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―― まほろばの鬼媛 ――  作者: いわい とろ
夏の章・8月編 "続・騒がしい夏"
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夏の章(8月編)その6




 翌日、福岡軍と大阪軍の選手を乗せた長距離旅客用バスが鹿子前のホテルから出発していった。

 それぞれ、次の対戦相手の本拠地球場へ向かうが、基本的に向かう方向は同じであった事から、車列を成すこととなる。


 そんな中、福岡軍の監督は、ヘッドコーチである教来石景房に『いいのか? ここは貴方の息子さんが住んでいる土地なのだろう? 顔を合わせるくらいの時間なら作ることも出来ただろうに。』と語りかけたのだが、景房は『監督、お気持ちは有難いですが、今はチームの優勝を目指さねばならない時。ましてや首位の"新都大王軍(しんとだいおうぐん)"や、二位の"愛知大鯱軍(あいちおおしゃちぐん)"を追わねばならない。特に愛知軍は目下の敵と呼べる存在。彼らを叩かねば"ヤマト西リーグ"の首位を得ることはできません。無論、全体の"大ヤマトリーグ"の順位も上げねばならない。西を得ても、全体の順位が低い場合、全体1位のチームに強い補正が与えられてしまいますからな。』と答え、この時は息子……つまり馬場野舞歩の実父でもある人物と会うことは無かったという。

 ちなみに野舞歩の実父という事は、教来石春芽の実父でもあるが、春芽が産まれて一年も経たずに祖父でもある景房夫妻の養女として引き取られる事となった。この事を春芽や野舞歩が知ったのは野舞歩が産まれて数年経た頃だったという。


 なお、野舞歩は春芽と異なり、その経緯から景房の事をあまり快くは思っていない。春芽と初めて会った時、まさか目の前の歳上の少女が実の姉だとは気づかなかったくらいなのである。

 景房も、そんな野舞歩の気持ちを汲んでいたようで、所謂オフシーズンも含めて、佐世保を訪れる機会は年一回か二回程だったという。






 福岡、大阪両軍の選手スタッフを乗せた長距離旅客バスが市街地の方へと向かうのを、その道を見通せる場所から見送る人影が複数あった。

 一人は教来石春芽、一人は馬場野舞歩、そして角田父娘もその車列を見送っていた……




「ぱぱ、一緒に行かないの?」


「ああ、監督やコーチからお休みを貰ったからね。今月の間は一緒に遊べるぞ。」


「ほんと!? やった〜! ぱぱと遊べる〜。何をしようかな〜。」




 昨晩、暫く父親が留まるとは知っていたものの、改めて聞き直して確認した、角田家の一人娘"りみか"は、父と遊べる事を楽しみにしていたようで、見るからにワクワク顔を見せていた。


 そんな少女を横目に、春芽は野舞歩に『昔は貴女もあんな感じだったわねぇ。……ねぇ、今からお姉ちゃんと遊ぶ?』と話を振る。

 当然だが、野舞歩は『おい姉貴、もうそんな歳じゃないだろっ! 自分の年齢を考えて発言しろ!』と言いつつ、明らかに気恥ずかしさを見せていた。

 そんな野舞歩を見て、ちょっと残念そうな表情を見せる春芽だが、追撃とばかりに野舞歩が『心に無い表情を見せるな! 角田のおっちゃんの娘が影響を受けたらどう責任を取るつもりだ!?』と言われては、流石の春芽も萎々(しおしお)とするしかなかったようであった。

 この姉妹漫才(?)を目の当たりにして、りみかは頭の上に『?』マークが幾つも浮かんでいるような表情を露わにしていた。自分の事を言っている事は理解できても、内容までは理解が回らないあたり、やはりそこは9歳の少女と言えた。


 一方、そんな姉妹漫才を理解していた角田は『りみかにはまだ早い話だな。まあ、それにしてもヘッドコーチの孫娘は昔からこんな感じだな。姉が振りやボケ、妹がツッコミ、いつ見ても仲のいい姉妹だと解る。』と思っていた。


 長距離旅客バスが見えなくなった所で、角田はりみかに語りかける。『さて、そろそろ母さんの墓参りに行くか。』と。

 それを聞いて、一瞬だが表情が曇ったように見えたりみかだったが、すぐに普段の表情に戻りながら、角田の手を握る。

 その様子を二人の後ろから付いてくる春芽と野舞歩の姉妹は、りみかの一瞬の曇り顔に気づいていたらしく……




「やっぱ、お袋さんがいないってのは年頃の子供には堪えるモノがあるんだろうな。」


「そりゃそうでしょ? 私なんか、両親と思った相手が祖父母だったのよ? 貴女が私と同じ立場だったらどう思う?」


「うわっ! それはごめん被る話だぜ。 親と思ったらジジイとババアでしたは、アタシの情緒がグチャグチャになってしまうぜ。どう思う以前に、考えたくもねぇ〜!」




 そう語りながら頭を抱える素振りを見せる野舞歩を見て、春芽は『ん〜、野舞歩はまだまだ子供ね。けど、質問が悪かったかな?』と思いつつ、妹と共に角田父娘の後を追うのだった。






 春芽が運転する送迎車に乗り、角田父娘と野舞歩は俵ヶ浦半島内で眺望の良い場所にある墓地の駐車場までやって来た。

 そして、その墓地の中で特に九十九島や周辺の海が見える場所にある角田家の墓へと向かう四人。元々角田家の墓は別の場所にあったのであるが、職業野球の選手としての給金を貯め込むタイプだった角田が、妻が亡くなった折に新たに墓地を確保してそちらに移したのだという。

 そうして、今の角田家の墓までやって来た四人。だが、その墓の前に一人の先客が来ていたのである。


 その先客、りみか以外の面々は程度の差はあれ、面識があったのである。それを示すように角田の口からその人物へと挨拶代わりの一言が発せられた……



『や、これは久し振りになりますね。まさかここで会うとは思わなかったよ……"中堀"さん。』



 角田から中堀と呼ばれた人物。その人物を見て野舞歩が『お、おいおい、まさかここで出会(でくわ)すとか想定外過ぎるぞ。まさか中等部の先公が、ましてや一年甲組の担任様が居るとか話に聞いてね〜!』と叫ぶ程であった。

 直後、春芽から軽く頭をコツンと突かれ、無言の注意を受ける野舞歩。それを済ませると一歩前に出て『こんな所で会うのは、角田さんの奥様……中堀先生の後輩でもある"怜香"さんの導きなんでしょうね。改めてになりますが、お久しぶりです先生。』と述べる。


 そこにいた人物。それは東雲美鶴や仲間達が通う学校の学級担任でもあり、いづるの後輩でもある"中堀晴依(なかほりはるい)"その人だったのである。


 角田から呼びかけられた事で気付き、更に面識ある女性陣も居る事に、晴依は『ありゃ〜、角田さんだけならともかく、まさか高等部の馬場さん。それと……昔の教え子の春芽ちゃんまでいるなんて ますます怜香ちゃんの導きと言われても不思議じゃないわね〜。』と述べつつ、一同の前まで歩み寄ると、少し腰を落として『怜香ちゃんの娘さんのりみかちゃん? こんにちは、少し見ない内に大きくなったわねぇ〜。流石に前に会った時の事は覚えていないでしょうけど。』と、角田の後ろに隠れ気味にのぞき見ていたりみかに語りかけた。

 そんな晴依に対してりみかはやはり引っ込み気味だったが、父親から『大丈夫だ。この人は母さんの先輩で、父さんの友人の一人だ。安心して挨拶しなさい。』と促された事から、ちょこんと前に出て『こ、こんにちわ。角田りみか……です。』と、少しおどおどしつつ一言挨拶を返すのだった。






 角田が墓の前で手を合わせて祈るようにしたり、墓の清掃をしている間、りみかは野舞歩と遊んでいた。

 一方、晴依とかつての教え子である春芽は……




「よもやここで先生と会うとは思いませんでした。お元気そうて何よりです。」


「春芽ちゃん……あ、流石にちゃん付けは無いか。教来石さんも元気そうで……と言いたいけど、度々学校に来ているみたいね。折角なら私に会いに来れば良いのに。」


「確かに私用なら、それもありかもしれません。しかし、今は御館様……Mr.リッターシュタット氏の家の家政婦を務めているので、中々そういう訳にもいかないのです。」


「あ〜、あのおじさんね。東雲先輩の事を気にしている偉い人。そして、先輩の娘さんの友人の一人が貴女が面倒を見ているクーリアさんなのよね? 中々面白いところで繋がっているわね。」


「そうですね。クーリアさんが通う学級の担任が先生だと知った時には、顔には出さないようにはしてましたが、腹の中では笑いがこみ上げてきてましたよ。」


「えぇ〜!? 笑うのはナシでお願いよぉ〜。こっちは貴女の縁者を預かるという事で、それなりに気持ちを引き締めていたのよ? ……クーリアさんも"超常者"でしょ? 貴女が絡むからには単なる留学生では無いでしょうし。」




 この晴依の一言に、春芽は思わず驚きの表情を見せる。

 その上で『先生は超常者ではないですよね? なのになぜそれを?』と尋ねる。すると彼女は『そりゃ、クーリアさんの担任だからよ。って言いたいけど、まあ人生経験からかな? 私も昔から色々あったからね〜。』と述べつつ、少し照れくさそうに笑みを浮かべていた。


 中堀晴依は確かに普通の女性である。しかし、その人生の中で"東雲いづる"を先輩として持った事が彼女の人を観る目、即ち観察眼を変えたとも言える。

 当のいづるは面倒くさい後輩と軽くいなす事が多かったが、その後輩は寧ろ楽しんでいた節があったのである。


 そうこうしている内に、角田が墓の清掃を終え、りみかや、りみかと遊んでいた野舞歩を伴い自分たちの方に向かってくるのを見て、晴依は先に失礼する事を告げる。

 夏休みとはいえ、教師としての仕事を疎かにはできない。この日は余暇が生じたために"盆の時期"を前倒しする形で亡き後輩の墓参りに来たのであった。


 晴依の去り際に春芽は『先生、クーリアさんの力の事は内密に願います。彼女も一部を除いて他人には力の事は伏せている様なので。』と依頼すると『大丈夫よ〜。こう見ても口は硬いつもりよ? 寧ろ春芽ちゃんの妹ちゃんの口からバレないようにしっかりお姉ちゃんをしなさい。これは元担任としての頼みでもあるわ。』と答え、角田やりみかに軽く手を振ってその場を去って行った。


 その元担任からの一言に『あはは、確かに先生の言う通りかもね。野舞歩にはしっかり釘を刺さないと。恐らくクーリアさんが力を持っている事は、以前の巨大妖の一件の時に見知ってはいるでしょうから……』と思い、角田父娘を家に送り届け、一端ヴァルター邸に向かう車内で念入りに釘を刺したのであった……






 ヴァルター邸に姉と共に来た野舞歩。その表情は少々不満げだったが、姉から釘を刺されては逆らう訳にもいかなかった。

 そんな野舞歩がなぜヴァルター邸に来てしまったのかと言うと……



『おいおい姉貴、この金髪碧眼の女は誰だ? って言いたいが、何となく滲み出る力で解ったぜ。コイツ、この前のFWを動かしていた操縦者だな?』



 野舞歩の前に現れたのは、ヴァルター邸に預けられていたアグニス・アイゼンシュタイン、その人であった。

 そして野舞歩はここで思わぬ事を知るに至る。それは彼女が宮城いせなの従姉妹であるという事であった。

 宮城いせなの事は学生寮·東棟でよく見かける事から、知己の間柄と言えたが、まさかこの前の騒動の一方の主要人物が宮城家の血縁であることには大いに驚く事となるのであった。

 そして、姉から『ちょっと学生寮にこの子を連れて行ってくれると助かる。この子、こっちに来てから「イセナに会いたい、会いたい」ってよく言うのよ。この前の騒動から2週間近く経過しているし、そろそろ会わせたいと思ったの。協力してくれるわよね?』と、妙な圧を含む一言を言われてしまう。

 この圧には逆らえない野舞歩は、その頼みを聞き入れ、アグニスを連れて学生寮に行く事を承知するのであった。


 なお、野舞歩の実家も佐世保市内なので、学生寮に戻らなくてもいいのであるが、いせなが学生寮に留まっている事から、案内も兼ねて連れて行く事となる。


 さて、この動きが何を引き起こすのだろうか?

 "騒がしい夏"は、まだまだ続いていく……






 ー つづく ー

 


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