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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第八章 君の世界
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第百八十九話


 快晴の朝。

 俺たちは着慣れた旅装束でウィラくんのお城の前にいた。


 見送りに出てきてくれたたくさんの人に囲まれている。

 

「し、師匠、色々と……グスッ、お世話になりました。ヒック、教わったことを忘れず、もっともっと精進します」

「そんなに泣くな。向こうでも神術の通信術道具に対応した術道具を作って、通信教育をしてやるのだからな。そのうち、タケユキの言う画像付きのものも開発したいとは思っている」

「賢者殿! こちらでも術道具開発は続けます!」


 師弟の別れに首を突っ込んで来たのは術道具技師たちだ。ラスタルだけでなく、バロウ、ウェルペティ、ナルディエの人もいる。

 結局、数日では思ったような術道具は作れなかった。でも魔石を組み込んだ神力消耗を抑えられた通信の術道具はできたらしい。まだまだ試作品の域を出ないけど、ゆくゆくは全国に普及させて通信での人死を無くしていこうと技師たちが張り切っている。

 スタングさんはシュザージとの話に割り込まれてムッとしてるけど、シュザージは技師さんたちの決意を見てうれしそうに笑ってた。


 リドルカさんはウィラくんと話している。


「近いうち、帝国から使者が来る。今後のことを、話せ」

「わかりました。その時は、スタングの相棒の件や……その、パレアーナ姫のことも、お話ししたいと思っています」


 ウィラくんは、俺が念写したパレアーナさんの絵を額に入れて部屋に飾っているそうだ。思った以上に気に入ってくれている。これはスタングさんが教えてくれて、ウィラくんに怒られてたよ。

 二人が会えるのはいつになるかな。楽しみだ。


 テレシーはルーシラさんに捕まってる。


「テルセゼウラには私の叔母にあたる人を送るわ。父であるウィルペティ神王の末の妹で、叔母と言っても実は私と歳は同じよ。ぜひ仲良くしてくださいませね。ねっ!?」

「は、はい、できるだけ……」


 ちょっと押されてるテレシー。

 でもね、テレシーも本当は年の近い女の人がいることが嬉しいみたい。しかも神王一族で外交のベテラン。人をうまく丸め込んで使うのが得意な人だ。頼りになるよね。いい結婚相手を見つけてあげたいね。


 なんだかんだで昨日のうちにいろいろ話はしていたのに、ついつい話し込んでしまったよ。


「そろそろ出立だ。今日のうちにベルートラスへ着かねばならんからな」


 シュザージの言葉で、本当にお別れの時が来た。

 俺はテレシーを抱き寄せて、俺はリドルカさんに抱き寄せられる。シュザージはいつものようにテレシーの隣だ。ちょっと不服そうだけど仕方ない。

 お土産になんやかんやともらったし、帝国からもらった衣装もある。荷物が多いから、俺は荷物少しとテレシーを連れて飛んで、リドルカさんは大きな荷物を背負って飛んでくれる。


「ベルートラスというのは一日で着ける国なのか。だったらそれほど遠くはないな」

「ティーム様、ベルートラスは大陸の南東、神馬の馬車でも半月以上かかるでしょう。道や天候によっては一月以上かかることもあるのです。まずは地理の勉強から始めましょうか」

「うう、……はい」


 ナルディエの庶子王子ことティームくんは、今がんばって神王になるための教育を受けている。ラスタルにいるナルディエ官司たちが一丸となって教育するそうだ。柄が悪かったおっちゃんたちも、ちょっとづつね。


「ガウロは難なくこなしてたんだ。俺もがんばるよ」


 と、奮い立とうとしているね。

 ティームくんも勉強苦手なんだね。

 でも頑張ってナルディエをいい国にして、第二王子が安心して帰ってこれる国にしたいと思ってるみたい。

 立派な神王になってね。


 ラスタル神王さんも爺やさんも見送りに来てくれている。

 神王国とは、これからも国同士の付き合いはあるのだからまた来ることもあるはずだけど、今日のところはお別れだ。


「じゃあ、またね」

「お世話になりました」


 俺とテレシーが最後の挨拶をして、四人で空へ飛び上がった。

 下からすごい歓声が上がる。


 高く高く上がって、歓声が聞こえなくなり、白い大地を見下す。四人で顔を合わせ、少し笑って白い山を背にして空を飛んだ。


「クレオさんはどこまで行ったでしょうか」

「そうだな、あいつの馬も足は早いからもう国境近くには来ているかもな」


 テレシーとシュザージが下を見てクレオさんを探す。絶対見つけたいわけじゃないので、俺とリドルカさんは遠見まではしないでふわっと下を見た。

 クレオさんはひと足先にラスタルを出て、ホーケンの町に寄ってからスルディア国へ帰るそうだ。そっちは長旅になると思うけど、連絡はつくから心配はいらない。

 というか、クレオさんは通信の術道具を持ったままだ。

 スタングさんの通信教育に使えないかとシュザージは思っていたけど、クレオさんは術道具をしっかと抱えてこう言った。


「スルディアに戻ればテルセゼウラ民集会と合流し、テルセゼウラに向かう日取りなんかも決めてシュザージ殿下と連絡を取り合わねばならなくなるでしょう。民の帰還のためにも、どうか僕に預からせてください」


 と。

 これにはスタングさんも文句が言えなかった。

 ラスタルにはまだ不便だけど通信の術道具そのものはあるし、スタングさんは移動する予定は今のところない。泣く泣く諦めてくれたよ。


「それにしても、いよいよ理想郷かぁ」


 風を切り、広い空を飛びながら心から笑顔と期待が湧き上がる。


「まだしばらく先の話ではあるがな」


 シュザージも笑った。


「ベルートラスのじーさん先生、じゃない、オーリー先生のうちにも帰れるし。帝国に行ってお兄さんたちにも挨拶できる。弟さんたちの治療もして、それからテルセゼウラだね」


 テルセゼウラに行ったら、お墓も作らなきゃだね。

 皆さんを弔って、これからの復興をお知らせするんだ。

 ……常世の泉にお願いして、眠ってる人たちに伝えたりもできるのかな?

 なんて考えていたら


「死者の眠りは、妨げぬ方がいい」


 とリドルカさんに言われたよ。

 シュザージも、苦笑いで強くうなずいた。

 そうかもね。

 うちのばーちゃんみたいに、死んでも孫が心配で異世界までついてきてくれる人なんて普通いない。こっちの世界でもあっちの世界でも。


 俺たちはこれからのことを語りながら空を飛んだ。

 テルセゼウラをどんな国にするか。

 どんなふうに暮らすか。

 きっと大変なこともあるはずだから、どうやって乗り越えようとか。


 途中、ルーノリグ国辺りの山の上でひと休みしてお弁当を食べた。

 ベルートラスはもうすぐだ。


 じーさん先生には、昨日の夜のうちに連絡したので待っていてくれるはずだ。ご馳走を用意するとも言っていた。じーさん先生のうちでご飯は本当に久しぶりだよ。楽しみだ。


「あ! 海が見えてきました!」


 南に向かって大地が途切れる先にキラキラ光る海が見えた。

 常世の泉のまがいものじゃない、白い波が遠くに見える。


「このまま飛べば、もしかしてトーセル島国にも行けるんじゃないですか?」

「行けるだろうが、行ってどうする?」

「……なんとなく言ってみただけです」


 シュザージに問われてむむっと口籠るテレシー。

 トーセル島か。前に覚えた挨拶の言葉は…………忘れちゃった。まあいいや。


「そのうち時間ができたら行ってみようか。前にリドルカさんとも話したけど、世界を見て回るのもいいかもねって」

「ほう、確かに。興味はある」

「空が飛べれば楽ですし、みんなで一緒ならどこへでも行けますよね」

「いつか、行こう」


 またまた四人で笑い合う。


 俺は、この世界でも一人きりの夢しか見られないと思っていた。

 

 一人で誰もいないところで生きて、何も残さず死ぬんだと。


 でも、俺は運命の人に逢えた。

 それも三人も。


 これからは四人で、たくさんの夢を見て、たくさんのものを残して生きるんだね。うれしいね。うれしいね。


「タケユキ、うれしいな」


 リドルカさんが肩を寄せて、そう言ってくれた。


「ああ、私もだ。望んだ夢を再び見れる。うれしくてたまらない」

「私もですよ! みんなで帰ってこれたことが、今は何よりうれしくて、未来を夢見ることもうれしいです」

「うん! うれしい。あ、じーさん先生のうちが見えたよ」

「えっ!? どこですか!?」

「おお、上から見ると家の雰囲気が違ってわかりにくいが、言われてみたら確かにあれだ」


 ふと、思い出したことがあって笑ったら、リドルカさんも笑ってた。


「あのね、この空で俺、リドルカさんと逢ったんだよ。真っ暗な夜だったけど」

「ここですか!?」


 空で会ったとは話していたけど、実感したの初めてだとテレシーもシュザージも思っている。


「あの、私たちの出会った場所にも、いつか行きましょうね」

「え!?」

「あ……嫌ですか?」

「ううん。うん、行ってみようね。あれはあれでいい思い出、かな?」


 あの時のことを思い出したら目が泳いじゃう。

 でも、あの時テレシーに逢えなかったら俺はおひとり人生一直線だったかもね。俺はテレシーを抱きしめた。


「出逢ってくれてありがとう、テレシー。大好きだ」

「タっ、タケユキさん!?」

「タケユキ、私は?」

「この世界に呼んでくれてありがとう、シュザージ。大好きだよ。リドルカさんも、俺を引き止めてくれてありがとう。大好き」


 みんなにキスしたい気分だけど、こんな状況じゃ難しいかな? と思ったら、みんなの方からキスをくれた。右の頬と左の頬とおでことに。

 うれしくて、溶けそうだ。


「ん、下を見ろ。タケユキ」


 ほっぺから唇を離したリドルカさんが下を見てる。

 俺も遠見でよく見たら、お家の前にじーさん先生たちがいた。トルグさんもミリネラさんももちろんいるよ。


「帰るか」

「はい!」


 俺たちはゆっくり下降する。

 テレシーが下に向かって手を振った。

 俺は声を大きく叫んだ。


「ただいまーっ」


 


 俺はこの世界で生きていく。

 リドルカさんと、テレシーと、シュザージと、俺との世界で。



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