状態に関するものであり、公的見解ではない」とコメントしている。


 また、現地取材班の一部からは夜間に「女性の笑い声のようなものを聞いた」との報告も寄せられたが、軍は周辺地域における第三者の存在を確認していない。


 大公府は住民に対し、根拠のない噂や流言の拡散を控えるよう呼びかけるとともに、フェルンハイム町および周辺一帯への立ち入りを禁止する緊急措置を発令した。


────────────────────


【被害概要】


発生地:北方地方 フェルンハイム町

発覚日時:第九月二十四日 午前九時頃

推定行方不明者:三千~四千五百人

確認された死者:なし

確認された負傷者:なし

建造物被害:なし

戦闘痕跡:確認されず

主な発見物:『独知之契』の血文字

調査担当:王国軍・大公府内務局・王立学術院


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【判明している経緯】


第九月二十一日

町との定期連絡を最後に通信記録が途絶。


第九月二十二日

補給隊到着。

町外縁部に異常なし、応答は得られず。


第九月二十三日

軍偵察隊が進入。町内の無人状態を確認。


同日夜

中央広場にて血文字を発見。


第九月二十四日

大公府が事案を公表。合同調査本部を設置。


────────────────────


【周辺住民の証言】


北方農村在住・男性(六十二)

「市場で見かけたのは四日前だった。皆いつも通りだった。そんなことになるようには見えなかった」


街道警備員(四十一)

「夜明け前に妙な静けさを感じた。鳥も鳴いていなかった気がする」


宿屋経営者(五十三)

「避難民も多かったが、町は落ち着いていた。盗賊や暴動の方を心配していた」


羊飼いの女性(二十七)

「何日か前から、小屋から出たがらない家畜がいた。理由は分からない」


────────────────────


【現地記者手帳】

 本紙取材班が町へ到着した際、最初に感じたのは静寂だった。

 町並みそのものに異常は見受けられない。

 風車は回り、洗濯物は干されたまま揺れていた。

 しかし、人の姿だけがなかった。

 広場周辺では複数の軍人が警備に当たっていたが、取材への応答を拒否する者が多かった。

 血文字の周辺には乾いた鉄臭が残っていた。

 また、夜間取材中に同行記者一名が「女性の笑い声を聞いた」と申告した。

 ただし、他の記者および軍関係者は同様の音を確認していない。


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【大公府発表】

・住民避難命令の発令記録なし

・感染症発生報告なし

・周辺国軍の侵入確認なし

・魔物被害報告なし

・原因調査継続中


────────────────────


【編集部註】

 フェルンハイム町は革命紛争の激化以降、北方主要疎開地の一つとして運用されていた。

 農業生産力に優れ、軍事目標としての価値が低いことから、多くの避難民を受け入れていた経緯がある。

 現時点で事件性を示す確たる証拠は確認されていない。

 一方で、町一つが住民ごと消失した事実は極めて異例であり、近年の国内史に類例を見ない。

 王国軍、大公府、王立学術院による合同調査が進められているが、その全容はいまだ明らかになっていない。

 調査結果が待たれる。

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