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12.ハグ

 『いやいや!一体どういうことなんですかっ!?説明して下さいっ!』



 初めこそ淫蕩な雰囲気に呑まれて納得しかけたが、よくよく考えると女神さまの言うことを全く理解できていないことに気付いた。


 どうやら俺が女神さまに影響をあたえて新しく世界が出来たらしい。それ自体はヤバい感じではないのだが、頬を染めているのが割と理解不能だ。


 もしかして"世界が出来る"というのは、神の界隈では男女の営み的なのを暗にあらわしているのだろうか?しかし俺と女神さまは純なお付き合いをしている。プラトニックな関係なのだ。



 『説明も何も今言った通りなのですが……もしかして、私にママでいて欲しいんですか?』



 俺は少しばかり眩暈のような感覚を覚えた。魅力的な提案だがそういうことではない。首をかしげるしぐさが可愛いとかそういうことでもないのだ。


 どうやら俺と女神さまでは感覚のズレがあるらしかった。このどうにも理解し合えないような感覚は、思考の根幹を構成する文化や価値観の違いによるものだろうか。


 そうであればナイーブで根深い問題である、と言えるだろう。本来そういったズレというのはお互いに譲り合うことで解消できるものだ。


 しかし、人の作った道徳や価値観に依存しがちな人の世ではなかなかに難しい。人はそういったものに心を委ねることで心の安定を図るものだし、お互いの溝を埋めるためには大変な労力が必要だからだ。


 労力をかけて得られるのは富や名声ではなく精神的な充足。力を入れたがるのは人の価値観を逸脱した一部の物好きや狂人のみだ。


 だが、俺が今居る世界は、人であることの不便さや俗世のしがらみから完全に解き放たれている。ならばいくら手間をかけてでもお互いを理解し合うべきだと思った。



 『大変魅力的な提案ですがそういうことじゃないんです。……その、女神さまにとって新しい世界が出来るというのはどういう意味を持つんですか?』



 これはとても重要なことだ。俺にとって今起きていることは理解不能な出来事だが、女神さまにとっては大切な護るべき価値観のように思える。先ほど彼女が俺に向けた笑顔が幸福感に満ち溢れていたからだ。


 そこを理解せず言われるままに受け入れたのでは、価値観の違いから二人の関係に暗い影を差してしまうかもしれない。


 俺は女神さまの気持ちに寄り添いたいと考えている。だからこそ価値観を構成する大切な何かを知っておきたいのだ。



 『……こういう空気で説明するのは、なんだか少し怖いですね。……あの、大海さん。私を抱き締めてくれませんか?』



 思わず"何故?"と問いかけたくなってしまったが思いとどまった。女神さまがとても不安そうな表情をしていたからだ。


 彼女の感性は人間味があり、暖かくて、穏やかだ。神としての力のせいで誤解しそうになるがいい意味で人間らしい魅力に溢れている。


 そんな彼女が不安を感じているのならば、不安を埋める手助けをしたいと強く思った。



 『わかりました』



 俺は返事をして女神さまに近づき、その小さい体を優しくハグした。……膝枕をしてもらっている時よりも彼女を近くに感じる。水気を含んだ植物のような香りが普段よりも強く嗅覚を刺激した。


 女神さまも負けじと俺の体をぎゅっ、と抱き返してきた。少女らしい見た目相応の力であった。



 『痛くはないですか?』


 『はい。丁度いい力加減で抱きしめられてます。…………もうひとついいですか?』



 女神さまは抱きしめられたまま甘えるような上目遣いをしてきた。かわいい。いくらでも甘やかして言うことを聞きたくなってしまう。



 『はい。なんなりと言って下さい』


 『膝枕をさせて下さい。大海さんにも気を楽にしてもらってお話ししたいんです』



 思えば俺の常識を覆すような出来事が起こって余裕がなくなっていたかもしれない。『パパになっちゃえ』と暗に言われたようで気が動転してしまったのだ。



 『わかりました。それじゃあお願いしてもいいですか?』



 自分でも気付けない心の乱れを落ち着けるために、俺は女神さまの要望を喜んで受け入れた。

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