真後ろに俺の嫁?が仁王立ちしている件 後編
「な、何の真似をしているのか聞いても?」
「まてぇい! 後ろを振り向くでない!」
関谷はともかく、冴木は高校の時に姉貴と会っていることで気まずさを感じてしまったのか、姉貴の顔をまともに見ることが出来ないくらい、青ざめていた。
普段からアホの子と言っていい姉貴なのに、よほど恐ろしい表情でもしていたのだろうか。
「あのなぁ、俺は桃未の彼氏じゃないんだぞ? ただの弟なんだぞ? 何でこんなことをするんだよ!」
「ちがーう! 真緒くんは分かってなーい!! 彼氏じゃないけどダンナ様ではないか!」
「フリな。弟だし、俺を束縛とかあり得ねえ」
「ぬあ!? ぬわぁんだとぉぉ……! 真緒くんが、真緒くんが……」
しまった、言い過ぎたか。
誰もいない教室とはいえ、ここで大泣きされたらとんでもない目に遭いそうだ。
「あ、いや……」
それよりも後ろに立っている姉貴の状態が気になる。
「お、おのれ……真緒くん! あたしを見なさいっ!! 見て見て見まくって、あなたのヨメを好きなだけ見てヨーシ!」
「――はっ?」
「さぁ、さぁさぁ! あなたの桃未さんですよー?」
てっきり怒りまくって、さらには涙が出まくっているかと思いきや……ふんぞり返って、えっへんポーズをしている。
何だよそれ、可愛すぎるし反則だろ。
「桃未だな」
「おうよ! 真緒くんの桃未さんだぞ! ほれほれ」
「……どうしろと?」
「存分に触れたまえ!」
「だが断る! 俺はシスコンじゃないからな」
誰もいない教室で弟が姉に触れまくるというのは、自然かと言われたら不自然だろう。
実の姉弟であれば、人目を気にせずどこででもちょっかいを出そうと思えば出せるが、姉貴の心はおかしな方向に突き進んでいる。
思い込みは昔から強いがダンナのフリをするにしても、それらしいことを今の今までして来ていない。
とりあえず、姉貴が怒っていた原因について謝り通すしかないな。
「シスコン……? ぶっぶー! 正解はヨメでした!」
「あぁ、もう! それで、俺のヨメさんは俺の何なの?」
「う……おっ? そう来たのかね。あたしは真緒くんの~……ん? あれれ……お姉さんはどうして、こんなにも腹が立っているのかな?」
それは俺が知りたいのだが、どうやら怒りで我を忘れた挙句、リアルとバーチャルの区別がつかなくなっていたらしい。
「……桃未、ごめん」
「お、おぉ……わ、分かればよいぞ」
「でもここは高校じゃなくて、大学なんだから気を付けてくれよな」
「ごめんよ。あたしは寂しがり屋さんなのさ。決して白衣の冷血女などではないのだよ」
「ん? まさかと思うが二年もいて、まだ友達が……」
「ゴホンゴホン! 真緒くん、いつでもどこでも白衣の桃未を見かけても、話しかけて来なさい! よい?」
「そりゃまぁ……」
「うむうむ! ではでは、あたしは行くぞえ」
「や、何しに来たのか忘れたのか?」
「言い訳は後でたっぷりと聞いてやるぜ!」
言い訳をしたわけじゃなかったんだが、どうやら大学での桃未は、高校の時とは何かが違っているのか。
鬼かヨメかは置いといても、可愛い姉貴の為に弟の俺が頑張るしかなさそうだ。




