第13章-27 アイネズ
「それにここに来れば、ロウゼン殿とアカネさまにお会いできるではありませんか。やはりこの機会を逃すわけにはまいりません」
「そ、そう……」
アイネズに圧倒されて、ライモンは少し引いてしまう。なんだか、アイネズの瞳がきらきらと輝いているような気がするのは、気のせいだと思いたい。
ライモンの困惑をよそに、アイネズは彼の後ろのシラフジに気づいたようで、彼女に向かって一礼する。
「これはシラフジさま。まだこちらにいらしたのですね。ここの滞在を楽しんでいただいているようで、ようございました」
「ご無沙汰しております、宰相補佐殿。いえ、ご領主さま、でしょうかしら。いつ気付いてくださるのか思っておりましたわ」
「これは失礼を、長殿」
アイネズは再び一礼して、微笑む。シラフジもまた微笑んでいるが、果たしてこれは仲が良いといっていいのだろうか。
そして、ライモンはふと思う。この機会ってなんだ、と。
「あの……?」
ライモンが少し戸惑ったような声音でアイネズに問いかける。彼はすぐにライモンの意図を察したように、彼に向き直った。
「ひととおり落ち着きましたので、ご報告に参りました」
簡潔に、それだけを言ってアイネズは微笑んだ。一瞬、何のことだろうとライモンは首を傾げかけたが、すぐに前の領主のことなどのことだと思い当たった。わかったというように、ライモンは小さくうなずいた。
「ですが、ここで話すようなことでもありますまい」
そう言って、アイネズは軽く周囲を見渡した。母屋の前は開けていて、人の目をさえぎるものはない。だが、誰が聞くというのだろう。ここにいるのはライモンとロウゼン、そしてアカネだけだ。他はアイネズが連れてきた護衛の騎士たちと、その向こうでのんびりと草を食んでいる牛たちくらいのものだ。
しかし、アイネズは微笑んでいる。その笑みはライモンに有無を言わせなかった。
「中に入れていただけると、うれしいのですが」
ライモンは思わず吐息をついた。
「どうぞ。あなたから見ればあばら家でしょうが」
「なんの。気にはいたしませぬよ。それよりは、楽しみでしかたありません」
その言葉の中に、本当にわくわくした気分を読み取って、ライモンは再び吐息をつく。
どうぞ、とライモンは先に立って入り口に向かう。と、その時、内から扉が開き、中から女性が現れた。
ハナナだ。
年配の、最近ではライモンの牧場を差配している彼女は後ろを見やりながら出てきたので、ライモンに気づくのが遅れた。
「おっと」
ぶつかりそうになって、ライモンはとっさにハナナの身体を押さえた。そこでようやく、彼女はぶつかりそうになったことに気づいたようだった。




