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―― まほろばの鬼媛 ――  作者: いわい とろ
夏の章・8月編 "続・騒がしい夏"
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夏の章(8月編)その9




 ―― その時、東雲いづるを始めとする水梨邸の面々。そして、客人である今川美羽音と永松はずみは、空から降下してきた金髪三人組……

 いや、正確には金髪三柱組と邂逅する。


 そう語れば荘厳さはあった事だろう。だが、いづるから見れば"見知った三馬鹿"が揃って降りてきただけにしか見えてはいなかった。


 そんな雰囲気を察したのか?

 金髪三柱の内、朱色の直刀型首飾りを持つ少女然した人物が、突如腰から下げた直刀を抜き、新たに設置したばかりのスイカに斬りつけたのである。


 見事に真っ二つになるスイカ。唖然とする一同。斬りつけた姿勢から立ち上がる様に動き、そして胸を張りつつドヤ顔をする金髪少女然した張本人(?)

 直後、遅れて降り立った者達が注意をするように話し掛けた……




「おい劔よ! そなた一体何をしておるのじゃ!?」


「ん? なぁに、顔見せついでにこのスイカとやらを斬ってやった。これはそういう事なのであろう? 予はそう判断したが?」


「まてまて、いづるらの楽しみを奪う行為はどうかと思うぞぇ? あまりの事に妾もドン引きしてしまったぞよ。」


「"玉"も"鏡"も大袈裟よのぅ〜。このくらいの事で天地がひっくり返る事でも……」




 ―― ひっくり返る事でもあるまい。――



 そう語ろうとした金髪ドヤ顔少女然したその闖入者は、己の背後に異様な気配が出現した事を即座に察した。

 そして少し真顔になりつつ背後を振り向こうとした時……



『おい"ポンコツ三号"、偉そうに降りてきたついでにスイカを斬るとは、随分と大した事をしてくれたじゃねぇかぁ〜? アタシらの楽しみを奪うとか、お前らの決まりとやらじゃ、問答無用で行なって良いってか?』



 明らかにドスの入った低い声で、恐い顔を露わにするいづるの姿がそこにはあった。

 次の瞬間、ポンコツ三号と呼ばれた少女(?)の頭部を左右から拳骨で挟み込み、無言でそのまま持ち上げるいづると、挟まれて『い、痛いっ! 痛いぞいづるよ! よ、予にこのような事をして、お主ただで済むと……』と口走った所で、更に拳骨挟みが強くなったため、『や、やめ……頭が割れる。砕けてしまうぅ〜! 分かった、分かったからやめてくれぇ〜。予の頭は、スイカじゃ、ない……』と告げたが、その直後、白目になり口から泡を吹き出し気絶してしまった。


 それを確認すると、いづるは挟み込みを止め、まるで生ゴミを見るような視線を、地面に落ちてうつ伏せに倒れピクついている"ポンコツ三号"こと"御劔様"に向け、『これで二十数年前の不意打ちの件はチャラにしてやるぜ。』と告げるのだった……






 『全く、いづるは加減というモノを知らなさ過ぎる。依代たる今の身体だけでなく、"異空の果てに聳える予の本体"まで震えて痺れたぞ! ……ったく、予がその気になれば、この世界の一つや二つ、真っ二つにするなぞ造作もないと言うに。』



 ピクつき具合から回復したポンコツ三号こと"御劔様"は、即座にいづるに対してこのような事を述べて抗議していた。

 もっとも、いづるからすればどこ吹く風の如く、口笛吹きつつ視線を逸らしていた。


 そんな両者を横目に、サーナと御鏡様の双方は、他の水梨邸の面々らと会話をしていた。

 初めに話しかけたのは邸の主である水梨伊鈴であった。彼女が『アンタ達が一所(ひとところ)に集まるなんていつ以来かねぇ。(サーナ)はともかく、いせなの所に居る鏡まで来るとは……』と語ると、その鏡こと御鏡様は『実は最近、いせなの従姉妹の金髪小娘が毎日の様に来るでのぅ〜。あの者、姿を消している妾の存在を無意識に感じ取っているようでな、流石に居辛くなって今日はコッチに来た。』と答えている。

 すると、隣で聞いていた永松はずみが『いせな? それは東棟の寮生である"宮城いせな"の事か?』と尋ねてくる。それに対し御鏡様は『お主は……ああ、確か"爆弾正"とやらか。まあ、そなたの申す通り、その宮城いせなのことじゃ。今、妾はいせなの部屋に居候しておる。』と答える。

 だが、その直後、永松の口から『爆弾正は余計な一言じゃぁ〜!!』と言う憤怒の叫びが放たれ、そのまま御鏡様に突っ掛かろうとした。だがしかし、"彼女"は背後から即座に首根っこを紬花に掴まれてしまう。その上で『止めろ。人間じゃ、返り討ち。』と、どことなく低い声で釘を刺されてしまう。

 前世が稀代の梟雄(きょうゆう)であっても、勝てないものには勝てない。そう言いたげな紬花であった。


 一方、そんな不思議なやり取りを見ていた今川美羽音は『爆弾だか爆発だか知らねぇが、永松先輩をおちょくり倒して涼しい顔してる奴が居るなんて……世の中狭いというか何と言うか。この場に織部の奴が居たら発狂してそうだぜ。』と、見た事に対する感想を口に出していた。

 当然の事だが、美羽音は永松の前世が戦国三梟雄に数えられる場合もある人物である事を知らない。彼女がその事実を知るのは、この日よりかなり先の未来の事である。


 他方、サーナは美鶴に御劔様の無作法を詫びていた。




「済まぬ。アレはいづる以上に"無理で道理を捻じ曲げる"気質の主でな、何事も真っ二つにすれば良いとさえ思っているところがあるのじゃ。」


「はぁ……。それはつまり、かーさま以上の理不尽の権化でもあるという事ですか。そして、サーナさまと行動を共にしている事や、かーさまの接し方を見るに、あの御劔さまとは……ん〜、これより先は今、口に出すべきでは無いですね。」


「お? 空気を読んで貰えて助かる。流石に聡明な娘よな。どこぞの輩とは大違いじゃ。」




 そう述べた時『聞こえているぞポン神。』という、どこぞの輩こと東雲いづるの一言が飛んできたのは言うまでもなかった……






 さて、騒がしい三人組(?)が来た所で、いづるは改めてスイカ割りをやろうとする。

 当然だが、御劔様がまたしてもスイカを真っ二つにしようとしかかったため、いづるが割って入ってその行為を食い止めると『待てぇ! スイカ割りには、ちゃんとした決まりがある! お前はそんな事すら守れない無法者か? 』と罵る。

 明確にムッとするが、即座にいづるが側に寄り、コソッと耳打ちしている。そのいづるの話を聞くうちに『ほぅ。そんな決まりがな。よし、いいだろう。その決まりで勝負してやろう。』と語り、手短な木の棒を手に取り、視界をふさぐように布切れを頭部に巻き付けていく。


 こうして、スイカ割りを行う第一段階ば終わり、そこから第二段階……つまり"その場で木の棒を軸にぐるぐる回る"という事を始める事となる。

 回転は時計回りに10回、反時計回りに更に10回回り、その上で周りの何人かの発言を聞きながらスイカを目指すというものであった。


 だが、この時"御劔様"はいささか小者じみた事を行おうとしていた。



『……おい、玉と鏡よ、聞こえているか? 少々力を貸せ。』



 唐突に玉ことサーナと御鏡様の頭の中に御劔様の声が聞こえた。それは彼らのみが持つ深層の繋がりを利用した特殊な念話術であった。

 御劔様の声が響いた時点で、サーナも御鏡様も、御劔様が何を言いたいかを察していた。そして……




「やれやれ、そなたも源初の神の一柱であろうに。いささか子供じみておらぬか? 我や鏡の視覚を共有して、あのスイカとやらの位置を見定めておこうと言うのであろう?」


「悪いか? 予は三柱の中では"破壊"を司る者。そのものが一度真っ二つにできた物を再度真っ二つにできねば、源初神の名折れというモノよ。」


「劔よ……。妾達の視覚をそのような情けない理由で共有したいのか? 妾は実に悲しいぞぇ。」


「ええい、そんなつまらぬ嘘は止めろ。深層で繋がっておる時点で鏡の手の内なんぞお見通しじゃ!」


「むっ……。こんな時に深層で繋がっている事が悪い方に転がるとは。やれやれ仕方ない。妾の視覚は共有してやろうぞよ。玉の方も良いな?」




 御鏡様からの要求に、サーナは『はぁ〜。好きにせい。しかし我は知らんぞ。』と、素っ気ない返答をしつつ、御劔様に視覚を貸す事を承知するのであった。






 こうして始まる"破壊を司る"神こと"ポンコツ三号"御劔様のスイカ割り。

 言われた通りに時計回り、逆時計回りにそれぞれ10回づつ回ると、御劔様は感覚が狂った事を察した。



『ほぅ、これは確かに。視覚が奪われ、それ以外の身体的感覚も狂わされるか。単なる人間なら、対処に苦慮するであろう。しかぁ〜し、予は凡百に非ず! 既に視覚共有で見えておるぞ……』



 そう内心語る御劔様だったが、何事もなくスイカに向かうと不自然と思ったのか?

 周りの者達が何やら言っている事に気付くと、その言葉に少し乗ってやろうと思うのである。

 当然だが、周囲の面々はスイカの位置を教えているのだが、お決まりの如く嘘を述べる者が少なからず居た。

 特に永松はずみと今川美羽音の両人は明らかに嘘を述べている。美羽音はともかくとして、はずみは松永弾正なので、並みの人間なら騙されても不思議でない佞言を交えて言葉を発していた。


 逆に本当の事を述べているのは小蓮であった。この辺りは彼女の真面目さが出てしまっていると言えた。

 この場には居ないが、もし居たならば"山県那苗"も本当の事を言う側だった事だろう。


 それらの言葉を聞きながら、時に騙す側の言葉の通りに動いてみせたかと思えば、小蓮の言葉に合わせて動く様に見せかけながら、御劔様は確実にスイカへと近づいていた。


 一方、嘘を交えた発言を発し続けていた永松はずみは『ん? おかしい。あの者、確かに儂や今川めの言葉に従うような動きを見せながら、確実にスイカに寄っておる。どういう事じゃ? まるで見えているかの様に思えるのじゃが……』と、松永弾正としての考えを抱いていた。

 そして、御劔様がサーナと共に降りてきた事を思い返し……



『信貴山で自爆して、次に意識が戻った時には永松家の娘として生を得た後であった。そして暫くののち、一人で動ける年齢になった頃に儂の前に現れたのがサーナと名乗るあの金髪小娘擬きだったな。もし、あのスイカ割りを行っている小娘とサーナとやらが同類だとすると……』



 何かに気付いたはずみは思わずいづるの方に視線を向ける。

 その視線を向けられて、いづるはそれに気付くと同時に何かを察知するのであった……






 なんだかんだ動いた末、御劔様はついにスイカの手前までやって来ていた。



『フッフッフ。色々騙される振りをするのにちと骨を折ったが、何とかスイカの前まで来てやったぞ! さあ、スイカよ、再び予の一振りによって真っ二つになるが良い!』



 そう心の中で述べ、勝ちを確信した御劔様は、持っていた木の棒を振り上げる。

 次の瞬間、全力で振り下ろした木の棒がスイカを直撃。スイカは見事に真っ二つになった。


 そう、真っ二つになった……ハズだった。

 だが、真っ二つになったスイカを自身の視覚で確認すべく、視界を塞いでいた布切れを外した瞬間……



『なっ、なん……じゃと!? スイカが真っ二つになっておらぬではないか!? これは一体どういう事……』



 御劔様の視界には、何事もないスイカの姿があった。困惑気味の御劔様だったが、程なく不自然な動きをする人物に気付く事となる。

 それは誰あろう東雲いづる、その人であった。彼女は何やら明後日の方を見ながら口笛を吹きつつ、背中に何かを隠す仕草をしていたのである。


 この時、御劔様はある事に気付いてしまうのであった……



『……ぬ、抜かったわ! 実に不覚。灯台下暗しとはこの事。いづるの奴め、絶妙なタイミングで"神隠・極式"を使いおったなぁ!?』



 それに気付くと、即座に念話でサーナや御鏡様に事の真相を問いただす。

 それに対して両者はと言うと『いづるが小細工を弄したとな? いや、我は気づかなかったぞ?』『妾も察しておらぬぞぇ? 汝と視覚共有していたからのぅ〜。』と、何やらとぼけ気味の返答が投げ返されてきた。


 もっとも、深層レベルでは繋がる三者である。御劔様は即座に『お前ら、予を(たばか)りおったな!?』と文句を述べるも、両者はのらりくらりの姿勢に終始するのである。


 『ぐぬぬぬ』と言い出さんばかりの表情になっていた御劔様に対し、その側まで近づき、耳打ちするようにいづるからの小声でのツッコミが入ったのはこの時であった……



『お前さぁ、曲がりなりにも"源初三柱"の片割れだろうが。スイカ割りでそんな反則行為をする事をアタシが見逃すと思ってた? 神としての威厳とか誇りとか投げ捨て過ぎだぞ?』



 ……そう語ると、いづるは少しニヤけた表情を見せつつ、一同の下へと戻る。

 かたや御劔様は、いづるに反則行為を見抜かれた事に愕然として、暫く立ち尽くし、その後地団駄を踏んだのは言うまでもない。

 当然だが、その気になれば世界の一つや二つを真っ二つにするなど容易に出来る御劔様だったが、実際に行動に移そうものなら、サーナと御鏡様が全力で止めに来るのは明らかであった。


 このポンコツ三柱、実力だけなら拮抗しているので、千日手状態になってしまうのは自明の理と言えた。


 そんな中、美鶴だけは、茶を点て続けて我関せずの姿勢を示していた。その姿勢に気付いた御劔様は地団駄を止めて彼女を見据える。そして……



『此奴、予が世界を破壊する力を持つを玉から聞かされていただろうに。何と涼し気な表情や姿勢を保っておるのじゃ? いづるに育てられて、そのあたりの絶対絶命感とか危機感とか麻痺しておるのではないか!? 前向きに評価するなら"肝が据わり過ぎておる"というところか。』



 この様に考えたあと、それまでの沸騰しかかった心が落ち着いていった御劔様は、美鶴の下へと歩み寄り、一言こう告げたという……



 ―― よければ、予も一杯茶をいただけるかな? ――






 ー つづく ー

 


「※いづると御劔様の“因果応報(二十数年前の不意打ち)”の元ネタは短編外伝、通称『ジャンヌ・ダルク生存編』にあります。

 気になる方はこちらの作品をお読み頂けますと解ります」

 →まほろばの鬼媛·外伝 ~ かつて聖女と呼ばれた者と異邦の鬼姫 ~

 https://ncode.syosetu.com/n4919ip/

 


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