レシピ2 ケーキ 後編
リンが二段目のスポンジケーキにチョコレートクリームを塗り終わった頃には、三段目の小さなケーキは焼きあがっていた。
「今回は上手く焼けたかな」
スポンジケーキを手に取って、リンはつぶやいた。
そして、ロンが作った生クリームを塗った。
それが終わると三段ケーキになるようにスポンジケーキを乗せた。
「落ちそうかな? ま、いっか!」
リンはスポンジケーキを乗せながら言った。
面倒くさがりなリンは、あまり細かいことは気にしない。
リンは長い髪についてしまったチョコレートクリームを手で取った。
そして、イチゴを上にたっぷりと乗せて、チョコプレートにチョコペンで【たんじょうびおめでとう】と書いた。
それを乗せると、リンは独り言をつぶやいた。
「これでいいかな」
リンは三段ケーキを眺めながら笑った。
そして、リンは思い出したかのように「あっ」とつぶやくと、突然叫んだ。
「……って、あの4人遅い~っ!」
誰にも聞かれないリンの叫びは、小さな小屋に響いた。
リンは急に恥ずかしくなって、「私何してるんだろ……」とため息をついた。
しばらくすると、やっと4人が帰ってきた。
疲れた様子の4人に、リンはこう言った。
「どこまで行ってたの? 私、待ってたんだからねっ!」
そう言われるとロンは笑った。
「ごめんごめん。楽しかったからさ」
それが言い訳に聞こえたのか、リンは頬をふくらませた。
でも、リンはなぜか何も言わなかった。
リンは3人に向き直ると、出来上がったばかりのケーキが置いてあるキッチンを指した。
大きなケーキを見ると、3人は瞳を輝かせてキッチンの方に走って行った。
「お姉ちゃんすごーい!」
「かわいーい!」
「こんな大きなケーキを見たら、お母さん、喜ぶね!」
恥ずかしがりなセリアも、興奮したように飛び跳ねていた。
リンはお菓子を作る仕事が、とても好きになった。
「あ、でも……お金、どうするの?」
カリンが言いだした。
それを聞くと、セリアはうつむいた。
「お金……考えてなかったね」
リンはクッキーを買ってもらったときバニラエッセンスをもらったのを思い出して、こう言った。
「え? バニラエッセンス、持ってたのに、お金……」
そう言いかけたところで、リンは手で口をふさいだ。
失礼だと思ったからだ。
「ご、ごめん」
リンはお辞儀をして謝った。
すると、ロンが口を開いた。
「お母さんの名前、なんて言うの?」
リンはロンがなぜそんなことを聞いたのか分からなかった。
でも、ロンが真剣な顔をしているのを見て、何か考えているんだと思った。
「え? マリー、ですけど……」
ルリはそう言った。
それを聞いて、リンは目を見開いた。
「マっ、マリー!? あの、有名なお菓子職人の……っ!?」
マリーは、リンが憧れているお菓子職人だった。
リンはニュースでマリーがお菓子職人を引退したと聞いて、とても残念に思った。
それは、最近のことではなく、1年ほど前だった。
マリーに憧れてお菓子を作るようになったリンは、マリーの作ったお菓子をテレビで見て、真似して作っていた。
そんなことをしているうちにマリーは引退してしまい、それからの一年、リンは基礎から学び始めた。
それまで何の勉強もせず作っていたのだから、才能があったのかもしれない。
どちらにしろ、リンはマリーがお菓子職人を引退しても、お菓子を作り続けるつもりでいた。
それは、誰もが分かりきったことだった。
それくらい、リンはお菓子作りが好きだったし、たくさんの人との交流もあった。
その中には、人の形をしていないモノもあった。
「リン?」
ロンの声に、リンはパッと顔を上げた。
リンはマリーのことを思い巡らせていたのだ。
「あ、えっと、とにかく! ケーキ、できたからっ……!」
リンはそう叫んだ。
でも、セリアたちは困ったようにして、ケーキのほうを見ないようにしていた。
「あ、お金は、いいよ。今度でも」
リンがそう言った瞬間、三人は驚きながら瞳を輝かせた。
「本当にいいんですか!?」
ルリがそう聞くとリンは笑顔で言った。
「いいよ。誕生日は待ってくれないでしょ? さ、今すぐケーキ持って帰って! ケーキ落とさないようにね! あ~、不安だからロンついていって!」
ロンはリンのいつも通りな指図に苦笑いしながらも、少し安心していた。
リンが驚きすぎてどうにかなってしまうのか心配だったからだ。
――――――そして、ロンとリンの別れの日が迫っていた。




