35話 心残りは叶えてもらったもの
「アウレリア様……心残りなどありませんか?」
「随分と踏み込んでくるのね」
聞きたくて小さく口を出た言葉は、冷たい口調で断された。鋭い視線に冷や汗が出る。私は、許してほしくて頭を下げた。
「す、すみません……!」
「……知って貴女に何か関係ありますの?」
謝っても、追及の言葉が上乗せされる。でも、声に先ほどの冷たさはなく、これは責め立てられてるのか、ただ単に疑問に思っているだけなのか測りかねた。
私に関係あるかって、大いにある。私どころか国の命運は貴女にあると言ってもいい。だから、心残りなく嫁いでほしいと思う。嫁いだ時に幸せであれば、死ぬことはないだろう。私は、最後だけを彼女に伝えた。
「いえ……でもアウレリア様が嫁いだ時に、幸せであってほしいと思ったのです」
私の言葉にアウレリア様は目を見開いてから、ふわっとした柔らかい笑顔を浮かべた。
「ふふ、安心してちょうだい。心残りはフィルに叶えてもらったもの」
アウレリア様の声色は悲壮なものではなく、芯があって強さを感じるものがあった。何も心配いらないと自分に言い聞かせてるようにも聞こえた。
フィリップ殿下に何を叶えてもらったのだろうか? その願いが塔から飛び降りた原因なのだろうか? 詳しく聞きたい。でも、彼女にこれ以上聞くのは気が引けた。内容を詳しく聞いても不振に思われるだろう。もしかしたら仲が悪くなる可能性もある。まだ全く全容が見えてないのにそれはまずい。
だから、私は「そうですか」としか返答ができなかった。
「ライオネルとはどう?」
「どう、とは……?」
話が終わってこのまま去ろうか考えているとアウレリア様からライオネル殿下について振られた。でも、何を応えればいいのかわからず、瞠目する。
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