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本当の王子様  作者: みつき


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第7話 すれ違い

 プロジェクトサブリーダーもだいぶ慣れてきた。


「佐伯さん、このボタン、PCだといいけどスマホだと親指届かない位置にあるよ」


「じゃあ下固定にしますか?」


「うん。あと高さ48ピクセルは確保して。タップ領域狭いと離脱増えるから」


「色はそのままでいいのかな?」


「いや、背景と被ってるからコントラストもう少し上げたいな」


「やってみます」


「よろしくね」


 今日は俊が休みで、会社前まで迎えに来る。

 ここまで来なくていいと言ったのに……。


「白石さん」


 振り向くと井上さんが立っていた。


「何ですか?」


 私なんかヘマしたかな……?


 井上さんが隣の空いている椅子に座った。


「この前、あの……」


 しばらく沈黙。

 

「何?」


 少しイライラしてきた。……なんか言ってよ。


「あ……やっぱ、いいや」


「何? はっきり言って!」


「……レンタル抜きで、会ってくれるって言ったから、お願いしようかなと。渡したいものもあるし……」


 焦る。私は小声で言った。

 

「そういうことは、ラインで言ってよ。困る……」


「ごめん。ちゃんと頼みたかったから」


「……今日は、空いてないから」 


「じゃあ、明日は?」


「明日なら、いいよ」


「ありがとう。また、ラインで連絡する」


 私が言ったのよね。レンタル抜きでデートしてあげよっかって。……何でそんなこと言ったんだろう?


 ま、いいや。付き合うわけじゃあるまいし。


 ◇


 定時後、俊が会社の前に車を停めて待っていた。


 俊が運転席を降りて手を振っている。手を振りかえす。

 

 ん? 誰かに見られてる気がする。


 振り返る。窓に人影が見える。でも、誰かわからない。

 

 ……気のせいかな。


 急いで車に乗り込んだ。


「お疲れ様」


 俊がそう言って微笑む。


「夜景の綺麗なレストラン予約してあるんだ」


「なんか、嬉しい」 


 とあるビルの地下駐車場に車を停め、最上階のレストランに向かう。


「イタリアンだけど、嫌いなものない?」


「大丈夫」

 

 誰もいないエレベーターに乗ると、俊がキスしてきた。


 深いキス。

 ……エレベーターって、カメラあるんじゃなかったっけ?

 変なことが気になる。


 最上階でエレベーターを降りると、すぐにレストランの看板が目に入った。

 黒を基調にしたシンプルなロゴ。


 ガラス越しに、店内の柔らかい光と、窓の外の夜景が重なって見える。

 

「いらっしゃいませ」 


 落ち着いた店員の声。


 夜景の見える席に案内された。


「俊って、こういうお店、よく来るの?」

 

「いや、初めて」


 俊は、誤魔化すように笑う。

 

 つい、笑ってしまった。意外と正直……。


 パスタを食べながら、俊が姉と梨花さんの昔話をしてくれた。


「三人で旅行に行ったんだけどさ、梨花が酔い潰れちゃって酷かった。あれは彼氏に振られた時だったかな」


「彼氏って今の旦那さんの前の人?」


「うん、そう。その後、梨花と付き合った」


「まじ?」


 そんなふうに見えなかった。別れても友達は続けられるんだ……。


「すぐ別れちゃったけど」


「え? どうして?」


「友達の付き合いの方が、お互いに良いってことに気づいたから」


 そういうものなのね。私にはわかんないや……。


「紗英には心配かけちゃったな……」


 俊は遠い目をした。


 喉元まで聞きたい言葉が出てくる。


 ――お姉ちゃんとは、付き合わなかったの?


「美味しかった?」


「うん、美味しかった」 

 

「そろそろ行こっか」


 俊が会計してくれた。


「ごちそうさまでした」


 俊が微笑んで、手を握った。


 ……私といるのに、どうしてあんな顔をするの。 


 エレベーターで、俊が抱き寄せ、抱きしめる。


「好きだよ」


 ……体に力が入らない。


 エレベーターを降りて、そのまま駐車場へ向かった。 


 車の中。

 

「今日、うち寄ってく?」


「ん……。今、生理中なの」


 俊が俯いて笑った。私、変なこと言った?


「ごめん、そう意味で言ったわけじゃないんだけど。紗奈可愛いな」


「ごめんなさい、なんか変なこと言っちゃって」


「気にしなくていいよ。今日はこのまま帰ろうか。送るよ」


 なぜか、私の頭の中には井上さんがいた。


 ◇


 翌日。プロジェクト進捗会議。


 私は、プロマネの岩城さんに進捗を報告する。

 

「モバイル側は、ほぼオンスケです。PC側はクリックイベントの伝播で、親要素と子要素の処理が競合していて少し詰まっています」


「スケジュール、間に合いそうなの?」


「今日、有識者に相談してみます」


「無理そうなら、早めに相談な」


「承知しました。ありがとうございます」


 各人の進捗報告が終わった後、解散になった。


 岩城さんが井上さんに声をかけた。

  

「さっきの課題、井上くん、わかりそうなら相談乗ってあげて」


「わかりました」


 PC担当の中村さんの席に行くと、泣きそうな顔をしていた。


「どうしてもうまくいかないんです……」


 井上さんが来た。

 

「どれ、見せて。もしかして、イベント二重で発火してない?」


 井上さんが、動かしてみている。


「……やっぱりそうだ」


「ほんとですか? 伝播しないようにしてたつもりだったんですけど……」

 

 中村さんの表情が明るくなった。


「これ、ここだけじゃなくて、こっちも必要。ほら」


「ほんとだ! 直った!」


 中村さん、後から見ていた田辺さんも笑った。


「さっすがー」


 私はつい井上さんの肩をポンと叩いた。彼は少し照れていた。


「また、わからないとこあったら聞いて」


「今度は真っ先に井上さんに聞いちゃいます!」


 中村さんがそういうと、みんなで笑った。


 席に戻ると、井上さんからラインが来た。


『この前食べに行った、パスタのあるカフェでいい?』


『オッケー(スタンプ)』


『十八時でいいかな?』


『オッケー(スタンプ)』


 杖、欲しかったやつ持ってきてくれてるのかな?

 少しだけ楽しみな自分がいた。


 ◇


 店に着いたけど、まだ井上さんが来ていなかった。


 しばらく待っていると、大きめのバッグを持った井上さんが来た。


「なんか大荷物ね」


「ああ、うん」


「注文した?」


「まだ、これから」


 メニューを広げた井上さんに、両手を広げて頂戴のポーズをした。


 井上さんは、笑いながらバッグを開けた。そして、細長い箱を三箱並べた。


「三個?」


 井上さんは一つずつ箱を開けていく。

 

「一本追加で作った」


「まじで? ……ほんとだ」 


 私は三本手にとって繁々と眺めた。


「注文しないの?」


「あ、前回と同じでいいや」


「『きのことベーコンの和風パスタ』だよね?」


「そう。よく覚えてるね」


「きのこ嫌いだから、覚えてただけ」

 

 井上さんが注文してくれた。


 どの杖にしよっかなあ。三本あるなら、二本くれないかな……。


「二本……もらえないよね?」


「いいよ、何本でも。また作れるし」


「え? まじ?」


 なんか欲が出てきた……。三本……は、貰いすぎだよな。


「じゃあ、これとこれ頂戴」


「はい」


「あ、材料代くらい出すわ。いくら?」


「お金は要らないよ」 


「そう? ありがと!」


 素直にもらっとこう。


 井上さんが杖を入れる袋まで用意してくれていた。袋に入れていると、パスタが来た。


「お腹すいたー」

 

「僕も」

 

 おもむろに井上さんから質問が飛んできた。


「昨日、白石さんが白い車乗るところ見たけど、あれって彼氏?」


 私は咳き込んだ。

 ゴホゴホ。

 水を飲む。


「大丈夫?」


「だって、急に変なこと言うんだもの。もしかして見てた?」

 

「たまたま残業してる時に外見てたら、白石さんが歩いてるのが見えた」


 あの影は、井上さんだったのか。

 なんて答えよう……。


「うん。そうだけど?」


「そっか……。仲良いんだね、会社まで来てくれるなんて」


「ま、まあ……。つか、井上さんには関係無かろう」


「気になるんだよ、やっぱり。彼氏いる人がレンタル彼女やるの」 


「それこそ、井上さんには関係ないじゃん」


「……だけど、俺ならやだな。好きな子が他の人とデートしたりするのは」


「井上さんだって、利用してるじゃない?」


「それは……」


 井上さんは黙った。


 井上さんの顔を見ると、少しだけ苦しそうに見えた。

 

 ……関係ないし。

 これが私の仕事なんだから。

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