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執事の審判──『忠誠と欲望の間で』

── 勝利とは何か。正しさとは何か。

それを語る資格があるのは、勝者か、敗者か。


私は今日、答えを出すために立つ。

他でもない自分自身の問いに対して。


私は構えを崩さぬまま、彼の動きを注視していた。


無理もない。私にとっては、もはやルーチンワークのようなこの姿勢も、彼にとっては一歩踏み込むだけで命を賭ける博打に等しいのだろう。サンゼールの両脚は、氷の上を這うように微かに震えていた。恐れではない。彼なりの覚悟を、足元がかすかに代弁している。


だが、その決意とやらが私の殺気に飲まれかけているのも、また事実だった。


機会を伺っているというより、打ち込めないでいる——そんな風に見えた。


「……」


私の目が細くなる。ならばと、ほんのわずか、視線を逸らしてやった。庭園の向こう、風に揺れる白薔薇の群れへ。


その瞬間だった。


音もなく、彼の靴音が芝を踏みしめる。踏み込み、跳ねる。ためらいを削ぎ落とした決意が、拳となって私の腹部を狙っていた。


間合いは完璧、角度も悪くない。だが――甘い。


私は静かに身を翻す。あらかじめ読んでいた角度へ半身を切り、左手で彼の拳を受け止め、ねじる。


「っ……!」


驚愕に目を見開いたサンゼールの鳩尾に、私はためらいなく拳を叩き込んだ。


強烈な衝撃が、肉と骨を通じて私の腕に返ってくる。鈍い呻きとともに、サンゼールの身体が地を這うように崩れ落ちた。


「……痛いですか?」


問いかけは穏やかだった。私は近づき、うずくまる彼の肩に手を添える。


「ですが、あなたが私に挑むと宣言したのです。ならば、それなりの覚悟で来ていただきたい」


顔を上げたサンゼールの目は、苦悶と共に、わずかな屈辱の色を滲ませていた。彼の中で、理想と現実が乖離しはじめている。


「あなたの一生を賭けて戦うのですからね」


私は優しく微笑む。


「……ギブアップ制にしてあげましょう。万が一、立てなくなったら、声を出して降参してください」


皮肉でも、慈悲でもない、ただの提案。微笑んで、私はそう付け加えた。


彼の拳が震えているのがわかる。悔しさか、それとも痛みによるものか。だが、構わない。


彼が愛を口にし、彼女の隣に立とうとする意志。それ自体を、私は否定していない。ただ——この戦いにおいて、それが私を上回る理由にはならないというだけのことだ。


彼の肩越しに、観客たちのざわめきが聞こえる。ティタ嬢、アトラ、イワン、男爵様、伯爵——そしてアポロ。


私は彼らを見ず、視線を静かに落とし、再び構えを取る。


「立てますか?」


問う声は、どこまでも丁寧に。


けれどその実、私は今、この庭園の誰よりも——彼を徹底的に叩き伏せる覚悟を、すでに決めていた。

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