渡辺さんは少女になりましたが?
これは、精神病棟に入院しているOL、渡辺ナオが誰にでも語る話である。
この作品は、私が聞くことができた限りの内容を、稚拙な文ながら
まとめ上げたものである。
そして、渡辺は話し終わった後に、いつもこう付け加える。
「昔の話ですから」と。
渡辺はごく普通のOLであった。
ごく普通というのは、大手IT企業にシステムエンジニアとして勤め上げ、そのコーディング技術の手腕一本で社内から「バグ知らずの渡辺」の異名を勝手につけられるほどのことである。
そんな渡辺には膨大、かつ重大な仕事が回されることも少なくなかった。
ある日の朝、渡辺は動けなくなった。
止まった時のなかにいるように、手足が全く動かせない。
悲しくないはずなのに涙が止まらない。
渡辺は人一倍繊細で、人一倍真面目な性格だった。
自分に回された仕事はほとんど人に任せようとせず、自分で抱え込んだ。
人とかかわるときには誰よりも気を遣おうとして、神経を張り詰めた。
それは昔からの傾向であったが、それが渡辺の心身を無意識のうちに蝕んでいた。
渡辺は、会社にいけなくなった。
会社に行けなくなると、渡辺は自分の生きる意味を見失った。
毎日のように手や首に深い傷をつけ、首吊りや飛び降りをしてどうにかして死のうとした。
毎日摂取するのはペットボトル一本の水分とカップラーメン一食だけ。
ほとんどの時間はは横になるか、たまにビールを片手に自らの命の価値を吟味しては泣いた。
自らの命をそうして蟑のように無様に伸ばしていることに対して、申し訳なさと嫌悪を感じながら生きた。
そんな毎日を続けていたある日のこと、渡辺は異変に気付く。
いつも寝ているはずのベッドが大きい。
否、ベッドだけではない。
机も、棚も、小さなベランダに続く硝子戸さえも、
部屋の中すべてが大きくなっていた。
「なんか…私…小さく…?」
渡辺は自らが小さくなっていることに気づいた。
鏡の前に立ち、渡辺はその時初めて理解した。
渡辺は、少女になっていた。




