22 君と僕がすれ違うまで…
ガラッ―…と、戸が開いたのはわかった。
だが、そこに『不良』として怖がられていた人物が立っていることを、誰が想像していただろうか。
戸の前にいた人物―永野 聖…。
その場にいた全員が、一時停止…といった状態になった。
「な、永野も裏方だもんな! どっか、まだ作業終わってないトコあるー!?」
僕は永野の近くに歩み寄りながら、周りに声をかけた。
そうでなければ、皆は永野の存在を“無視”するだろう。
何故なら、誰も『不良』と呼ばれる人物に、近づこうとはしないからだ。
だけど!
僕はクラスの中心的存在でありながら、皆に頼られている。
所謂、ムードメーカー且つしっかり者の称号を得た人間だ。
この場を和ませるには、僕―峰 守の存在は必要不可欠なんだ。
しかし、僕の問いに、周りは答えなかった。
一人一人が、隣とヒソヒソと話す声しか、聞こえなかった。
「じゃあ、僕がいるトコ、あんまり進んでないんだよね! 僕以外、働いてくれなくってさー!」
この言葉に、僕がいる看板作りのメンバーが気を悪くしたらしい。
まぁ、悪ノリみたいな感じだけど…。
「何を~ぅ!? お前だって、さっき『僕は貧乳派だ』とか言ってたくせによー!」
「そこは無難に巨乳だろっ」
「お前ら、どんな話してんだよ~!」
さっきまでの緊迫した空気が和んできた。
良かった、良かった。
まぁ、僕にしてみれば、簡単なことなんだけどね!
ちなみに僕は貧乳が特別好きなわけではない。
…って、そうではなくて!!!
その場にいた皆は、自分の作業へ取り掛かった。
まだ永野聖のことを気にしているようだったが…。
「よし、とりあえずレタリングだな! まだ途中だし…」
「あれ、面倒なんだよなー。」
「色塗るだけなら、簡単なんだけどなー」
君ら、数日っていうけど、あと2日だからね!
2日で完成させないといけないんだからね!
わかってんのか!?
「…で、どうすりゃいいんだ?」
おぉっ!
今まで黙っていた不良王子が喋ったぞ!
つーか、何で皆凍結してんだよっ!
「まぁ、イメージとしてはこれなんだよね~」
完成図を描いた紙を永野に渡す。
看板のイメージとしては、縦で壁に立て掛ける様な感じ。
店の名前は『喫茶 ONOGUCHI』。
誰だ、店の名前考えたの。
担任の名前じゃねぇか!
センスねぇな!
ついでに言う。
一人ツッコミは空しい。
俺がそんなことを思っている内に、永野はその場にしゃがみこんだ。
近くにあった鉛筆を拾い、看板に淡々と線を描いていく。
「お、永野うまいじゃん」
「どっかのエロ好きとは違うな」
「テメェ、それは俺のことかっ!」
案外うまい。
全部等間隔だし、文字の大きさも工夫とかあるけど、ほぼ同じ。
レタリング作業は、永野だけで5分もしなかった。
「早っ! うまっ! すごっ!」
「字、キレー!」
と、口々に永野を褒め称えていく。
さっきの緊迫した表情はどうしたんだ。
「あのさ」
「え、何…!?」
いきなり永野に話しかけられた僕は、かなり驚いた。
なぜかは、自分でもわからない。
何なんだ、僕。
「ここの色、変えた方が全体的にスッキリすると思うんだけど…」
「あぁ、そこね。 どんな色だったら良いかな?」
「ミントグリーンとか薄い色の方がいいんじゃないか?」
「そうだな~。 そしたら、ここの色も変えたら良くなると思うな~。」
…って、案外フツー。
何この人、本当に不良?
でも、不良って結構優しいって聞くけど…。
な、なんなんだ!
コイツの正体は一体、なんなんだ!?
―そして、放課後…
「いやぁ、永野のお陰で、看板も完成したよ~」
「別に…。 俺は何もしてない」
「永野がいなかったら、確実に今日中に完成していなかった!
皆、永野がいたからやる気が出たんだって!」
「峰が気ぃ使って、頑張ってたからだろ。」
「そんなことないって~!」
…なんて口では言ってるけど、やっぱりそうなのかな。
って、思ってしまう。
自惚れてしまうのは、悪い癖だ。
そんな自分がどうしても×××―…。
「じゃ、俺こっちだから」
「あ、そうなんだ。 それじゃあ、また明日な!」
「あぁ…」
永野は俺に背を向け、飄々と去ってしまった。
僕と永野の出会いなんか、高が知れている。
ただ、同じクラスになったというだけだ。
だけど、同じクラスだと知る前から、僕は永野聖のことを知っていたんだ…。
新キャラ登場です。
峰くんです。
耀よりはウザくないけど、ウザキャラ要員かも…。
聖がちょっと変わる、人物になり得る人物…?www




