4.
「……あの、すみません」
蚊の鳴くような声とは、まさにこのことだろうか。
声をかけるために近付いたはいいが、いざとなると腰が引けてしまい、やっと絞り出した声はとても小さかった。
それでも、静かな図書室ではちゃんと聞こえたようで、目の前の彼が静かに顔を上げた。
――う、わぁ……。
とても綺麗な顔立ちの人だった。
肌は白く、瞳の色も薄茶色で透き通っていた。おそらく、全体的な色素が薄いのだろう。
金髪に近い明るめの髪色と相まって、男の人なのにまるで人形のような雰囲気があった。
その見た目から不良だと思い、怖じ気づいていたのも忘れしばらくボケッと見惚れていた私は、彼が首を傾げながら「何?」と声をかけてきたことで、我に返った。
「あ、す、すみません! もう閉室の時間なんです!」
少しどもってしまったが、何とか用件を伝えることができた。顔はおそらく真っ赤だろうが……。
「……五時までじゃなかったっけ?」
寝起きで少し掠れているが、低音でとても耳に馴染む声だ。
思わず聞き惚れそうになる自分を叱咤し、今日は終業式なのでいつもより早いことを告げる。
彼は「ふーん」と呟き、大きなあくびを一つこぼした。
その姿に何となく絆された私は、
「閉室作業をするので、終わるまではまだいてもらって大丈夫ですよ」
と声をかけ、いそいそと窓の鍵の確認を始めた。
その姿を、じっと見られていることにも気付かずに。
*
いつものように掃除機をかけ、カウンターの片付けをしていたところで、彼が立ち上がった。
帰るのかな? と思った私は挨拶でもしようかと顔を上げる。
すると、視界に真っ白いシャツが映り、それによってカウンター越しに彼が立っていることを知る。
目線を上げると、そこには予想通り彼の姿が。
しばらく無言で見つめ合う。
「……あの、……何か?」
気まずくなった私は、自分から声をかけた。
――もしかして、顔に何か付いてる!?
内心焦る私をよそに、彼は静かに問いかけた。
「……お前、俺が怖くないの?」
何を聞かれたのか一瞬わからなかったが、その質問が脳に届いたとき、私は思わず笑ってしまった。
こんな格好をしていて、そんなこと気にするんだ、この人。
クスクス笑いながら、先ほどの質問に答える。
「怖くはないですよ。そりゃあ、初めはそのピアスの数に少しびっくりしましたが、意外と普通に話してくれましたので」
もし、最初に声をかけたときに怒鳴られていたら、その後は怖くて話しかけられなかっただろう。
でも彼は、愛想はないが普通に会話をしてくれたし、何か乱暴なことをしたわけでもない。
怖がる必要はないと私は思ったのだ。
「私、相手はなるべく中身で判断するようにしているんです。外見は関係ないですよ」
そういうと、彼はまたも「ふーん」と呟き、小さく「変なヤツ……」と付け加えた。
その様子がまたおかしくて、私は手を動かしながらもクスクスと笑ってしまったのだった。




