オアシスの幽霊?
よろしくお願いします!
朝日もすっかり登り、ジリジリとした日差しが荒れた大地を照らし付けている。
そして浮かび上がる白と赤のコントラストが入り混じった大地は、進む者の気持ちをへし折るに、十分すぎるだろう。
それでも進む者たちがいる。
行商で街から街を渡り歩く者。
当てもなく、目的地を決めずにただフラフラと旅をする者。
世界を巡り、この世の果てに何があるのかを見極めようとする者。
旅の理由は三者三様、人それぞれ。
共通しているのは、行けども行けども続く、この世の終わりとも地獄とも言える大地の上を、ひたすら突き進むこと。
その中で水にありつけ、風揺れる木陰の下で腰を下ろせる場所は、この上ない癒しを与えてくれる。
オアシスとは、そういう場所なのだ。
ーー
「ふん! ふん!」
「っと、っこしょ、とや!」
「ふん! ふん! ぬらぁ!」
「おっとこしょ、っこしょ!」
「おい! リッキー!」
汗だくの額をぬぐいもせず、ランシスは手にしたスコップを地面に突き刺すと、リッキーに向かって唾を飛ばした。
「てめ、な、なんだ、その力が抜ける掛け声は!」
「……ふーふー、ち、力が抜ける?」
ランシスにそう言われ、リッキーもスコップを地面に刺すと、その取ってに手のひらと顎を乗せて、ふぅと大きく息を抜いた。
「力が抜けるって、僕の掛け声、おかしかった?」
「おかしい、おかしい、あーおかしい! っつーか、どうすりゃそんな間の抜けた掛け声になるんだよ!」
「ズーッと力んでるランシスよりマシでしょぉ」
何かにつけて突っかかってくるランシスに対して、リッキーは片眉を上げて答えた。
これは、呆れている時の仕草だ。
「……そんなことより早く掘ろうよ。朝飯もまだなんだし」
そう言ってスコップを持ち、リッキーはまた、穴を掘り始めた。
「あ、あぁ、……そうだな……」
ザクザクと、土を掘る音だけが聞こえる。
今度は掛け声は出さず、黙々と地面を掘り始めるリッキーを見て、ランシスは目を泳がせた。
何だか気まずくなったのだ。
何せ、イライラすればリッキーに当たり散らすしかない。
なぜこんなにイライラしているのか、自分でも理由が分からない。
そんな自分に対して、リッキーは冷静に接してくる。
気まずさと罪悪感に苛まれながら、ランシスも黙って地面を掘り始めた。
程なくして、オアシスに立つ立派な木の根元に、大の男一人が寝っ転がっても余裕がある程の大きさの穴が出来上がった。
「この下なら、彼女もいいって言うだろうなぁ」
そう言いながら、ランシスは掘り上げた穴の横に腰を下ろした。
ふと風が吹き、木の枝を揺らす。
カサカサと葉を揺らす風が心地よく、ランシスは木漏れ日が差しこむ方向を見上げ、目を閉じた。
「木の養分になり、この木はもっと葉をつける。彼女はここでオアシスと共に生き続け、旅人たちを癒していく、か」
リッキーもランシスに倣って腰を下ろし、揺れる葉を見つめていた。
ランシスは目を閉じたまま、リッキーに話し掛けた。
「何だよ、それ。やけにロマンチックだな」
「へへ、昔じいちゃんに聞かされたんだよ。荒野で行き倒れになった者は、そこを通りがかった者に連れられてオアシスの木の根元に埋められるって。そうして木の養分になる。オアシスはもっと生き生きとして、訪れる旅人を癒すんだってさ」
リッキーは口元を少しだけ綻ばせながら、オアシスにある小さな湖畔に視線を寄せた。
「そうかー、じゃぁ、この木の下にも死体が埋まってるのかもなー」
目を開け、オアシスの中を見回しながらランシスがそう言うと、リッキーはゲンナリとした表情を彼に向けた。
「……やめろよ。そういうの……」
「お前が言い出したんじゃねぇか……」
「そ、そうだけど……」
ランシスに言われ、気まずくなったリッキーは、ふとミスバレンタイン号に視線を向ける。
「彼女は……、何だったんだろう?」
リッキーのその言葉に、ランシスも続けてミスバレンタイン号に目を向けた。
「さぁな、いきなり飛び込んできて、いきなり死んだんだ。目的なんか分かりゃしねぇ」
そうしてズボンのポケットをまさぐり、中から薄汚れて皺の寄った封筒を取り出した。
(こんなもん渡されてもな。ちんぷんかんぷんだぜ)
彼女の名前も知らなければ目的も分からない。
ただ、この封筒を彼に手渡し、息を引き取った。
その後に襲撃を受けたわけだが……
「あいつら、一体何だったんだ?」
胡座をかいて考え込むランシスを見て、リッキーは首を傾げた。
「どうした? 何考えてるんだい?」
「いやな。あの連中は何だったのかなーと」
「あぁ、黒ずくめの奴らか」
ふと、リッキーはランシスが手にしている封筒に目がいった。
「それは?」
「あぁ、これか。彼女に渡された」
「中身は見たの?」
「いや、まだ」
封筒を軽く揺すりながら被りを振るランシスに、リッキーはまた首を傾げた。
カサカサ、封筒から音が聞こえる。
「なんで見なかったんだよ」
「そんな暇あるか、いきなり撃たれて、ひたすら逃げてきたんだぞ」
「今見ればいいじゃないか、今ここで」
「か、彼女に悪いだろうが!」
「彼女って、もう死んでるし、第一お願いされたんじゃないの?」
「うるせーな! しのごの言うなって!」
「しのごの言ってない! 中身を見ればって言ったんだよ!」
「あのー……」
気が付けば、二人はまた口論を始めていた。
そして、ふいに何者かに話しかけられたことに気付かず、二人は言い合いを続けている。
「お前な! まだ彼女を弔ってもねぇし、朝飯も食ってねぇぞ!」
「別に時間がかかることでもないだろ! サッと見ればいいじゃないか!」
「すいません」
「見ればいいって問題じゃねぇだろ! 物事には順序ってもんがだな……!」
「何が順序だよ! パッと開けて見て見ればいいことだろ!」
「すいません、少しお話を……」
「パッと開けてもしドカーン! て爆発したらどうすんだ! えぇ!? お前責任取れんのか!?」
「そんな開けてすぐ爆発するなら、もう爆発してるでしょ! だいたい、何の責任なんだよ?」
「すいません、少しお話を聞いて頂けませんか?」
「「うるせぇ! 今それどころじゃねぇ!!」」
絶妙なタイミングで返事が重なった二人は、これまた見事なタイミングで同時に振り返った。
振り返った先には、女性が立っていた。
風にたなびく白のワンピース。その脇腹辺りは血で赤く滲んでいる。
髪は陽の光でプラチナ色に輝き、風が吹くと、サラサラとなびいていた。
目鼻立ちの整った顔は、間違いなく美女そのもの。
そして、その表情は笑顔とは程遠い。
やや困惑気味な表情を浮かべながら、二人の前に立っていたのだ。
「す、すいません、お取り込み中に……」
と彼女はその顔に似合わず後頭部をポリポリと掻いている……
ランシスとリッキーは驚きのあまり、一瞬固まってしまった……
「あ、あ、あ、あ……」
「ゆ、ゆ……」
「す、すいません! いきなり話しかけてしまって……、驚きました、よね?」
「「ゆ、ゆ、ゆ、」」
女性はそう言って微笑むが、それよりも二人を恐怖が支配していた。
そして、互いに強く抱きしめ合うと……
「「幽霊ーーーーー!?」」
見事に息のあった掛け合いで、二人は飛び上がるようにして驚くと、彼女はまた、申し訳なさそうに微笑むのだった。




