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―― まほろばの鬼媛 ――  作者: いわい とろ
夏の章・8月編 "続・騒がしい夏"
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夏の章(8月編)その5




 福岡軍の角田選手の二盗三盗からの本塁突入により、大阪軍との試合は結局引き分けに終わった。

 大阪軍は、普通なら勝てる試合を一人の選手の活躍によって引き分けに持ち込まれ、福岡軍は一人の選手の活躍で敗北から逃れることができた。


 試合終了後、球場を去る観客や応援団の反応は様々だったという。

 特に大阪軍の応援団や観客らの不満は大きく、角田さえ居なければ……という恨み節が聞こえてきていた。

 もっとも、福岡軍側も似た感じであり、あの超常者選手さえ居なければ……と、口々に述べていた。






 こんな声が漏れ聞こえてくる真っ只中に今川姉妹やクーリア、アグニスらはいた。

 超常者選手に対する不満を聞いて、内心不安を感じるアグニス。Baseballの決まり的には問題は無いのに、不満を超常者に向ける声に、寧ろ不満を感じるクーリア。

 そして、おどおどしながら周囲に気を配る今川美紗音と、それらの発言に少し苛ついたのか?若干"鬼氣"を垂れ流して、周囲を圧する素振りを見せる今川美羽音。


 特に美羽音の鬼氣垂れ流しは、多少なりと気配を察知できる者達には何か寒気として感じ取れたという。


 そんな最中、この圧を感じていた角田がこっそり見に来ていた。無論、変装してであるが。

 そこで彼が見たのは、四人中三人が超常者らしい少女達と、その三人の中で明らかに異質な気配を発していた、一番の年長者の異様さであった。直後彼は……



『何だ? あれは昨日も見に来ていた東雲の関係者か? 昨日は東雲の事で頭が占められていたから気づかなかったが、あの娘も中々の力を持っているな。何となくだが、鬼の王に近い資質に思える。』



 このような事を思っていた。この時、角田は知らなかったが、今川姉妹の母親は先代の水の鬼の王なのである。

 それを知ってか知らずか、特に美羽音の力の感触から、鬼の王に近しい力であると認識したのである。

 その観察眼はあながち間違いではなかった。


 そんな事を思いつつ、変装していた角田に近づく影が一つ。




「おいツノ、こんなところで何やってる? しかもご丁寧に変装までして。」


「や、これはヘッドコーチ。この変装は……」


「あ~、言わなくてもわかる。今日の試合の引き分けの立役者だしな。大阪軍の応援団なんぞに見つかったら、何されるか分からん……。まあ、お前なら切り抜けられるだろうけど。」


「その御言葉は信頼の証として受け取りますよコーチ。それより何かあったのですか? まだホテルに戻るには時間があると思ったのですが。」


「うむ、その事なんだがツノ、一軍登録抹消な。」


「え!? 何か悪い事しましたか!?」


「こらこら、落ち着け。いつもの定期交代だよ。二軍に居るお前の同類を上げるから、ツノを下げる。その事だよ。」




 ヘッドコーチから告げられて、角田は大まかに理解した。

 "ヤマト職業野球組合"の取り決めで、超常者選手は一軍で一人しか置けない。そして一つのチームに超常者選手は四人まで所属できる。

 角田が二軍に下がり、二軍の同じ超常者仲間の誰かが上がるのである。登録抹消からの再登録、つまり一軍再昇格までの期間は10日であるが、四人も居る事からローテーションで上げる選手を決めており、この時期に角田が登録抹消された以上、次に一軍に呼ばれるのは9月に入ってからだろう。

 即ち、自動的に夏休みを取るような格好となったと言える。無論、二軍の試合も一軍の試合と同じルールなので、角田はもう一人の超常者選手と休みを取ることができる時間が生じるのである。


 そして、これは同時に角田に実家に戻る事を勧めているのであった。この話を聞き、角田はヘッドコーチに一礼すると、すぐに球場内の選手控室へと戻っていった。






 今川姉妹と近くの市役所支所前で別れ、クーリアとアグニスは迎えを待っていた。

 約束では、春芽が迎えに来る事になっていたが、まだ来ていなかった事から、二人は今日の試合を思い出すように会話を行っていた。


 そんな中、少し遅れて春芽が運転する送迎の車が到着したので、早速乗り込む二人。

 乗り込んですぐ、春芽の方から『御二人に申したい事があります。急な話なのですが、もう一人迎えに上がらねばならない人物が居ます。今からその人物を迎えに向かいますので、暫く歓談なされますよう。』という発言が出てきた。

 自分達以外で迎えに行かねばならない人物が居る事に、クーリアもアグニスも少しだけ驚くも、春芽の言うことなので、大した事でもないと思い、了解の意を示して今日の試合の事を思い返しつつ会話に興じる。


 そして、三人を乗せた送迎車はその人物との合流地点に到着したのだが、クーリアが『What!? ここは市民野球場のスタッフ専用駐車場ですヨ!? こんなところで待つとなると、一体誰なのですカ?』と叫ぶ。

 もっともすぐに隣の席のアグニスが『Haltet die Klappe! Seid still, ihr Amerikaner!(うるさい! 静かしろアメリカ人!)』と、母国語で叫び返した事で車内は一瞬だが騒然となる。

 しかし、運転手の春芽から無言の圧力が掛かり、二人とも沈黙を余儀なくされるのである。ヴァルター邸の裏ボスの本領発揮と言えた瞬間であった。






 それから数分後、沈黙する二人にも見える、送迎車に近づく一人の人影があった。

 その人物、明らかに普通のサイズではないバッグを抱え気味に持ち、少し急ぎ足気味に車の側へと到達する。そして、車内の二人はその人物の顔に見覚えがあった……




「おいアメリカ人、この人物……試合に出てた男じゃないのか?」


「Oh……、確かにその通りでス。Mr.ツノダに違いないでス。一体どういう事なのでしょうカ?」


「アメリカ人、私の顔を見ても答えは書いてないぞ。」




 クーリアの困惑気味な視線を軽くいなし、アグニスは車外で会話をしている角田と春芽の様子を観察していた。

 双方の表情などから、アグニスは二人が旧知の間柄であると予想を立てたのであるが、その答えが出たのは角田の荷物を送迎車の荷物入れに納め、人目を避ける意味からクーリアが助手席に移動し、アグニスの隣に角田が搭乗し、車を走らせて鹿子前経由で俵ヶ浦半島方面へと向かう車中での春芽の話であった……



『二人とも、どうやら気付いてないみたいだから話しておくね。福岡軍のヘッドコーチなんだけど、あの人……私や野舞歩の祖父なのよ。』



 その話でクーリアは驚き、アグニスはある程度見立て通りと言わんばかりの表情を見せていた。

 その好対照な二人の外国の少女を見て、角田は『助手席の娘は純粋に驚いているみたいだな。それに引き替え隣の娘は何となく察していたという感じかな?』という印象を持つこととなる。






 福岡軍のヘッドコーチ、名を"教来石景房(きょうらいしかげふさ)"といい、大学野球の選手時代は強肩の捕手として名を馳せていたという。

 その頃のヤマト国の野球事情は職業野球より大学野球や高校野球(当時は全国中等学校野球大会)が盛んな時代であり、甲子園球場や神宮球場はそれぞれの聖地という扱いからか、天然芝な上に使われない時期は芝の養生期間として充てられていたという。

 景房もそんな時代で活躍したものの、職業野球には進まず社会人野球や都市対抗野球で活躍していた。無論、誘いが無かった訳ではないが、当時の世情的には職業野球はまだ脇役に甘んじていた。メディアでの扱いもそれに準じたものであった事も影響していた。


 そんな景房の考えが変わったのは、息子が嫁の実家である馬場姓を名乗った際の条件として、養女として引き取った孫でもあり、息子夫婦の娘でもある春芽の存在。そして馬場家側で育った野舞歩の存在が大きかったようである。

 幼い頃から超常者としての資質を見せていた二人を見て、同じ頃に職業野球側でも超常者選手を扱う事の難しさを聞き、景房は旧知の人物の伝手を辿り、福岡軍のスタッフとして参加。自身の経験などを元にチーム内での超常者運用法を確立していった。

 この過程で、福岡軍のバッテリーコーチを経てヘッドコーチになっている。それだけでなく、この"教来石方式"が他のチームでも使われるようになった事から、単に一チームのコーチという枠を越えた存在として知られるようになったのである。


 その話を聞き、クーリアとアグニスは唖然としていた。まさか春芽の祖父がそんな影響力を持つ人物だったなどと、思いにもよらなかったからである。

 そして春芽はそういう経緯から、若い頃の角田を知っており、『小さい頃はよく野舞歩と一緒に"石岳動植物園"に連れて行って貰った事もある。』と語っている。

 その発言には、流石に『おいおい、そんな前の事を引き合いに出さなくても……って、既にこの子達の目が話を聞きた気なモノになってるぞ。』とツッコミを入れるのだが、時既に遅く、この後質問攻めに遭う事となる。


 その質問攻めも永久に続くものではなかった。

 皆を乗せた送迎車が、"下船越町"へと入った辺りで、急に止まる。九十九島を見下ろせる"展海峰"を擁するこの町こそ、角田の実家がある町であり、クーリア達が住む俵ヶ浦町に向かう主要道路との分岐で角田は降りる事となる。

 ちょうど車が止まった所のすぐ近くで、三人の人影が待つように立っており、その内のとても小柄な一人が勢いよく角田目掛けて駆け出してきたのである!



『ぱぱ〜、おかえり〜!!』



 その言葉と共に角田に飛び付いて来た少女に対し、角田は『おおっ! "りみか"更に大きくなったな! 俺は嬉しいぞ!!』と話しかけたのだが、"りみか"と呼ばれた少女は『ひど〜い! 女の子に大きいは禁句なんだよっ!』と釘を刺されてしまう。

 その一言に『ううっ、その言葉は心に刺さる。……うんうん、俺もりみかは今のままでいて欲しいよ〜。』と、明らかに試合の時の姿とは別人のような姿を露わにしていたのだった。


 直後、りみかと呼ばれた少女は、送迎車の三人に気づく。もっとも春芽に関しては見知っていたらしく『春芽おね〜ちゃん、こんにち……あ、夕方だからこんばんわ~。』と言い直しつつ挨拶を行う。

 その姿を見て、クーリアとアグニスは『礼儀正しいな!』と同時に思っていたらしい。


 そして、春芽がりみかに返事を返しつつ、寄ってきた他の二人……即ち角田の両親にも挨拶を交わしている。

 そんな中、当然の如くりみかは送迎車に乗るクーリアとアグニスに気づく。クーリアはともかく、アグニスの金髪碧眼を見て驚いたのか?すぐに角田の後ろへと隠れるように移動して、こっそりとのぞき見る姿勢を取る。

 この一連の動きをクーリアは『オオ、これこそヤマトの"ヒトミシリ"というモノですネ。』と語り、アグニスは『ナッ、何故私から逃げる!? 珍しいのか? 私の金髪碧眼がそんなに珍しいのか!? イセナは驚きもしなかったのに……』と何やらショックを受けていたようである。






 その後、春芽から二人に関する説明を受けた角田家一同。

 クーリアがアメリカから来た事に、角田の両親は少し怪訝な表情を見せた。彼らの年代なら、第三次戦役だけでなく第二次戦役もしっている世代だから当然と言えた。

 しかし、アグニスに関しては、かつてのドイツ帝国地域の出身で、欧州大戦で国家分裂を経験し今に至る歴史からか、どことなく怪訝さは控えめだったという。

 もっとも、初め人見知りだったりみかは、わりとすんなり二人にお話ができていた。その際『角田りみかです。小学校三年生の9歳です。』と自己紹介している。

 その際、ニコニコ顔を見せた時に二人の外国人少女は色々思うところがあったようである。




「や、やられましタ。ヤマトの少女の可愛らしさは理解していたつもりでしたガ、改めてやられましタ……」


「これがヤマトの少女の……。母さんも昔はこうだったのか。それにひきかえ私は……」




 クーリアもアグニスも、何やら心に会心の一撃を受けてしまったような状態となっていたという。

 この二人を見て、春芽は『あらあら、未体験領域に足を突っ込んじゃったみたいね〜。前にも野舞歩を連れてきた時も似たような反応をしてたわね〜。』と、微笑しながら昔を思い出していたのであった。


 つまるところ、角田りみかは、傍目から見た場合、かなりの美少女であるという事を、二人の反応や過去の野舞歩の反応は示していたのであった……


 ―― まあ、所謂"かわいいは正義"というヤツである ――






 ー つづく? ー

 






 後日、りみかの存在を確認した東雲いづるはこう語ったという……



 ―― 今はまだガキだが、十年後が楽しみでもあり、恐ろしくもある。ただ、ウチの美鶴とタメが張れるのは確かだぜ ――



 ……と。つまるところ、いづるでさえ認めるレベルの美少女だったという事である。






 ー 本当につづく ー

 


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