36 アフタスペース294 トラブルでも乗り切れば問題なし
ロボットバトル回です。
ボロボロになったコンテナから飛び出したミキサー。その勇ましい姿を見守る周囲の反応は驚きつつも冷やかかだった。
「これはさすがに。」
「まるで旧時代のレトロムービーですな。」
向かってくる宙賊からもどこか嘲笑じみた気配を感じる。それだけその光景は滑稽なものだった。
ミキサーは二足歩行ロボットだ。
あらゆる工作機械や運搬に対応できる器用さと、様々に対応し移動しできる踏破力とバランス。コロニー内や外壁、小惑星など、足場のある場所での運用においてこれらの特徴は圧倒的なアドバンテージとなる。
だが、宇宙という広大かつ上下の存在しない場所において、人型であることにメリットはあるのか?
これは二足歩行ロボットが実用化が進まなかった疑問の一つだ。
デブリ対策として発達したバリアのおかげで船体の形状が問われなくなったとはいえ、居住性や積載能力に関しては、旧時代から積み重ねられたノウハウのおかげで、船の形をしている方がコスパがいい。
それにミサイルやレーザーといった兵器が横行している現代の戦争においても、的は小さければ小さいほどいい。旧時代のように細長い形状の船が好まれているのにはそこにある。宇宙規模で考えると誤差の範囲かもしれないけど、正面から撃ち合ったとき、このわずかな差が勝敗を分けることがあるらしい。
となると、宇宙戦において、二足歩行ロボットにメリットはない?
そんなことはない。
『ははは、こいつはいい、目をつむっていても当たりそうだ。』
『否定、目視で当たる可能性は皆無。』
『ははは、微調整は任せるぞ。』
例えば、両腕の可動域を利用した攻撃範囲の広さ。両腕の可動域とパワーはありとあらゆる角度での射撃を可能とするし、全身を使ってバランスがとれるので、携行できる火器は同サイズの船よりも何倍も大きい。蝶のように舞い、蜂のようにさす。いや、トンボのごとく舞い、火山のように焼きつくすだ。
優秀なパイロットでもあるアルさんが乗っているミキサーが持っているのは胡弓にも搭載されているレーザー砲だ。携帯させるために数発しか撃てないけど、小型船並みの軌道で飛び回り、至近距離から攻撃されたら、大型船ですら食い破られる。
また、絶妙に身体を捻って狙いを外されるので宙賊の攻撃はそのことごとくがかわされる。初手でシーカーミサイルを使い切ってしまった宙賊には威力重視のレーザー砲しか残っていなかった。弾速こそ速いレーザーであるが、発射までにわずかなラグがあり、まっすぐに伸びるので、射角の予想は容易い。
「まるでシューテイングゲームだ。」
共有されるミキサーのコクピットレーダーには、宙賊の予想進路と攻撃可能な射角が視覚的に表示されている。これは、メトルが観測した情報を俺が解析で分析した情報支援によって視覚化したものだ。アルさんはそれを見ながら的確に位置を変え、次々に敵を打ち落としていく。その動きは必要最低限で、まるで宙賊の攻撃がすり抜けているかのようだ。
「これは恐ろしい、航空戦の概念が覆りますぞ。」
「むしろ、なんでこういう機動戦が今までなかったのか、僕は疑問だよ。」
船の移動範囲や火器の射角には限界がある。機体のデーターさえあれば、既存の船を改造しただけの宙賊の船なら解析を使わなくても予想ぐらいできると思う。それこそ、そういうデーターを収集し、アウトプットしたものが、訓練用のシミュレーターなんだから。
「そもそも、ここ100年はまともな戦闘がありませんでしたからな。宙賊を相手にする場合も数と火力で押し切る戦法が主体ですし。」
「宙賊は宙賊で命がけのヒットアンドアウェイ戦法が主体と。なるほど、そもそもこんな白兵戦じみた戦いはしないってことか。」
そもそも、この戦法そのものが斬新なものであったか。原作の宇宙での基本戦術だったけどなあ。
となると、安心させるためにレーダーを見せたのは失敗だったかもしれない。いや新たな商品として売れるかもしれないから宣伝になったといえるか?
ともあれ、たった数分で5機の宙賊船を撃墜した戦果は、宇宙戦におけるミキサーの有用性をアピールするには充分だろう。
まるで水中を泳いでいるような自由度の高さは、これこそがミキサーの恐ろしさだ。
『ははは、おそい、遅いぞ。』
『Excellent。次はこいつを狙うんだ。』
『任せろー。』
まあ、カナデの異常さに比べるとアルさんの操縦はまだまともである。
彼専用にカスタマイズされたミキサーは、アルさんのそれよりも最大加速にすぐれ、その両手には工業用の裁断機を加工した大型ブレードが装備されている。そんな物騒なものを両手にもった赤い化物が突っ込んでくる光景は、かっこよさよりも恐怖が勝り、相手には同情してしまう。
そんな漫画のような近接特化装備でありながら、カナデは初手から全速で、宙賊の集団に突っ込んだ。
「はああああ。」
「むちゃだ、さすがに死ぬぞ。」
この蛮勇には、俺以外の仲間たちから悲鳴が上がった。いくら速いといっても、レーザーよりも速く動けるわけがない。当然のように10隻の宙賊はレーザー砲で弾幕を張り、突撃してくる得物を網のように絡めとろうとした。スピード自慢の船を相手にするときの定石と言える戦法だ。
だが、カナデはそのレーザー砲撃の網をするりと通り抜けて、手近な一隻を撃ち落とした。
うん、設計し、作らせた俺が言うのは、あれだけど、頭おかしいわ。
動揺した敵の運命は悲惨なものだった。トップスピードのまま行われるジグザク飛行に翻弄され、そもそそも狙いは定まらない。やぶれかぶれで船ごと突撃しても、絶妙に機体を捻りながらすれ違われる。その際にブレードを振り回すのだから、接触した船は魚のように捌かれていく。
一度なら偶然だ。だが、そんなことを繰り返すこと5回。最後に至っては逃げ回る船を追い回した上にコクピットだけを切り離すという離れ業まで成し遂げやがった。
「ねえ、アルさん?」
『なんですか?』
「なんで、あれでブラックアウトしないの?」
『わかりません、あいつが異常なんです。』
「だよねー。よかった。」
あらかじめ動きをプログラミングされたドローンや無人機だったら可能な動きかもしれない。だが、描かれる軌道と予測される負荷はジェット機などとは比較にならない。衝撃減衰などの安全装置は一応組み込んであるのだが、カナデの動きに対応できるものではない。仮に俺が乗っていたら最初の突撃で意識がブラックアウトしていただろう。
『ええ、もう終わりか。物足りない。』
『YES。稼働限界にはまだまだ余裕だぜ。』
だというのに、モニター越しに見えるカナデはピンピンしている。なんなら、戦い興奮が冷めないのか、ジグザク走行やムーンサルトやトリプルアクセルみたいな曲芸じみた動きで飛び回っている。
宣伝になるからいいけどさあ。
解析によって推定されたGとか負荷の数字だけでも気持ち悪くなるレベルの曲芸飛行には、全員がドン引きしていた。
さすがは原作主人公。原作開始前からすでに化物だ。
ロボットの戦闘シーン、描写が難しい・・・。
補足
アルさん・・・足を止め、最小限の動きで敵の射線から逃れつつ狙撃して撃破。
(すごいけど、ベテランのパイロットなら再現可能)
カナデ・・・自身の負荷を配慮しない曲芸飛行で敵を翻弄。突撃して相手を潰す。
(普通なら、衝撃で意識が飛ぶので人間技じゃない)
リンガット・・・解析で2人の動きを正しく理解。再現は不可能
その他・・・リンガットの解説とモニターの再現映像で何が起こったから状況を理解。




