一人は嫌なの……。
家紋を難なく手に入れたものの、私達の目的は、三家の家紋を手に入れる事ではない。
途中で帰りたくなったとき、帰れるなら、それも悪くはないが、この家紋を集めても、家紋の使い方がわからないのでは意味がない。
チリン。
ハッとすると、あの映像の中で家紋を盗んだと子供を叱っていた人が現われた。
「我が家紋を盗む気か!」
イツキが見事に一刀両断をしてくれたので、立ちすくんでしまった私に被害は何もなかった。
何故立ちすくんでしまったのかはわからない。
まるで、あのおお泣きしていた子供の感情が自分に乗り移ってきた見たいだった。
「あれ。何か落ちてるぞ。」
「え・・・・・・?」
「・・・・・・鍵、みたいだな。玄関のか?」
どうやらさっきの幽霊が持っていたらしい。
玄関の方へ戻ってみると、どうやら本当に入り口の鍵だったらしく、中に入ると、様々な部屋があった。
いきなり現れた霊を倒し、奥へと進んでいく。
フッと風が頬を霞めたとき、直感が私に「呼んでいるのは、求めているのは私ではない。」と覚らせた。
だが、当然、それが何のことなのかは私には理解ができなかった。
だけど、何となく、儀式と関連していることではないかとそこだけは、わかった。
何が必要で、何が必要でないか、そんなもの、この村の住人ではない私達には、わからない。
それでも、私はお呼ばれされる対象ではなかったらしい。
なら、イツキは・・・・・・?
私は、私達は呼ばれていないとは感じなかった。
イツキは、呼ばれている・・・求められている対象だと言うの?
地下に行くと、悪霊のたまり場があり、私は乗っ取られ、家紋の意味を知った。
村には三家の結界が張ってあり、村人達が簡単に外に出られないようになっているらしい。
三家の家紋を預かり、長老が四本目の楔の前に立ち、霊力を注ぐことで結界に穴をあけ、そこから外に出れる仕組みらしいのだが、それをせずに何故美弥子ちゃんや美弥子ちゃんのお父さんは逃げ出せたのだろう?
わからない。
だからあの少年のお父さんもつぶやいていたのかもしれない。
ハッと目が覚めたとき、私は知らない道路の上で寝そべっていた。
「ここは・・・・・・どこなの・・・・・・?」
おおよそ村の大通りだということ以外わからない。
私の体にはたくさんの霊がくっついていて、起き上がるのにもかなり体が重く感じた。
札を取り出して霊を倒していくものの、キリがない。
いつも、こうなった私から霊を切り離してくれていたのは、イツキだったから・・・・・・。
「あれ・・・・・・私、ライトは・・・・・・?」
イツキと離れてしまった上に霊に取りつかれ、ライトまで無くしたなんて、それこそいい笑い者だと思いながら手を見ると、しっかりライトが握られたままでスイッチが入っていた。
どうやら電池切れらしい。
何度かスイッチを切り替えてみたが、ライトは一向に光る気配を見せない。
・・・・・・ということは、この村にきて、もう12時間はたったのだ。
これは、百均の小型LEDライトだ。
12時間しか使えない。
だからこそ代えの電池は持ってきているわけだが・・・・・・。
「ああもう!重いよ!あんたたち!」
霊達に札を叩きつけ、札はイツキから受け取った半分ほどに減ってしまった。
ようやく身軽になった私はライトをつけ、イツキを探すことにした。
その時だ、鈴が鳴ったと同時に松明を持ったおじさんが目の前に現れ、棍棒のように振り回しはじめた。
「いやぁぁぁあああ!痛いのは嫌なのぉおお!」
私は何とか一発目に振り下ろされた松明をギリギリよけると、白目をむいているおじさんの額にお札を貼りつけた。
「ガァァアア!」
うめき声を発しながら松明を横に振り回してきたので「ひゃあ!」と言って私は後ろへ引いた。
すると、おじさんは、壁の中に消えた。
「え・・・・・・何、終わり?」
「ガァァアアァア!」
いきなり後ろに回り込まれ、壁からおじさんが出てきた。
「ギャアアアアア!?ずるいよ!それは反則でしょ!?」
私は避け切れずに腕で松明を受けとめると、腕に鈍い痛みが走った。
「つぅっ!」
下手したら手首が折れてしまう。
「えぇい!もう!こうしてやる!」
私はお札で霊を往復ビンタすると、隙をついて5枚ほど札を胸の辺りにはりつけた。
次は、首がありえない方向に曲がった女性を倒し、片足がない男性も倒した。
その時点でお札の残りは、三分の一程度にまで減っていた。
取りつかれないように雑魚霊までいちいち倒していたせいもあるだろう。
「イツキィィィイイ!どこぉおお!私・・・・・・私だけじゃ・・・・・・何もできない・・・・・・何もできないよ・・・・・・意地悪してないで出てきてよぉぉおお!」
遠吠えをするように叫ぶと、後ろから「誰が意地悪してるだってぇ・・・・・・?」という声がした。
疲れ気味の擦れた声だった。
「イツキ!?」
イツキの姿を見たとき、もしも私が犬だったならば、尻尾を千切れんばかりに振って疲れていそうなことも気に留めずにイツキに飛びついていただろう。
「こっちだってなぁ、大変だったんだぞ・・・・・・!俺が戦ってるとき、いきなりお前はどっかに行くし、いたと思えば盛末家と秦家をつなぐ渡り廊下にいるし・・・・・・何故かお前は攻撃されないのに、俺は行く手行く手を阻まれるし・・・・・・それでも捜してたら、挙げ句の果てにゃあ、意地悪してないで出てこい?こっちが意地悪されてる気分だったよ。」
「乗っ取られてたんだから、知らないよ・・・・・・。」
「ま、そりゃ最も・・・。」
私はイツキがライトと一緒に持っていたものに目を止めた。
「それ・・・・・・。」
「あ?」
「家紋・・・・・・。」
「ああ、これか。」
イツキは、もう一つ別の家紋をポケットから出して私に見せてくれた。
「風谷の家紋は、私が持ってる・・・・・・この2つは・・・・・・盛末家と、秦家の家紋・・・・・・?あと一つ・・・・・・長老の役割をする人がいない・・・・・・この村から・・・・・・出られない・・・・・・でも、楔の場所に行けば・・・・・・何かがわかるかもしれない。行こう!外に出られるかもしれない!」
楔の前に行くと、儀式場が赤紫色に光っていた。
頭がおかしくなりそう。
村人達が陳列してる・・・・・・これは、何・・・・・・?
イツキは焦ったように辺りを見渡している。
楔の場所には縄と三本の槍、小さな刃物が一本。
村人達は、私を指差し、口々に「黒尾口授の方だ。なんたる名誉。黒尾口授の方が儀式をすすめてくださる。あのすべてを変えた男の始末をしてくださる。」という。
だんだん私は思考回路がマヒしてきた。
何かに操られているというよりは、もちあげられているようなふわふわとした自分が自分ではなくなるような感覚。
鈴がポロリと楔の方へ転がってしまった。
「あっ・・・・・・。」
鈴を拾い上げようとした瞬間、美弥子ちゃんの日記もすべて落としてしまった。
それらはすべて楔の中心で灰となって消えてしまった。
「少女の儀式は失敗した・・・・・・次は、そこの男のばんだ。」
その言葉は、私の口から発されていた。
私は、私ではなくなってしまっていた。
「リコ?リコ、何・・・・・・言ってんだよ・・・・・・なあ?」
「儀式が行われてしまった以上、遣り遂げるしかない・・・・・・この村を救うには・・・・・・方法がない。」
私は縄を持ち、イツキに近づいていった。
体が熱い。
なんだろう。
何でだろう・・・・・・やめて・・・・・・もうやめて・・・・・・。
イツキは、どんどん後退っていく。
ついにはたくさん陳列していた霊達に押さえ付けられ、身動きが取れなくなってしまった。
私はイツキの首に縄を巻き付けた。
「やめろ、やめろ!やめろっ!リコォォオオオオ!!」
怯え狂ったように叫ぶイツキを他人事のように木に吊される姿を見送っていた。
「ガハッ!オェッ・・・・・・リ・・・・・・コ・・・・・・ォ・・・・・・。」
イツキは、苦しさのあまり、もがいている。
「今、楽にしてやる・・・・・・。」
私が手を上げると、村人達は三本の槍を構た。
「やめ、ろ・・・やめろぉおおおおおおおおおおおお!!」
その声を合図にするかのように槍をイツキに突き刺した。
村にイツキの声は響き渡り、その後、パッタリとイツキは動かなくなった。
私は残された短剣でイツキの心臓を抉りだした。
その瞬間、楔の中心に穴があき、そこへイツキの心臓もイツキの体も落ちていった。
楔が怒りに震えることはなかった。
村人達が歓喜に様々な声をあげる中、ようやく本来の感覚を取り戻した私は閉じていく楔の穴に手をのばし、絶叫した。
「いや・・・・・・いやぁぁぁあああああああああああっ!!」
村は消え、誰もいないどこかの地域だけが目の前に存在した。
「あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああああ!!」
目の前に私を睨むイツキが現れ、伸ばした手はイツキに触れられずに、宙を掴んだ。
イツキは、だんだん薄くなり、さっきの私の叫び声を聞き付けた人が道路に出てきた。
「行かないで・・・・・・行かないで、行かないで!!!」
人に変な目で見られていることも気にせずに私は顔面を両手で覆うと、もう一度叫んだ。
「イツキ・・・・・・いやぁぁぁあああ!イツキィィィィイイイイイ!ああああああああああああああああッ!!」




