35 好きになってくれて、
店から出て、プラネタリウムへと向かった。
プラネタリウムは16時に上映された。
説明もあったけど、そんなのは真面目には聞かない。
散らばってる星を、ただ、ただ、眺めていた。
それから、上映の途中で、突然那子が話し始めた。
「お父さんね、天文学者になりたかったんだって」
「なりたかった……?今は?」
「今は、旅行関係の仕事かな」
何か、いきなりディープというか、反応に困ってしまう質問をされてしまったな。
まぁ、那子の思い出の場所っていうか、そんなところだし。
そんな話をしたい気分なのかもしれない。
「天文学者って、なるまでが大変だし、なってからも手探りって感じじゃない?」
これは私の見解なんだけどね。と言った那子は、いつもと違い、
真剣味でも帯びているかのような顔付きだ。
そんなことを聞かれても、俺には分からないんだけどな。
それは那子も察しはついているようで、勝手に話を進めていく。
「お父さんもそれは分かってたから、今は違う仕事をしてるんだけど、昔は夢だったんだって。
だけど、それも夢でしかなくて、現実とは違うからね。
ずっと星とか宇宙に、憧れっていうのかな、そんな感じで、いつか宇宙に行ってみたいとかね。
だったら宇宙飛行士でも良かったんじゃないの、って聞いたら、
自分の力で宇宙を開拓したかったんだ、って言ったの。」
そこで、那子は一呼吸置いた。
手に持っていた缶ジュースを一口飲んで、また、口を開いた。
「でも、やっぱり現実は厳しくって、結局、夢を諦めたんだって。
親の反対もあったのね。
でも、お父さんは今でも宇宙にはロマンとか、持ってるの。
大人にもなってそんなこと、って思うけど、でも、それはそれで、いいのかもね」
そう言って、那子は俺を見て、微笑んだ。
「私もお父さんに似て、夢、見てるのかも」
「何を?」
「お父さんみたいに宇宙には別段、興味は無いし、夢っぽい夢じゃないんだけど」
それでも、夢は夢でしかなくって。
それは叶わなかったら、夢でしなくって。
現実にならなかったら、夢でしかなくって。
誰でも夢は見るけど、見るだけで。
私も夢は持ってるけど、持ってるだけで。
夢が叶う人は、一握りの人間だけで。
「初恋は実らないって言うよね」
「あぁ……、そうだな」
「でもね、人が心から恋をするのって、一度だけで、それが、初恋なんだって」
「…………」
「どっちも、誰かが言った言葉なんだろうけど、どういうことなんだろうね?」
分からない。
俺はそう答えた。
そう、答えることしか、出来なかった。
那子の夢は何か、それは聞き出すことは出来なかったけど。
那子が最後に話したことと、繋がりとしては、きっと、関係があることなんだろうと。
そう、思うことにした。
「私ね、プラネタリウムに来ると、色々と考えちゃうの」
自分はここにいるけど、宇宙から見ると、この星みたいに小さいんだろうな。
自分という人間は存在しているんだけど、どれほどの人が私を認識しているんだろうか。
お父さんは出張中で家にはいないけど、私のことを考えてくれていると、
愛されていると感じていいのかな。
この世界は一つしかないけど、他の世界というものはあるんだろうか。
私のことを好きって言ってくれる人は、どれくらいいるのかな。
―私は、誰かを好きになることがあるんだろうか―
「とか、ね」
周りがパッと、明るくなった。
『上映は終了致しました。 ご来場、ありがとうございました』
アナウンスが聞こえ、座っていた人たちが外へと向かう。
「私達も、行こっか」
「……ん」
外は、寒かった。
風こそ吹いてはいなかったが、寒かった。
もう、冬だ。
「お腹空いちゃったなー、マックでいいよね?」
「あぁ、そうだな……」
那子はさっきとは違い、笑顔だった。
帰り道。
デートも、もう終わりだ。
そろそろ、学生が外に出る時間ではなくなる。
ムードも何も無い、普通の住宅街を、学校帰りのときのように、歩く。
そんな、帰り道。
「ごめんね。 プラネタリウムのとき。いきなりあんなこと言われたら、困るよね」
「いや。那子が普段、そんなこと考えてるとは思わなかったから。
少し驚いたけど、那子のこと、知ることができて、良かった。」
「何か、色々カミングアウトした、って感じだけどね」
でも、本音でもないんだ。
思っただけ。
そう言った那子は、少し寂しそうな、悲しそうな、顔をした。
話している間に、嵐家に着いた。
楽しかった時間も、終わりだ。
「送ってくれて、ありがと。楽しかった」
「あと、さ」
「ん?」
「は、初詣!行かないか?」
「初詣?」
終業式の日、峰に誘われたから、那子にも言っておかないと。
と、いうわけで、今、言った。
タイミングとしては、悪いかもしれないけど。
「峰に誘われたんだ。斎条とか、呼んでさ」
「あぁ、いいね。誘っておく!」
「じゃあ、今度、また連絡する」
「うん。」
「それから」
返事を聞いてから、俺は鞄に入ってたUSBを取り出して。
「これ」
と言って、那子に渡した。
「何?」
「できたんだ、小説」
素人が書いた小説だけど、と付け加えた。
「え?」
那子は驚いた顔をした。
そう。
そのUSBには、俺が頑張って書いた小説が保存されているのだ。
「本当に?」
「うん」
「できたんだ?」
「そう、です」
「…………」
「だから、見て、ください」
「わ、かりました」
お互い、歯切れが悪いな。
タイミングが悪かったのか?
「私、本当に聖君が、その、小説書いてくるとは、思わなかった」
「え、何それ?」
「いや、あの、だって、私、元々冗談で言ったことだったし……」
別に、期待してなかったわけじゃ、ないけどね!
と、那子は弁解したけど。
何だかな。
ちょっと、那子、酷くないか?
俺、結構真剣だったのに……。
「…だから、あの、那子」
「はい?」
「俺と、付き合うこと、考えておいて、ください」
「うん」
那子は笑顔で返事をしてくれた。
何か、ちょっと、ほっとした?かもしれない。
「それじゃあ、見ておくね。見終わったら、連絡するから」
「おぅ」
「またね。プレゼント、ありがとう。それから」
好きになってくれて、ありがとう。
そう言って、那子は家の中に入っていった。
那子だって、色々と、たくさんのことを考えているんですよ。
でも、聖が何だか奥手に見えてきたな。
本当の聖はへタレなんだ。
色々と歯切れが悪いなぁ。
しかも、これ、初デートだよね?
重い、思いが重いなぁ。




