3.
図書室に着くと、まず司書の先生に声をかけた。
「あれ? 今日は瀬崎さんじゃないよね?」
「今日当番の森野さんが貧血で倒れて早退したんです。なので私が代打で来ました」
「そっか。森野さんに後で連絡……あ、来てたわ」
司書の先生である東条先生は着任二年目の二十五歳の女の人だ。
とっても美人で目の保養。
どうしても司書になりたくて他の内定をすべて蹴り、わざと留年までしたらしい。
そしてたまたま空きの出たこの学校の司書として採用された。
年が近いこともあって、先生は私たちのよい相談相手でもあった。
そのため、図書委員全員と連絡先を交換している。
森野さんにお見舞いのメッセージを送った先生は、「じゃあ、今日もよろしくね」と私に素敵な笑顔をくれた。
*
その日も特に何事もなく、一日の業務が終わった。むしろ、いつもより閑散としていた。
そのおかげで、私は特設コーナー作りに没頭できた。
このコーナーの担当は私で、昨日の段階で完成はしていたのだが、何となくこうした方が可愛いとか、こうした方が見やすいのではないかとか、そう気になり出したらキリがなくなったのだ。
コーナーを無事に作り終えた私が伸びをすると同時に、下校のチャイムが鳴った。
今日はいつもより二時間早い。
壁にかかっている三時を指した時計は、窓から入る光に反射して少し見えづらかった。
――さて、帰る支度をしますか。
ゆっくり息を吐き、閉室作業をしようと何気なく周りを見渡すと、視界の端に何かが映った。それを確かめようとさらに顔を動かす。
――……あ…………。
受付からは本棚で見えづらい位置にある、窓際の一人がけの大きめな机の上で、男子生徒がうつ伏せになっていた。
腕で顔を隠すようにして。
差し込む光が髪の毛をキラキラと金髪に見せている。
いや、よく見ると髪の毛を明るめの茶色に染めているようだ。
半袖のシャツから覗く腕には筋があり、細身ながら筋肉質であることがわかる。
机の下から見える折りたたんだ脚は長く、おそらく立つと背も高いのだろう。
そして、ボサボサの髪から見え隠れするピアスの数が尋常じゃない。
これは、この方は、いわゆる……。
「……不良……さん……」
思わず小声で呟いてしまった。
*
普段、閉室する際に人が残っている場合、その人が起きているときは私は自分から声をかける。
もし寝ている場合は東条先生に声かけをお願いしている。
何となく、寝起きに見るなら私のようなちんちくりんより大人の女性の方が目覚めがいいだろうという、よくわからない配慮からだ。
今日も、いつもなら先生を呼びに行っただろう。
でも何故か。
後から考えても不思議なのだが、私は何故か。
自分で声をかけるために、静かに彼に近づいたのだった――。