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お披露目の夜会⑤

 

 レオナルドにエスコートされる形で夜会会場を後にしたリリアンは、少し歩いたところで急に体の力が抜けてしまった。突然腕に重さを感じたレオナルドは慌ててリリアンの体を支える。



「大丈夫か?」

「す、すみません。何だかホッとした瞬間、体の力が抜けてしまったみたいで」



 会場から離れたことで緊張から解き放たれたリリアンは先程の出来事を遅ればせながら今まさに感じていた。よくあの場で叫ばなかったと自分を褒めてやりたい気持ちと、レオナルドが来てくれなければどうなってたのかという恐怖が一気に襲ってきたのである。


 小さく震えている手を見たレオナルドは廊下横にある庭のベンチへとリリアンを案内した。まずは落ち着いたところで休ませてやろうという考えだったのだが、リリアンは体を休める前に夜の庭の美しさに癒されていた。



「うわぁ……凄い綺麗」

「そうだな。リリー、まずは座って休め」

「あ、はい。ありがとうございます」



 ベンチに座った二人は暫し無言のまま庭の花々を眺める。そんな静寂をやぶったのはレオナルドだった。



「リリー、本当にすまない」

「え?なんでレオが謝るんですか?」

「俺は客人に囲まれたリリーを助けられなかったどころか、守ることもできなかった。ウィリアム様が来なければどうなっていたか……」



 己の足元を睨みつけながら懺悔するレオナルドを励まそうとリリアンは膝の上で固く握られていた拳に優しく触れる。



「いいえ、守ってくれました。レオが来なければ、どうなっていたかわからないですもん」

「……リリー」

「私はレオが来てくれて、声が聞こえただけで、本当に安心したんです。余興だって、レオがいてくれたから成功したんです。だから、謝らないでください」



 顔を上げたレオナルドは真っ直ぐリリアンを見つめる。見つめられたリリアンは思わずその真剣な表情のレオナルドに見惚れてしまった。月明かりに照らされ輝く銀色の髪の彼はこの世の物ではないかのような美しさを帯びている。そんな彼がリリアンの頬へとゆっくり手を伸ばした。毎日剣を握るため大きくゴツゴツした手は壊れ物を触るように優しくリリアンに触れる。



「リリー」

「はい」

「俺は今日で痛感した。今のままじゃリリーを守れないと。だから、俺に堂々とリリーを守れる権利をくれないか」

「……堂々?」

「あぁ。俺と結婚してくれ」

「!」



 リリアンは大きく目を見開き、唖然とした表情でレオナルドを見つめる。付き合い始めて半年、政略結婚の多い貴族ではすぐに婚約者となることを知りながらリリアンは恋人関係に甘んじていた。それはレオナルドと結婚するのが嫌なのではなく、もしも今まで隠していたお転婆さなどを知られてレオナルドが自分に嫌気がさした時、真面目なレオナルドがリリアンから離れられるようにだった。


 決して離れたい訳ではない。ただ、平民であるリリアンを婚約者にすることのリスクや大好きなレオナルドの幸せを考えた時、レオナルドか己を見極める時間は必要だと考えた。それは長い片思い期間に繰り返す妄想の中で決めていたことだったのだ。


 リリアンは恋人となった半年間、今までのお淑やかな面だけでなく、家族の前のお転婆さもレオナルドに見せてきた。たまに呆れるように笑われたり、怒られたりしたけれど、レオナルドはリリアンに付き合い向き合ってくれた。


 だからこそ、レオナルドの言葉に驚いてしまった。本当に貴族令嬢のようなお淑やかさなどはなく、自由で時には自分から戦いへと向かうような女を側に置きたいと望んでくれるのかと。



「リリー、俺は君以外を愛することはできない。俺の隣で笑って泣いて怒って……色んな表情をする君を手放す事なんてもうできないんだ」

「でも私、こんななのに……」

「一緒にいた時間で見せてくれたリリーの全てを俺が守りたい。初めてリリーに思いを告げた時に言っただろう?守る権利が欲しいと、剣は主に捧げるが命は君にと。恋人ではそれが果たせないんだ。だから、俺の妻になってくれ。そしたら俺はいつでも隣で守ることができる……リリー、なってくれるか?」

「……はい」



 湿った声で返したリリアンに優しく笑いかけたレオナルドは、リリアンを引き寄せると強く抱きしめた。



「ありがとう、リリー」

「こちらこそありがとうございます。なんだか私、貰ってばかり」

「いいや、俺にとってはリリーが最高の贈り物だ」



 レオナルドの胸の中で小さく笑いを漏らすリリアンを引き離し、覗き込むように見つめ合うと、どちらからともなく顔を近づける。月明かりの下、優しく揺れる花々の中で二人の影が重なり合った。




 後日、王都にあるヴェルモート侯爵家の屋敷にはレオナルドに連れ添われたリリアンがいた。倒れそうなほど緊張していたリリアンと心配気に見つめるレオナルドを出迎えたのはティアであった。



「ようこそ、リリアン」

「ティ、ティア!」

「待っていたわ。どうぞこちらへ」



 ティアの出迎えに少し緊張が解れたリリアンはティアに部屋へと案内された。そこにいたのは嬉しさを隠しきれていないレオナルドの両親だった。



「ようこそヴェルモート家へ」

「はじめまして、リリアンと申します。本日は急なお願いを聞き入れていただき、ありがとうございます」

「まあまあ、堅い挨拶はなしにしましょう。さぁ、お掛けくださいな」



 シェリーネに促され、向き合う形で席に着くと紅茶が振舞われた。全ての準備が終わるとすぐにレオナルドが口を開く。



「父上、私はこちらにいるリリアンと結婚したいと思っております」

「そうか、おめでとう」

「……え?あ、ありがとうございます」



 付き合っている事を両親には伝えておらず、平民であるリリアンとの結婚をどう受け入れてもらおうかと考えていたレオナルドはソロンの返事に拍子抜けしてしまった。隣にいるリリアンもである。


 そんな驚いた表情の二人を見て笑い出したのはソロンだった。



「あはははは……何を驚いている。お前が結婚したいと言ったのであろう?」

「いや、そうなのですが。妙にあっさり受け入れられたので」

「それはそうですわ。だって、わたくし達はレオナルドが彼女を連れてくる日を楽しみにしていたのですから」

「ご存知だったのですか?」

「昔からお前は変なところで抜けておるな。私達も夜会に出ていたのだ。察するだろう」

「あぁ……そうですね」



 冷静沈着と言われるレオナルドも両親の前では形無しである。そんなレオナルドの姿に笑いそうになるのを耐えるリリアンとティアはお互い目を合わせて小さく微笑んだ。



「改めて私は父のソロン。こちらは妻のシェリーネと娘のティアだ。色々と面倒をかけると思うが息子をよろしく頼むよ、リリアンさん」

「こちらこそ、結婚を認めていただきありがとうございます。どうぞ、よろしくお願いいたします」

「よし、そうと決まれば紅茶など飲んではいられないな。酒を頼む!」

「ち、父上!?昼間から酒などお止めください!」

「祝い酒だ、祝い酒!晩御飯も食べていくといい」



 ソロンとレオナルドの掛け合いを眺めながら女性陣は楽しそうに笑い合う。するとティアがいつの間にかリリアンの側までやってきた。



「リリアン、おめでとう」

「ありがとう、ティア」

「これで私達はまた家族ね」

「!……本当だわ。ふふふ、これからもよろしくね」



 こうしてヴェルモート侯爵家に新たな家族が増えたのであった。



 ****


 花畑に囲まれた小さな墓の前に若い男女が立っていた。女性がゆっくり座り込むと、寄り添うように男性も座る。



「お母さん、私、結婚することになりました」

「初めましてお義母様、レオナルドと申します。娘さんは必ず幸せにしますから、どうか見守っていてください」

「大変な事ばかりだったけど、今は幸せだよ、お母さん。産んでくれて、大切に育ててくれて、本当にありがとう」



 リリアンは墓に刻まれた『アイリーン』の文字を優しく撫でる。


 全ての始まりは、この今は無きアース村だった。絶望のどん底まで落とされてもここまでこれたのは、大好きな家族の支えと新たにできた友人達のおかげ。その原点とも言える場所で眠る母にレオナルドと会いに来れたことをリリアンは深く感謝した。



「レオ、お母さんに会いに来てくれてありがとうございます」

「いいや、俺も挨拶したかったんだ。お義母様に誓えてよかったよ。連れてきてくれてありがとう、リリー」



 お互い笑い合うとリリアンは立ち上がり辺りを見回す。かつて育った自然に囲まれた村。それを名残惜しそうに見つめるも、満足したのか小さく頷き墓へと向き直る。



「それじゃあ、いってきます。お母さん」



 その言葉を残し、レオナルドとリリアンは墓を後にした。


 次にここへ訪れた時、墓の前に座った二人の間に小さな女の子がちょこんと座っていた。その女の子は母親を見上げて言う。



「ここがおかあさまの、たいせつなばしょ?」

「ええ、そうよ。きっとアイリスにもそんな場所がたくさんできるわ。そういう場所は忘れずに大切にするのよ」

「わかったぁ!」



 父親に撫でられた女の子は嬉しそうに目を細め、手に持つ花を墓へそっと置いた。こうして母親の大切な場所は娘へと引き継がれるのである。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

こちらで番外編も終了いたしまして、完結となります。多くの方に読んでいただけた事、本当に感謝しております。



最後のお墓のシーンですが、実は『想いの忘れ方を教えてください』では軽くしか触れていないお母さんのお墓です。こちらしか読まれていない方には、そんな話あったっけ?と思われたかとおもいますが、結婚することはお母さんにちゃんと告げさせてあげたかったんです。

作者の勝手な思いで混乱させてしまいましたら、申し訳ありません。


『神がつくりし世界で』の第1章1話から6話の内容で出てくるお母さんなのですが、亡くなったお母さんに会いに行ったのね、くらいでも全然大丈夫です!本当に勝手にすみません。



ということで(え、何が!?)これにてリリアン達の物語は終了させていただきます。お付き合い、ありがとうございました!


史煌

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