第8話 転生者、魔道具を量産する
僕は博士に量産する為に転写機を作ると言ったのだ。この転写機を使って魔道具の魔法陣を円盤に魔法インクで刷り込む。動作確認して、問題があった場合は、魔法インクを魔力水で洗い流して再度転写し直す。そして、魔道具円盤に販売日付を入れ、販売後、3年間は不具合や性能低下があれば、何回でも洗って転写し直すことにしたのだ。
また、魔法陣の裏から水が出る様な円盤の特殊加工がある為、結果的に模造品も出来にくいと言う仕組みとなった。
転写方式での量産のテストを繰り返し、また、速乾性の魔法インクの開発も終えて、魔道具工房にも人を雇い入れ、商会と連動したテスト販売を行った。一カ月程度のテスト販売の良好な結果から、公爵である父へ報告し、正式な販売を行う事とした。
これで、毎回、食事に時に本当に販売できるのかと父と母からの質問攻めから逃れる事が出来る。そして、それを横目でにやにや見ていた兄達にも申し開きが出来る。
夕食前のいつもの会話が繰り返される。父上から話しかけられる。
「アルス、魔道具の販売は如何した?」
「はい、やっと満足いく結果が出て、明日から販売致します」
「おう、それは何より。長かったなぁ。それで、上手く行きそうか?」
一カ月の製品出荷テストで長かったと言われてもと金子の記憶がそう感じさせたが、アルスの世界と公爵家の常識では遅すぎるのかもしれない。ここは、この世界の常識で答える。
「ご心配をおかけし、申し訳ありません。公爵家の名に恥じないモノにする為に時間がかかりました」
「まあ、無理もない。まだ、アルスは7歳だ。大人の世界を理解するには時間がかかったのだろう。セバス、アルスはこう言うが、お前から見たらどうだ?」
「はい、正直申しまして、アルス坊ちゃまは大人顔負けの知恵をお持ちです。今回の魔道具は王都で評判になるモノと思われます」
「セバスもアルスをそう持ち上げたら、失敗した時にどうするのだ。アルスはまだ若い。失敗してこそ、明日がある。アルス、挫けるのではないぞ。あはは」
と、公爵は笑った。失敗が前提だ。
「いくら高名な博士がついても、所詮は7歳の子供。失敗して泣いても良いんだよ。その時は兄達も応援するからいつでも相談に来なさい」
長兄は笑って言う。次兄も重ねるように言う。
「父上の資産を使ったのだから、今後は大人しくしていろ」
「私はアルスちゃん信じます」
母はいつもの母だった。
まるで、本当に失敗してしまったかのような気分だった。僕だけが嫌な気分で食事をする。
翌日は博士と魔法理論と魔法陣の作成方法の論文まとめに費やした。もう授業どころではない気分だった。水の魔道具の販売が気になってしょうがないが、僕には知る術がない。
夕食の時間が来た。
父上からのやはり魔道具の売れ行きの質問が来る。父上からの叱責を待っている隣の次兄と長兄も興味津々だ。
「アルス、魔道具の売上はどうだった?」
予想通りだ。
「はい、僕は学院で授業をうけていたので、販売の状況は分りません。セバスに任せているところがあるので、セバスから答えてもらっても良いですか?」
僕は帰宅時に売上の状況はセバスと確認している。その打ち合わせの上でのセバスへ回答を求める。
「そう言えば、そうだなぁ。しかし、アルスは魔道具の開発販売の責任者だ。これからは作ったモノの責任はとれるようにしなさい。公爵家の定めだ。良いな。
ところで、セバス、売上はどうだった、やはり、素人商売は難しかろう」
「はい、結果から申し上げますと、当初予定した200枚は午前中で売れ、工房に増産をお願いしたとのことで、午後は100枚しか売れなかったということです」
「それはどういう事だ?」
「はい、あればあるほど売れたということでございます。テスト販売の評判を聞きつけ、発売を待っていた客が多かったようで、用意していた在庫はそれで尽きたとのことです」
「ほう、そうか?どれくらいの値段で販売したのだ」
「10Gでございます」
「それは高いのか、安いのか?」
「庶民は1月を3Gで暮らします。庶民が買うには少々高い値段です」
「ほう、アルスはどの程度の利益をもらうのだ」
「材料費と工房の維持費、商会の利益を除くと共同開発者とアルス坊ちゃまで6Gを分けることになります。なので、アルス坊ちゃまの本日の取り分は、900Gとなります」
「7歳の子供にしてはもらい過ぎではないか?まぁ、それは後で相談するとして、在庫がないのであれば、明日からの商売はできないのではないか?」
「いえ、人を雇いました。それで、増産しており、明日は、今日以上に販売することができると思います」
「でも、そんなに魔道具は簡単に作って売れるのか?」
「はい、アルス坊ちゃまがそれができるような仕組みを作られました。何回か練習すればすぐできるようになるので、増産は人を雇うことで簡単にできるようになります」
「ほう、それは良い。ところで、今回の利益はどうするつもりだ」
これも予想通り。セバスと打ち合わせしてある。
「はい、僕はまだ小さく学業の身のため、公爵家でご使用いただくのがよろしいかと思います」
「そうか、殊勝な心掛け、アルス、褒めて遣わす。優秀な息子を持って、この公爵家も安泰じゃ。それでは、食事にしよう」
少しだけ安堵した食事になった。ホッとしたのも束の間、隣で舌打ちの音が聞こえた。嫌な予感がした。




