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午後の決闘──『茶葉の数だけ誇りがある』

──勝負というものは、えてして最初から公平ではない。


伯爵邸に戻ると、広間のソファにぐったりと倒れ込む男爵様の姿があった。胃袋よりもむしろ精神が限界に達しているように見える。よほど伯爵の武勇伝は長大だったのだろう。


「ああ、クロード……君が羨ましいよ。街は楽しかったかい?」


男爵様の声は、もはや生気を失っていた。まるで数年間の長旅から戻ったかのような疲れ果てた様子である。


「ええ、とても良い贈り物を見つけましたよ。男爵様にも後ほどご覧に入れましょう」


穏やかに答えると、男爵様は悲しげな瞳で私を見上げ、重々しくため息をついた。


そこに、満面の笑みを浮かべた伯爵が堂々と現れた。その後ろにはサンゼールが控えている。伯爵は、まるで狩りを前にした猟犬のような興奮を隠そうともせず、得意げに口を開いた。


「さあ、いよいよ勝負の時だ。お互いの執事がベルフォード侯爵夫人をアフターヌーンティーでもてなし、どちらが夫人を満足させるかで競い合うことにした。もちろん先行は我が執事、サンゼールだ」


伯爵は明らかにこちらを試すような表情を浮かべ、挑発するように視線を向けてきた。


男爵様は慌てて起き上がり、やや抗議の声を上げる。


「おいおい、それはちょっと不公平じゃないか? 後攻の方が明らかに不利だろう?ベルフォード侯爵夫人が先に良いものを味わってしまうと、後の印象が薄れてしまうぞ」


伯爵は涼しげな表情で肩をすくめる。まるでそんな抗議を受けること自体が予想外だとでも言いたげだ。


「おや?君のご自慢の婿殿は、相当優秀な執事だと自慢していたではないか。それくらいの不利を跳ね返してこそ、彼の真価が問われるというものだろう」


皮肉な笑みを浮かべながら、伯爵は男爵様をじっと見つめる。男爵様は途端に言葉を濁し、困惑したように私の方をちらりと見た。


私は穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開く。


「別に構いませんよ。順番など些細なことですから」


その一言に、伯爵はやや驚いた表情を浮かべた。男爵様もまた、心配そうに私を見上げ、低い声で問いかけてきた。


「クロード、本当にいいのかい? 君が不利になるんじゃ……。後攻ということは、評価のハードルが上がるということだぞ?」


「ご心配は無用です。むしろ後からの方が、前の方の評価を聞いて対策を練ることもできますから。妻と男爵様に恥をかかせるような真似は決していたしません」


私が静かな自信を込めてそう告げると、伯爵の横で控えていたサンゼールが僅かに瞳を細め、冷静な視線を私に向けてきた。その表情には静かな敬意と共に、互いに譲らぬ決意が込められている。


伯爵は満足げに頷き、意気揚々と声を張り上げた。


「では、決まりだな。サンゼール、準備はできているか?」


伯爵の問いに、彼は礼儀正しく一礼をする。


「はい、伯爵様。準備は万全でございます。ベルフォード侯爵夫人に、最高のひとときをお過ごしいただけるよう全力を尽くします」


その声には確かな自信と、主に対する忠誠が満ち溢れていた。


私はサンゼールをじっと見つめながら、心の中で静かに闘志を燃やした。


──不公平を覆すことにこそ、執事としての妙味がある。与えられた条件で最善を尽くすことこそが、真の勝利というものだ。


ベルフォード侯爵夫人の馬車が到着し、いよいよ勝負の幕が切って落とされた。私は静かな微笑みを絶やさず、伯爵邸の豪華な調度品に囲まれながら、その結末を穏やかに待った。

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