第12章-31 下げ渡す
「俺は、その子の気持ちのほうがわかるような気がしたので」
「わかる?」
フヨウは頬から手を放して、ライモンを見つめた。彼はええ、とうなずく。
「俺もたぶん、お礼に金貨一枚やろうと言われたら、最初は固辞すると思います。俺もだけど、多分その子も金貨なんかめったにお目にかかれない代物で。嬉しいんだけど、なにか裏がありそうで怖い、というか。やると言われた言葉を真に受けて、それを受け取ったらなんかひどい目に合うんじゃないかと、そう思うと思うんです。たぶん、その子も同じだったんじゃないかな、と」
「まあ……」
フヨウはそれだけ言って絶句した。信じられないように、眼を何度かしばたたいた。
「そのくらい、このあたりで俺たちのようなものは、金貨なんか見たことがないんですよ。おれも実際ないです。せいぜいが銀貨くらいですね。それをいきなり金貨をくれると言っても、信じられないんですよ」
苦笑するかのように、ライモンは口元をゆがめた。フヨウはゆっくりとうなずく。
「フヨウさま」
「はい」
「フヨウさまは、なぜその服の代わりに、ご自分の服を上げようとなさったのですか」
「え、ああ……」
フヨウは少し考えながら答える。
「わたくし、王都でも侍女たちに衣装を下げ渡すことがありますの。その時、彼女たちはとても喜んでおりましたから、こたびもそれでよいのかと」
「侍女たちに? その人たちは、貰った衣装を着る機会があるのですか」
「いいえ」
ライモンの問いかけに、フヨウは静かに首を振る。
「侍女の中には、貴族の娘もいますが、そのものたちには下げ渡しはしません。下げ渡した侍女たちが衣装をどうするのかと、侍女頭に訊いたことがあります。彼女たちは下げ渡した衣装を街の服を取り扱う店に売るのだそうです。それが良い小遣いになるので、喜ぶのだとか」
「ああ、なるほど」
ライモンはそう言うと、やや考え込むように眉間にしわを寄せた。それからフヨウを見やる。
「俺は王都に行ったことはないし、これまでに知っている一番大きな街は、領主館のある街だけですから、それは想像なんですが、王都はここの街より人が多いでしょう。たぶん、比べるまでもなく」
「え、ええ」
フヨウは戸惑ったようにうなずいた。ライモンが言わんとするところがわからないようだ。
「服を扱う店も多いでしょうし、そこにフヨウさまの服を売れば、確かに高く売れると思います。そのまま古着として売ることもできるでしょうし、素材を取ることもできるでしょう」
フヨウは黙ったまま、こくりとうなずく。ライモンはそれを確認して先を続けた。




