第12章-43 約束
「まあ」
フヨウが両手を合わせて、目を輝かせた。
「あのチーズをわたくしに、ですか。ありがとうございます」
「いえ。お土産というには、少しだけなんですけど」
「そのようなこと。いただくのが楽しみですわ。父とわたくしで取り合いになりますわね。きっと王都に戻るまでに、なくなってしまいますわ」
フヨウは嬉しそうに言った。ライモンは照れたように髪をかいた。
「そう言ってもらえれば、俺もうれしいです。あ、それでふたつあるのですけど、下の包みは乾燥が進んでいるので、日持ちします。上の包みのチーズはまだ作ってから日が浅いので、水分が抜けきってませんので、あまり日持ちしません。できれば、早めに食べてもらったほうがいいかと思います」
「そうなのですね。では、ふたつは味も変わるのですか」
「はい。硬さも変わってきますので食べ比べてもいいかもしれません」
「それは楽しみですわね」
ふふ、とフヨウは小さく笑った。
そんなフヨウに、ハシドイが呼びかける。
「姫さま、そろそろ参りませんと」
フヨウは小さくうなずいて、ライモンに向き直った。
「ライモンさま、そろそろお暇致します。王都においでになられる日を、心待ちにしております」
そう言って、フヨウはスカートをつまんで優雅に一礼した。まるでここが王宮の中だとでもいうかのように。
「はい。いつになるかはまだわかりませんが。必ず、王都に行きます」
「心より、お待ち申し上げておりますわ、次期さま。王都でお会いできるその日を」
フヨウの言葉に、ライモンはああ、と力強くうなずいた。
それは果たされるべき約束。
ふたりの間に誓いとも呼べるものが結ばれた瞬間だった。
フヨウは微笑むと、今度はアカネのほうを見やった。アカネは一歩前に出ると、フヨウの手を取った。
「お気をつけて。道中の無事を祈っておりますわ」
「はい、ありがとうございます。アカネさま。またお会いできる日を楽しみにしております」
え、とライモンは思った。アカネの去就はまだ決まっていない。彼女はここに残るか、それとも王都に行くのか、ライモンには何も答えていなかった。
アカネはと見ると、かるく目を見開いている。フヨウはアカネがライモンとともに王都に来るものと信じ込んでいるようだが、アカネはどう答えるのだろうか。
アカネは逡巡するかのように、一瞬の間を置いたが、すぐにフヨウの目を見つめて微笑んだ。
「ええ、いつかまた……」
その言葉に、フヨウの表情がぱっと輝いた。アカネの手を握り、うなずいた。
ライモンは驚いたが、フヨウの表情に何も言えなかった。ただ、ふたりの顔を何度か交互に見やるだけだ。




