38 アフタスペース294 部下たちはちゃんと見ていました。
別の人の視点によるリンガットの評価です。
(ゴゲン艦長)
船乗りというのは、宇宙時代に生まれた新しい種族だ。と、評する人間がいる。
300年前に人類が宇宙に進出したとき、地球での生活を忘れられない者たちは故郷を思ってコロニーを作り安住の地を求めた。対して未知への好奇心に駆られた者たちは、そこに至るための船を作り、宇宙へと漕ぎ出した。
真空の宇宙空間の旅は死と隣り合わせであったが、生命維持装置は当時の時点で充分に発展しており、数か月から数年の間、補給なしでも生活できる環境は既にあり、一部の人間は生まれてから死ぬまでを一つの船で過ごすこともある。
そういった思想や環境の違いは300年の間に積み重ねられ、気づけば言語レベルの特異性を生み出したという考えだ。
実際、船乗りの多くは、自分たちの船に愛着を持っているし、未知の領域にも躊躇なく舵をとれるぐらい、好奇心が強く勇敢だ。
艦長という責任のある立場になってずいぶんと経ち、人間として熟成したベテランであるが、その本質は変わっていないとゴゲンは自認している。その温厚そうな見た目に反して、船をただの足と思っているような輩や臆病者には尻尾を振らないほどの頑固さを否定する気はないし、逆に命じらればどんな危険な役目もこなす覚悟を持っていた。それは彼の部下たちも同様だ。
そんな彼らによって、ビックツリーの先代と次代はそれぞれ違う意味で理想の雇い主だった。
伝統を重んじ、厳格ながら船乗りの意志を尊重し敬意をもって接してくれた先代レイウッド・ビックツリーは、軍部に積極的に関わることこそ少なかったが余計な事を言ってこずに彼らは働きやすかった。彼の持つESPの影響もあるが、ゴゲン達艦長の人柄を信用して放任しつつも、アドリブや進言にも耳を傾ける度量もあった。束縛を嫌う人間が多い船乗りにとっては居心地の良い治世だった。
対して孫であるリンガット・ビックツリーは、若いながらも刺激に満ち溢れた人だった。祖父同様に船乗りの仕事を尊重しつつも、子どもっぽい好奇心から積極的に軍部の仕事に関わろうとした。彼自身は船乗りに近い気質をもっており、船に乗るたびに目を輝かせている姿は好感が持てる。一方でその突飛な発想で予想外、予定外の仕事を頼んでくることも多い。胡弓のような戦艦ともなれば年単位で運行が計画されている。リンガットはその計画を把握し、無理のない範囲で「わがまま」をねじ込んできた。そのどれもがとても刺激的だった。
新兵器の運用テストを頼まれた時は、大量の宇宙アリと接触し史上初の大捕り物となった。ホープからの特使が来られた時は、護衛計画に口を出し秘密裏に見守るように体制を変えられた。相手を不快にさせない配慮という建前こそあったが、あれは相手の動向をスパイする間諜任務の依頼だった。そこにリソースを割かれたせいでコロニー内での襲撃という事態は発生してしまったが、結果として多くの不穏分子を摘発できた。そのどれもが予想できるようなものではないが、リンガットは涼しい顔でそれらを解決していたので手腕も確かだ。
そして、今回のギャラクシーの遠征だ。リンガットの肝いりである人型ロボットの宣伝と新型船の注文のためのプライベートなものと言っていたが、そこにスラム出身の人間を同行させるという「わがまま」をねじこんできたのだ。彼が以前からスラムの人間と交流し有能な人間を重用していたことは知っていたが、自分たちの船によそ者を載せることに難色を示す乗員もいた。だが、リンガットはあえて争わせることでそのわだかまりをあっさりと解決してみせた。その方法は、船乗りの流儀に従って操舵技術を競わせるというものだ。表向きはゴゲンの助言に従っているだけのように見えたが、女性パイロットであるライスの腕前を偏見なく賞賛した姿を見た乗員たちは、彼の懐の広さに感心していた。
この人は大物になる。だれもがそう思っていた。だが、それは違った。
リンガット・ビックツリーはすでに大物だったのだ。
まず、腹に何を隠しているか分からない企業の重役相手との交渉、そこで最善の結果を勝ち取った。同行した護衛からの報告では交渉段階から熟練の商人も引くレベルの巧みさだったとか。それだけでもかなり面白かったが、新型ロボットミキサーの性能は、熟練の船乗りであるゴゲン達にとっても驚異的ものだった。本人は「わがまま」と言っていたが、二足歩行ロボットの有用性を見出し、私財を投げ売って研究を進めた慧眼を疑うものはもはやいないだろう。
さらに決定的となったのは、宙賊の襲撃へ対応と振る舞いだった。ギャラリーのほぼすべてがミキサーの性能に魅入り、本職であるゴゲンたちですら浮足だってしまう中、リンガットは自然な形で主導権を握り、的確に指示を出してほぼ無傷で乗り切った。その堂々とした姿に、癖のある船乗りたちや己の利益が最優先の商人たちは、自然と従い全力を尽くして役目を全うしようと思わされてしまった。
そして、それは現在進行形で成果を上げている。
「艦長。ゲストたちの護送が完了しました。引き続き周辺の警戒を続行します。」
「うむ、リンガット様は?」
「ええっと、話をつけるとのことで、ギャラクシーに戻られました。」
「そうか。護衛達にはリンガット様の安全を最優先に厳命しておけ。」
「了解です。」
艦長席で部下から報告を受けながら、ゴゲンは緩みそうなる口元を隠すために肘をついて考え込むような姿勢をとっていた。
正直に言えば、今の状況は軍人としては間違いだ。状況が状況なので、今は次期領主であるリンガットが指揮を執っているが、彼はゲストであり子供だ。今からでもゴゲンが指揮を執るべき盤面だ。
だというのに、ゴゲンはそれをしないし、部下たちも文句を言わない。むしろ次は何が起こるのかワクワクしているし、何があっても対応してやると意気込んでいる。
船乗りは勇敢であり、その原動力は未知への好奇心だ。リンガットが描いている絵がどのようなものか、そして、それがどのような結果を生むのか。気づけば艦長であるゴゲンを筆頭に部下たちは彼の存在に夢中になっている。
「全く面白い人だ。」
偉人とはああいう存在なのかもしれない。職権乱用して、今回の役目を勝ち取った男は、その笑みを隠しつつ、次の情報を待ちつつ職務に励むのだった。
しかし、彼らは知らない。
当の本人であるリンガットは、原作の知識からゴゲン艦長や軍属をバリバリ警戒していて御機嫌取りに必死なことを。ロボット開発は彼の趣味であり、そのためなら何でもする覚悟があることを。
「なんで、こうトラブルとフラグばかりなんだよ。」
なにより現在進行形で、自分の運の悪さにブチ切れていることを。
ゴゲン艦長「無茶をされますなあ。(ゲンドウポーズで笑いをこらえながら)」
リンガット「わあ、これ原作でもあった。放置したら破滅じゃん。」
趣味と破滅回避に全力なので、周囲からは名君に見えているリンガット様なのでした。
内容精査のため、次回更新は1日あけて、25日です。




