だから、行かないで。
「ああああああああああああああああ!!」
ビクリとして私は飛び起きた。
夢・・・・・・?
夢なの・・・・・・?
夢というには、あまりにも感覚がありすぎる。
イツキの体に刃を突き刺し、私は間違いなく、イツキの心臓をこの手に・・・・・・。
でも、夢でなければこの村は消えたはずだし、私は警察に補導され、精神的におかしいやつだと診断されていただろう。
だとしたら・・・・・・同じ事がもう一度起こる?
あの結末をどうやったら回避できる?
私は、何か方法を知っているはず。
何かしら・・・・・・人形!
でも・・・・・・川が・・・・・・ない。
それから、私が霊を倒し、イツキと会うまでの会話は一文字も変わらずに時間がすぎ、ついには家紋の事まで触れた。
だけど、あの時みたいに楔に行こう!とは言わなかった。
言ってしまえばまた同じ事の繰り返しになるとわかっていたからだ。
「リコ?」
「人形・・・・・・人形を探そう。イツキ。」
「何だよ?いきなり。」
「いいから。お願い。」
「・・・・・・わかった。」
ところが、捜しても捜してもなかなか人形が見つからない。
ついには美弥子ちゃんの家まで戻ってきてしまった。
「やっと・・・・・・見つけた!」
今思うと、こんなに人形があるのは美弥子ちゃんの家だけだった。
他に存在したのは美弥子ちゃんの友達の家・・・おそらく美弥子ちゃんがあげたものだろうが、美弥子ちゃんに似た人形一つだけ。
これか新と旧の違いなのだろうか?
「イツキ!これに霊力込めて!」
「何なんだよ?本当に。」
「いいから!」
イツキの力が人形に流れ込むと、心なしか、人形の顔つきがイツキに似ているように思えてくる。
「・・・・・・これで・・・・・・何とかなって・・・・・・!」
「リコ?顔の色悪いぞ?大丈夫か?」
言われてみれば呼吸は浅く、額にはいやな汗が滲んでいた。
一つ深呼吸をすると、「大丈夫・・・・・・儀式の場所に行こう・・・・・・。」と言った。
私は、イツキを木に吊すところまで同じ手順を踏んでしまった。
いやだ・・・・・・いやだ・・・・・・。
「いやぁぁぁあああ!」
叫ぶと、感覚が戻ってきたので、私は短剣で急いでイツキの縄を切った。
イツキの霊力がこめられた人形と家紋を置き、イツキの手を掴み、出入口があると思われるほうへ走った。
もちろん、いきなり儀式を投げ出された方はたまったものではなく、私達をすごい形相で追い掛けてくる。
あと少しと言うところで、私は霊に目隠しをされ、耳元で「お前の世界を奪ってやる・・・!」と言われた。
私は必死になって霊を振り払い、イツキと共に外へ出た。
四つ目の楔は埋まっているため、また村があらわれることはなかった。
外は昼で、暖かな日差しが私達を包んでいた。
「終わった・・・・・・の?」
足元を見ると、人形が置いてあった。
かなり古びているが、間違いなくあの時置いてきた人形だ。
「あの、この人形って・・・・・・。」
イツキがいきなり誰もいない場所に話し掛けた。
「ああ、それかい?気味が悪いんで何度も焼却処分しようとしたんだけど、ずいぶん昔からあってね、焼却処分されるたびに燃やされたはずなのにそこに人形が戻ってきてるんだよ。気持ち悪いから兄ちゃん達もあんまり近づかないほうがいいよ。」
誰もいないはずの所から声が返ってきた。
「イツキ・・・・・・誰か、そこにいるの?」
「何言ってんだよ?いるじゃねぇか。」
「あっちに、ぬいぐるみ持った女の子ならいるけど・・・・・・。」
「バカッ!ありゃ・・・・・・幽霊だよ・・・・・・。」
イツキは、周りを気にしたように私に耳打ちした。
「お嬢さん、大丈夫かい?」
イツキの横から聞こえた声は、今度は私の右隣で聞こえ、肩に誰かの手が乗った感覚が残った。
「ひゃっ!?」
「すみません、彼女、極度の人見知りで。」
イツキは無理やり取り繕って笑ったあと、道路の端の方にくると、私に耳打ちした。
「どうしたんだよ?」
「・・・・・・見え・・・・・・ない・・・・・・人も・・・・・・犬の鳴き声もしてるけど・・・・・・見えない・・・・・・どこにいるの・・・・・・車が・・・・・・中に誰もいないのに、はしってる・・・・・・どう・・・・・・なってるの?」
人形を抱えた女の子が目の前に来た。
「おねぇちゃん、歩いてる人が見えないの?だけど、みよちゃんは見えてるの?みんなみよちゃん見えないみたいに無視してくのに。」
イツキはシッシッとやって女の子をどこかに追いやってしまった。
「生きてる・・・・・・人が、見えない・・・・・・?イツキは、生きてるし、見える・・・・・よ?」
私が今にも泣きそうにすがりつくように言うと、「よし、じゃあリコ、あの人は見えるか?」と少年を指差した。
私が頷くと、「なるほど、生きている人間でも霊感のある人間じゃなきゃ見えないのか・・・・・・。」と言った。
私は、どうやら本気で生きている動物や人々が見えなくなったらしい。
これがあの霊の言っていた、私の世界を奪ってやると言う事なの・・・・・・?
死人しか見えないなら、幽霊しか見えないなら、私は、人間なの?
幽霊なの?
わからなくなってしまう・・・・・・。
私は、もう・・・・・・
「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
それならば、いっそ目などいらない。
生きている人が見えなくなって、幽霊しか相手にできなくなった目など・・・・・・!
もう、私には・・・・・・元の世界に戻ることは・・・・・・許されない・・・・・・。
数年後。
見えない何かにぶつかった。
「すみません。」
見えない何かは舌打ちした。
「大丈夫か?リコ。」
「大丈夫。」
人が見えなくなった私はイツキにナビゲーターをしてもらわなければ普通に道を歩くことさえままならなかった。
ペットショップも、動物も、やはり生きている動物達を見ることはできなかった。
私の視界は、今、死んだものしか捕らえない。
きっと今空を飛んでいる鳩も、他の人たちには見えないし、いないのだろう。
まだこの目でも、イツキや、心清らかな霊が見えることだけが、私の唯一の救いだった。
「いつも、迷惑かけて、ごめんね。」
「いきなりどうしたんだよ?」
「そう思ったから・・・・・・。」
「リコのせいじゃないって言ってるだろ。」
「うん、ありがとう。霊界ではちゃんと役に立ってみせるから。」
「期待してる。」
「まかとけ!」
・・・・・・どこにも、行かないでね。
そばにいてね・・・・・・。
イツキ・・・・・・・。
暗い胸のうちは、打ち明けられないまま、今日も私達は、器なき死者を葬る。




