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牛飼いと守護精と  作者: 久保 公里
第1章

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第1章-21 アズ小母さん

 「まあまあまあ、ライモンさんじゃありませんか。こんなところからどうしたのです」


 「こんにちは、アズ小母さん」


 もっと小さなころ、ライモンは彼女の名前アンズをうまく呼べず、アズ小母さんと呼んでいた。それが今でも続いている。その呼び方を聞いて、アンズがふふっと笑う。昔から同じ、やわらかで温かみのある笑みだ。


 「お久しぶりね。お母様はいかが。今日はご一緒ではないの」


 「今日は人出が多くなるだろうから、家にいますよ。最近、少し疲れやすいみたいで、人で酔いそうだからと」


 「あらあらまあまあ。それは残念だこと。アカネさんにもお会いしたかったわ。それで、何の御用? あらあら、とりあえず中にお入りなさいな。そちらの別嬪さんもご一緒かしら」


 別嬪さん、と言われてライモンは振り返った。やはり、というべきか、守護精を名乗る若者が後ろにいる。


 「お前は」


 「ライモン様はわが主ですので、ご一緒するのは当然です」


 しれっと若者は言い放つ。


 「ついてこいなどと、言った覚えはないが」


 「言われずとも、わかります」


 何がわかるのか、問い詰めたい気分にライモンは陥った。だが、そこにアンズが割り込む。


 「あらあらまあまあ。やっと人を雇い入れたのですねえ、ライモンさん。もっと早くそうすればよかったのに」


 軽く手を叩いて、アンズは喜んでいる。その様子に、ライモンは毒気を抜かれた。無邪気に喜んでいる老女に、あまり口論など見せたくはなかった。


 ライモンは苦笑するように髪をかきあげた。


 「それで。わざわざこちらに寄られたのは、何のご用?」


 「ああ。アジロに頼まれてうちのチーズを持ってきたんだ」


 「あら、それなら表から来ればよいのに」


 その物言いに、ライモンは顔をしかめてみせた。


 「まあまあ。中におはいりなさい。奥様を呼んで来ますからね。さ、そちらの別嬪さんも」


 アンズの招き入れに応じて、ライモンが入り口をくぐり、若者がそれに続いた。


 中は大きな机が中央にあり、いくつかの椅子が並んでいる。片隅には書き物机もあり、アズ小母さんがそこで何か書いているのをライモンは何度か見たことがあった。奥には厨房があり、ここは屋敷で働く者の休憩所や賄いの食堂にもなっていた。


 普段、アンズはここで家政を取り仕切っている。アジロの母が亡くなってからずっと、そして、エニシダがこの家に嫁いでからは彼女を助けながら。


 執事のヒノキが公私ともに彼女のパートナーだ。他に侍女と下男が二人ずつ、それと料理人三人をアンズとヒノキが仕切っている。



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