34 プレゼント
多少のドッキリはあったものの、駅に着いて降りた。
それから駅から近い、ほどほど大きい書店に寄った。
好きな著者、作品の新刊が出たら書店へ行く。
いつの間にか日課というか、習慣になってしまった。
お互い、喜びを分かち合いたいからかな。
その場で熱く語り合ってしまうのだ。
「聖君! この人ね、新人なんだけど、独特の視点でものを書くから最近評判なんだよ!」
「那子! これは大御所作家が1年振りに書いた大作、待望のベストセラーだぜ!」
このように、それぞれ興奮しながら自分の収穫を語り合う。
これはこれで、すごく楽しいのだ。
「那子、全部買ったか?」
「うん。 じゃあ、そろそろお昼だし、どこに行く?」
「ファミレス、とかでいいか?」
「いいよ。 確か、近くにあったよね。」
そんな流れで、徒歩ですぐのファミレスで昼食。
そこでもまた、本のトークは終わらない。
料理が来るまで、話が終わらなかったくらいだ。
ノンストップ状態である。
それから、食後のデザートのパフェを食べていた那子に、俺は言った。
「よくそんな、甘いもの食えるよな」
俺は甘いものが嫌いではないが、苦手なのだ。
糖分なら、スイーツなどの甘いものでなくとも、他のもので補えたりできるしな。
「甘いものが無ければ、人間生きていけないんだよ」
「大袈裟な」
「本当だってば! 糖分は脳のエネルギー源なんだからね!」
そう言った那子の口元には、クリームがついていた。
これは、意図的なのだろうか。
天然を偽っている女子や、可愛い子ぶってる女子ならそうするだろうが、那子はそんなことはしないだろう。
本物の、天然だから。
「那子、口」
「え?」
俺は親切に、自分の口を指差して、那子の口元にクリームが付いていることを教えた。
那子は紙ナプキンで口元を拭った。
期待した人は、俺が、那子の口元のクリームを舐める。
または、そのクリームを指で掬い取って、ぺろりと舐めるだろう、と思っていたのだろうか。
そんなことを、俺はしない。
するわけが無い。
つーか、出来ない。
「恥ずい……」
那子は、恥ずい、って言うのか。
やばい、かわいい。
「これから、どうしようね?」
「……そういや、決めてないな」
いつもアバウトだったしな。
その場のノリで何とかなるって感じだったし。
「聖君は、行きたいところって、ないの?」
「CDショップとか…?」
「よし、行きましょう」
「おぉ、いいのか」
「音楽はあんまり聴かないんだけどね、聖君がどんなの聴くのか知りたくて」
やっぱり、那子が最近、積極的だ。
何か、心境の変化でもあったのか?
―それとも、何かあったんだろうか。
これは、……考えすぎか。
杞憂もいいところだ。
その後は、プラネタリウムの時間まで、ウィンドウショッピングをした。
高校生の小遣いなど、バイトなど、していないのだから、高が知れている。
CDショップにも行ったが、結局買うことは無かった。
それから、お手軽で、安い値段で買えるアクセサリーショップに立ち寄った。
安モンだけど、気持ちがこもってれば、いいはずだろう。
軽い気持ちで入店したのだった。
しかし、那子曰く、アクセサリーを異性にプレゼントするときは、ちゃんと考えてあげた方がいいだの、何だの。
色々と気をつけたほうがいいだの、云々。
那子に、アクセサリーをプレゼントするときの注意をされまくった。
いや、何か斎条の受け売りらしいけど。
那子に、色々と教えてもらった。
そして、それを踏まえての発言だった。
「那子、指輪を買ってやろう」
「聖君さ、人の話聞いてた?」
「ばっちり」
「嘘だよ、そんなの」
怒られた。
軽く怒られたと思ったけど、軽くどころじゃなかった。
何か雰囲気が重かった。
おかしいな。
何がいけなかったんだ。
「じゃあ、ネックレスは?」
「いいの?」
那子の顔が綻んだ。
とりあえず、よかったけど。
ネックレスは、いいのか?
ネックレスは良くて、指輪はダメなのか?
「じゃあね~」
と言って、ネックレスが飾ってある棚とかガラスケースを眺めて、那子は品定めをしていた。
やっぱり、女子はこういうのが好きなのか。
那子も女の子だしなぁ。
今時の女は、ませてるよな。
「聖君は、どれが似合うと思う?」
「ん? あぁ、そうだな~……」
俺は不良と言われていた身だけれども、不良ではない。
ピアスとか付けてたわけじゃないからな。
それに、元々センスはない。
耀は何か、ジャラジャラと付けてたときもあったなー。
「じゃあ、これは?」
と言って、指差したネックレスは。
星を模った、小振りなネックレスだ。
星は星でも、流れ星である。
でも、那子の反応はどうだろうなぁ。
似合うとは思うんだけど。
「ちゃんと選んだの?」
「選んだ」
「似合うと思う?」
「付けてみるか?」
俺はそのネックレスを手に取り、那子の後ろに回って、ネックレスを付けた。
何か、那子に疑われているような気がする。
ちゃんと選んだし、似合うと思ったし。
考えたんだけどなぁ。
那子はネックレスを付けた自分を、鏡を通して見た。
果たしてその反応は……!?
「聖君が言うなら、いっか」
ご満悦。
満面の笑みがここにある。
どうやら、そのネックレスは気に入っていただけたようだ。
よかった。
ネックレスのお値段は3,500円。
まぁ、これぐらいなら……、大丈夫なはず。
お財布的に。
レジに行って、ちゃんと紙幣を払って買った。
まぁ、クリスマスプレゼントってヤツだ。
普段より奮発した方である。
「聖君にも買ってあげようか?」
「いや、いいよ。」
結婚したら、エンゲージリングとか買うだろ。
そう言うと。
「だから! そういうことを、軽く言ったらダメでしょう!?」
何故だ。
怒られた。
聖の方が意外と天然なのかもしれない。
恥ずかしいことを、平気でやってのけてしまう。
きっと、それは天然だからなんだろうね。




