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―― まほろばの鬼媛 ――  作者: いわい とろ
夏の章・8月編 "続・騒がしい夏"
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夏の章(8月編)その11




 ―― ふっ、流石は"多くの先輩諸氏を押し退けて、水の鬼の王の地位"を得ただけの事はあるな。その小賢しい察知能力だけは認めてやろう。――



 鈴鹿の警告に反応するかのように、鳥居の影から現れた"大女"。

 その、太々(ふてぶて)しい物言いに、僅かだが鈴鹿の目付きが鋭くなる。

 しかし、内に秘める煮えた想いを抑えつつ、鈴鹿は『先の戦役で"帝国"や"民国"の侵攻を度々阻止したという功績に免じて、その無礼な物言いには目を瞑りましょう。しかし、自らより遥かに力で劣る者を襲撃して、手傷を負わせる。ましてや、それが"二ッ岩大明神"縁の者となれば、事と次第では佐渡狸だけでなく四国狸の者達と争う事も辞さないという意思表示と看做(みな)すが?』と述べ、相手の反応を見極めようとした。


 すると、件の大女は含み笑いを見せつつ『ハッ、佐渡や四国の狸共が束になって掛かったところで、ワタシが……いや我々が負けるわけ無かろう。』と豪語した。

 鈴鹿はその話を脳内で分析する。この大女の発言の通りなら、先代の土の鬼の王に強訴した土の鬼の王候補だった者達は複数名居るという事になる。

 そして、諏訪に赴いた先々代の鬼の王達や先代の土の鬼の王らが幽閉されている可能性を想起せずにはいられなかった。



『立場柄、上から目線で言わせてもらう。……先々代の方々や先代土の王は無事なのだろうな? もし、何かしらの事態になったのであれば……』



 鈴鹿がそこまで口に出したところで、目と鼻の先に立つ大女は『安心しろ。我々とて目上の存在をぞんざいに扱う事はせぬ。ただ、少しゆっくりしてもらっているだけだ。』と語り、鈴鹿の言葉を遮った。

 その上で更に『詳しい話は、貴様の後ろに隠れている子狸から聞くが良い。今はまだお前を始めとする"今の王"と本格的に事を構えるつもりはない。』と述べたあと、最後にこう付け加えたのである。



『我々は紬花と称する者を土の鬼の王として認めた訳ではない。先の戦役のあと、先代が何の説明もなくアレを後継者に指名した。その事で不満を持つものは少なくないのだ。それは土だけでなく、他の者も同じだと言うことを忘れぬ事だ。』



 そう語ると、その大女はまるで土人形が崩れるかのように砂塵へと帰っていく。

 その途中で『水梨鈴鹿を称する者よ、貴様も精々身辺に気をつける事だ。鬼の王の地位を欲する者は常に居るのだからな……』と、更に念押しするような発言を放ち、完全に砂塵となって消えていった。


 完全に大女の気配が消えたのを確認すると、鈴鹿の張り詰めていた氣が一気に緩む。

 その上で、改めて後ろに居る子狸娘に対して事情を説明するように告げるのであった……
















 暫くののち、子狸娘は鈴鹿に連れられて今川家の居間に通されていた。

 そこでは、山菜料理一式が用意された状態で、美羽音と美紗音の姉妹が先に食していた。もっとも、美羽音は境内から感じた気配に気づいていたものの、同じように気づいていた美清に抑えられていたらしい。


 そんな場に鈴鹿が見知らぬ少女を連れてきたので、美羽音はともかく、美紗音は興味津々となる。だが、鈴鹿から『この者は化け狸でもあるぞ。』と説明され、急速に興味が薄まっていった。

 その反応を見てよく解らないがショックを受ける狸娘に鈴鹿が一言。



『御先代の次女君(じじょぎみ)は御狐様。つまり稲荷神や稲荷人に傾倒しておられる。まあ、そんなにガッカリする必要はあるまい。』



 世の中広いから、狸を愛でる者も居るだろうと遠回しに述べる鈴鹿であったが、遠回し過ぎて狸娘には通じては無かったようだ。

 真面目であるがために、割と正直に述べてしまう鈴鹿の個性は、かつての水の鬼の王候補時代から変わらず、それゆえに彼女が鬼の王となった事に納得いかないと感じる者達は少なくはない。

 土の鬼の王候補だった大女の言動を思い返し、いずれ自分にも挑み掛かる者が現れる可能性を感じつつ、鈴鹿は美清に話があると述べ、狸娘を連れてその場を離れる事となる。






『……では、貴女は諏訪で起きた火急の事態を知らせるために、佐渡から諏訪に参りに来た足で佐世保(ここ)まで来たという訳ね。えっと、確か二ッ岩の縁者の。』



 先代水の鬼の王でもある美清から尋ねられるも、名前を名乗って居なかったため、単に二ッ岩大明神の縁者という風にしか知らされてなかった事から、狸娘は改めて自己紹介を行う。

 曰く『名乗りが遅れて申し訳ありません。わたくし、二ッ岩大明神の社にて奉公しています"砂金(さごん)里穂"と申します。当代の鬼の王だけでなく、先代様に拝謁できる機会を得た事、誠に恐悦至極です。』と。

 その、あまりにも時代劇じみた語り口に鈴鹿が『そう固くなる必要はない。御先代も私もだが、随分と人間の生活に慣れている。古くから人間との繋がりがある君たちが遠慮しなくても構わん。』と述べた。

 もっともそのあと『私はともかく、あのバカなら"無礼講"とか言うのだろうがな。』と心の中で呟いている。無論、あのバカとは"東雲いづる"の事である。


 そして話は佐渡狸の"砂金里穂"がどうして佐世保まで来たか?という事になるのだが、ここで美清と鈴鹿は思わぬ事実を知る。それは……



『何っ!? 信濃全域、いや諏訪地域が霊的に封鎖されている!? それは本間か?』



 真面目な鈴鹿の口から出たダジャレに、美清は一瞬呆れつつ『鈴鹿さん、そのダジャレはちょっと……』と引かれ、里穂からは『その本間は、佐渡の本間姓に引っ掛けたダジャレですか? 不謹慎とは思いますが、あの、その……笑える人と笑えない人がいると思います。』と、明らかに不審人物を見るような視線を向けられる事となってしまった。

 これには鈴鹿も慌て『いや、その、たまにはハメを外したくもなる時がある。ましてやあの者が境内まで入り込んできた直後だ。少しは緊張感を柔らかくしたくてだな……』と、初めは早口よりだったが、最後の方はすっかり小声になってしまった鈴鹿である。


 そんな鈴鹿を横に置き、先代水の王でもある美清は『諏訪全域が霊的封鎖? ……いささか面倒な事になってますね。あの地にも稲荷社はあったでしょうけど、封鎖されては稲荷神の情報網も寸断されたとしても不思議ではありません。だから佐渡から諏訪大社に二ッ岩大明神の社を代表して来ていた貴女がこちらに?』と語る。

 その問いに里穂は『はい。当地の稲荷神から言伝を託されました。「緊急事態。先代土の鬼の王と、先々代の鬼の王三名、諏訪のどこかに幽閉された模様。急ぎ当代の土の鬼の王である土屋紬花様にお伝えするように。」と。正直、狐から託されるのは好きではありませんが、緊急事態という事は理解したので、大急ぎでこちらへ。ですが……』と語ったところで、ダジャレの空振りから復帰した鈴鹿が『あの者がお前の諏訪脱出に気付いて追撃を掛けてきたのだな。よく鬼の王候補の者の追撃を凌ぎきれたな。』と語ると、自然と里穂の頭に手を乗せて擦る素振りを見せる。


 それはまさに"ナデナデ"であり、撫でられた里穂が顔を真っ赤にしつつ『お、恐れ多いです。今の水の鬼の王自ら私ごときを労ってもらえるなんて……』と、恥ずかしげに答えていた。

 それを見て、美清も『あら、鈴鹿さんだけずるくない? 私もナデナデしようかしら〜。』と、明らかにノリノリになってきており、里穂は『や、やめてください! 恐れ多すぎて昇天してしまいますぅ〜。』と叫ぶのであった。――















 ―― 翌日、今川家で一泊した里穂を連れて、鈴鹿が水梨邸を訪れた。

 そこには土の鬼の王である土屋紬花が居候している訳だが、里穂が驚いたのは紬花の存在ではなかった。

 彼女にとって、極めて懐かしい見知った顔が邸の庭先に居たからである。それは……



『あ〜!? "鶴様っ!" 鶴様だぁ!!』



 この一言と共に、里穂が駆け寄った人物。それは夏休み期間で水梨邸に逗留していた"東雲美鶴"であった。

 美鶴の方も、駆け寄る狸娘に見覚えがあったため『貴女は……確か佐渡島の砂金(さごん)さんじゃないですか!? なぜ貴女がここに?』と述べるほどであった。

 そう語る美鶴に、駆け寄りついでに狸姿に戻り飛び込む里穂。それを受け止める美鶴の姿を見て、鈴鹿は『御媛は化け狸すら手懐けていたか。……ってか、あのアホ、御媛を佐渡島に連れて行った事があるのか?』と内心思うのであるが、その直後『おい鹿野郎、佐渡に美鶴を連れて行った事があるのかって面してるぞ。』と言う台詞と共に、邸の奥からいづるが他の者達……小蓮と紬花、邸の主である伊鈴を伴い現れたのである。

 そしていづるは視線を美鶴に抱きかかえられる狸に向けると『二ッ岩大明神のトコの小狸じゃねぇか。確か1年ぶりくらいか?』と語りかける。その問いに里穂は『あっ、破邪神様だ……。じゃなくて東雲様、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。』と、少々不穏な事を含めつつ、挨拶を交わす。

 その言葉に『破邪神ねぇ……まぁ、良いや。あながち間違いでもねぇし。』と述べ、さほど気に留めない態度を見せる。


 一方、同時に出てきた小蓮は『お前はぁっ!? またしてもお嬢様にくっつくかぁ!!』と見るなり即座に一喝している。もっとも里穂の方も『やはりお前も居たかぁ! 鶴様に付いて回る台所の油汚れっ!!』と、こちらも一歩も引かない発言を発している。

 この双方の罵詈雑言を見て『やれやれ、狸と狐の宿命とはいえ、顔合わせでこれかい?』と呆れた表情を見せる伊鈴と、その騒がしさを目の当たりにして『狸と狐の日常、いつもの事。大した事じゃない。』と、淡々と意見を述べる紬花であった。


 しかし、紬花の姿を見て、里穂は美鶴の元から飛び出し、空中で縦一回転しつつ、再度人の姿に戻ると、そのまま紬花の目先の位置に着地し、素早く片膝を付きつつ、こう語る……



『土の鬼の王であられる土屋紬花様ですね? 私、二ッ岩大明神を祀る社に奉公している"砂金里穂"と申します。本日、御前に参じたは緊急の話があるためなのです。ご無礼のほどお許し頂けますと助かります。』



 先程までと異なり、恭しく畏まった姿勢を見せつつ自己紹介と要件の一部を口に出す里穂。

 彼女の口から出た"緊急の話"という言葉を聞き、何かを察したいづるが鈴鹿に問いただしている……




「おい鹿野郎、小狸がここに来てるって事は、ただ事でない事態が起きたって事か?」


「ああ、残念だがその通りだ。しかも、それに先々代の方々や先代の土の鬼の王も巻き込まれている。」


「何っ!? 婆さん達や先代つっちーもかよ! 何が起きた?」


「……意外だな。お前なら察していると思ったが。昨日の気配に気付かなかったか。」


「昨日の? ……ん? そう言えば、僅かにザラついたモンを感じなくも無かったが。」


「何だ、ちゃんと察知してるじゃないか。実は昨日の日没前にだな……」




 このあと、鈴鹿から一連の話を聞かされたいづるは『へぇ〜、それで小狸が危険を承知で佐世保(ここ)まで来たって訳か。しかし、稲荷神の情報網が遮断される規模の霊的封鎖となると、これは一人や二人じゃないな。』と述べる。

 そのいづるの声が聞こえたのか、周りにその場に居た面々が集まってきたため、いづるは里穂に対して『お前がここに来た目的を説明してやれ。』と告げる。

 それとは別で『特につっちーは小狸が話すまでもなく理解してるとは思うけどな。』と述べると、紬花の目付きが瞬間的にだが険しくなったのは言うまでもなかった。


 かくして、佐渡狸の少女"砂金里穂"の口から諏訪で起きている事態が語られる事となる。

 それは"騒がしい夏"をより騒がしくする引き金となるのであった……






 ー つづく ー

 


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