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【ティタ視点】闇に射す光──『想いはどこへ還るのか』

──運命とは、些細な偶然が積み重なった残酷な必然だ。


拾わなければよかった、知るべきではなかった──それでも私は選んでしまった。


バリガの隙を突いて、私は必死に書斎から逃げ出した。


心臓が狂ったように鳴り響き、足元が定まらない。重い絨毯の敷かれた廊下は、夜の静けさに満ちていたが、私の焦る足音が不自然に大きく響いているようだった。


屋敷の薄暗い廊下を抜けると、ようやく玄関ホールが見えた。その扉の向こうには自由がある。


その安堵感に胸が一瞬ほっとしたが、それはすぐに凍りつく。


扉の前に、数人の男たちが無言で待ち構えていた。表情の見えない顔が、薄暗い照明の下で不気味に私を見つめている。足がすくみ、動けなくなった。視界が滲んで、震える唇から小さく悲鳴が漏れた。


逃げ場を探そうと後ずさった瞬間、背後に人の気配を感じ、心臓が止まりそうになる。


「残念だな、ティタ嬢。逃げられるとでも思ったのかね?」


振り返ると、そこには穏やかで紳士的だったバリガが、今はまるで別人のような冷酷な笑みを浮かべて立っていた。


「それを返してもらおうか」


低く囁くような声で言われ、私は胸元に強く帳簿を抱き締めた。バリガの冷たい視線が私の手元に注がれる。逃げることも抵抗することも許されない状況に、絶望が胸を満たしていく。


「ゆ……許してください……」


情けなく震える声で懇願すると、バリガは口元を歪めて冷笑した。


「許す?残念だが手遅れだ。お前は最後の亞片を吸わせて、遠い外国へ売り飛ばすつもりだよ。せっかくだから最後に、素敵な夢でも見させてやろう」


その言葉に、全身から血の気が引いていく。まるで闇が私を飲み込んでいくようだった。


「嫌……!お願いです、許してください……!」


涙が頬を伝い、視界をぼやけさせる。だがバリガの表情には一片の慈悲も見えなかった。


「泣くなよ、嬢ちゃん。なあに、あの世でアポロと再会できるさ」


彼のその一言が、私の胸を深く抉った。希望が完全に砕け散り、何もかも終わりだと悟った。


その瞬間に頭に浮かんだのは、胸の奥底でずっと私を支えていた、あの人。


私は涙を拭うこともせず、声を振り絞った。


「助けて……サンゼール!」


その瞬間、玄関の重厚な扉が音を立てて蹴り破られた。埃の舞う中から、一歩ずつ進み出てきたのは、私が呼んだその人だった。


静かに、確かに、その瞳は私だけを見ていた。


「……遅くなりました、お嬢様」


その声に、私は初めて希望という名の感情で泣いた。


サンゼールの瞳にははっきりとした怒りが宿っていた。彼の背後に控えるクロードとイワンの姿も、涙でぼやけた私の視界に少しずつ鮮明に映る。


クロードは静かに、だが明らかな苛立ちを滲ませてバリガを睨みつけている。イワンは緊張した面持ちで周囲を見渡し、体を震わせながらも、懸命に私を守ろうとしているのが伝わった。


「貴様ら……」


バリガが苛立ちを隠さず舌打ちした。彼の部下たちは戸惑い、突然の状況変化に足を止めている。


「私に逆らって無事で済むと思っているのか?」


サンゼールは、そんな脅しにもまるで動じなかった。彼の瞳には静かな決意と覚悟が宿り、それは言葉よりも雄弁だった。


「あなたにどう思われようと構いません。我々はただ、お嬢様をお守りするだけです」


その言葉には一片の迷いもなく、私はその強さに胸を打たれた。こんなにも確かで、信頼できる人が私の傍にいてくれたのだと、心の底から感謝がこみ上げてくる。


涙で震える唇を噛み締め、彼に向かって小さく頷いた。


もう恐れることはない。この人たちが私を支えてくれるなら、きっとこの闇を乗り越えられる。

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