お魚くわえた姉貴が追っかけて来る朝
「ふわぁぁ……ねむ……」
高校と違って、朝早くに出る日とそうでない日がある大学の授業選択は、良くも悪くも惰眠を貪りがちだ。
そんな日が当たり前になったことから、姉である桃未とは、行きも帰りも二人で行動することが無くなっている。
以前のように密かな恋心を抱かなくなってからは、特に気にすることもなく、あくびをしながら大学に向けて歩いていた時のこと。
平坦な道のりの先に見える大学の建物が見え始めて来た時、どこからともなく姉貴の声が聞こえて来る。
『ふがふがふがーーー!! まおぉぉぉーー』
あの甲高い声は、間違いなく姉貴に違いない。
しかし様子がおかしいので後ろを振り向いてみると、何かをくわえたままの姉貴が必死の形相で追いかけて来ていることに気付く。
うおっ!?
『まっでぇぇぇぇぇ!!』
『断る!! こっち来んなって!』
しかし姉貴の運動神経は、高校の時よりもパワーアップしていて、すぐに追いつかれそうだ。
よくよく見たら、魚一匹……というか、焼き魚をくわえて向かって来ている。
何で魚をくわえて俺を追って来るんだよ。
『まおぉぉぉぐぅぅん!! 朝をたーべーろー!!』
『……朝?』
以前は仲睦まじく朝食を食べていたが、今は自由にしていて食べずに家を出ることが多いわけだが、まさかそれだけの為に追いかけて来たのか。
このままでは美人な姉貴に対し、妙な異名が付きかねないので立ち止まることにする。
「げほほっ! 観念したかー!」
「落ち着け。その前に……何で魚をくわえてるんだよ?」
「むっふっふ! キミィ、これは我が家の朝食なのだよ! キミは朝を抜かすから分からないかもしれないけど、今朝はアジの開きなのだよ。美味しいの! さぁ、お食べ!!」
「いや、おかしいだろ。俺は子猫じゃないぞ。それに桃未の口に入ったモンなんだから、そのまま最後まで食べていいと思うぞ」
「にゃにおー! 桃未さんの口はばっちくないんだぞ!」
「そういうことじゃない……」
いわゆる間接的なことになるし、何よりも、ここに来るまでに魚をくわえて来た姉貴に対して向けられた世間の視線が恐ろしい。
以前よりもアホの子……ではなく、あらゆる意味で危なっかしくなっているのは気のせいだろうか。
「食べてもいいのかえ?」
「好きなだけ味わっていい……」
「やっほぉぉい! って、ほとんど骨になってた!」
大学に入ってから姉離れをして来たが、こんなアホな……可愛すぎる行動を取る姉貴は放っておけないな。




