救われると
私はイツキみたいに強くはない。
私に何ができる?
私が囮となって、イツキに霊を倒させる?
ずいぶんと捨て身だが、それしかない。
相手が多勢に無勢で襲い掛かってくるのなら、霊一人一人に、札を張りつけてる余裕なんてどこにもない。
「・・・・・・何?この、家・・・・・・どうして、こんな、和人形ばかり・・・・・・。」
人形がカタカタと動いた。
不味い。
取りつき&乗っ取り型の霊なのかもしれない。
こういった物に取りついている霊は厄介だ。
体調がどうこうなるということは無いが、もろに乗っ取られると私はサイコメトラーにでもなったかのようにその人の記憶に入り込み、気付けばその人の記憶の場所にいるということがある。
これは、自殺霊なんていうイツキが言うに雑魚霊程度のものではなく、本当に強い念の塊のような霊でなければそうなることはなかった。
そして大概、そういった霊は、人に殺されたり、不可解な突然死を迎えていたりする。
今までそんなに強い霊に会うことはなかったから、そんなに引きずられることはなかった。
でも、この家の中に存在する霊なら別だ。
少なくとも、みんな自爆霊じゃないし、みんな桁外れに強い。
この和人形に取りついている霊にお札を・・・・・・。
すぐに手を引っ込め、札を貼りつけようとしたが遅かったらしい。
和人形の長い髪の毛が、どうやってかわからないが、私の腕に絡み付き、蒼白な顔をこちらに向けた。
昔の和人形ということもあって壊れているし、煤けているし、何より気味が悪い。
「っ・・・・・・きゃあああああああっ!!」
私が叫んで腕を振り回すと、和人形はそのまま壁にぶち当たり、壊れ、首がもげてしまった。
私も、乗っ取られ、変な記憶を見た。
記憶はどうやらこの家の記憶らしい。
この家に住んでいると思われる娘が父と思われる中年男性に話し掛けている。
『ねぇ、お父さん・・・・・・本当に村を逃げ出して、私は贄にならなくてよかったのでしょうか?楔の一つが外れてしまうことになりませんか?あの村にはたくさんの思い出があるのに・・・・・・私は、逃げてしまってよかったのかと考えてしまうのです。』
『黙れ!帰りたいのなら、お前1人で帰り、楔となればよかろう!』
父親は、強引に娘を押し退け、娘は姿勢を崩してしまった。
『キャッ!ごめんなさい、お父さん・・・・・・そんなつもりでは・・・・・・ただ、最近声がするのです・・・・・・「お前のせいだ」と。』
『そんなもの、空耳だ!真に受けるんじゃない!』
『お父さん、顔が真っ青ですよ・・・・・・?少し休まれてはいかがですか。お茶を用意いたしましょうか。』
『茶などいらん!私は少し休む!いいか、絶対私の部屋には近づくな!』
『・・・・・・お父さん・・・・・・。』
二人の頭上から見ているようなこのアングルは、何なのだろう?
考える暇もなく、口が動いた。
「・・・・・・お前の・・・・・・せいだ・・・・・・村は・・・・・・時期、滅ぶ・・・・・・お前一人のせいで・・・・・・。」
ゾッとした。
この霊が天井に貼りつき、ずっと娘を監視していたのだろう。
それでだ。
ずっと二人の顔が見えずに、頭ばかり見ていたのは。
しかし、着物を着ている・・・・・・これは、いつの時代の記憶なのだろう?
口がもう一度開く。
「お前の・・・・・・せいだ・・・・・・。」
低く、擦れ、酷く憎々しい声。
気持ち悪い。
娘はその後、自分の部屋?と思われる場所に入り込み、日記と思われる何かを書いていた。
そして、直ぐに別の画面がフラッシュバックした。
この部屋が現在の破棄のように荒れ狂い、娘の叫び声と、血のついた手で壁を叩いたような跡を見た。
気持ち悪くなって吐きそうになった。
すると、「リコッ!」という声がして、すぐ近くにイツキがいた。
「イツキ・・・・・・?後ろ!」
私がようやく本領を取り戻すと、イツキの後ろにいた霊にお札を投げ付けようとしたとき、お札を持っていないことに気付いた。
乗っ取られる前は確かに持っていた。
ということは、乗っ取られた時に落としてきたのだ。
全身から血の気が引いていくのを感じた。
イツキは、持ち前の反射神経で怪我をしたが、敵を切った。
「イツキ、怪我・・・・・・。」
「あ?ヘーキヘーキ。こんくらい。それより、リコ、どうした?顔が青白いぞ?」
すると、私はどこかに札を落としてきたことをイツキに報告した。
イツキは、「普段、札なんか使わないかなぁ・・・・・・あれしかねぇよ。」と頭をかいた。
私は、あれがないと何もできない。
戦えないし、下手したらさっきみたいに霊に乗っ取られて誰かをあやめるかもしれない。
可能性として十分すぎるほど、その誰か、は、イツキに当てはまる。
霊を倒すイツキの存在は、私以上に厄介なものだろう。
私は武器さえ取り上げてしまえば、最大限利用されるいい駒と成り果てしまうだろう。
「本当に、どうしたんだよ?叫び声が聞こえて駆け付けてみれば、なんか、「お前のせいだ」とか言いながらこの部屋の前に来て、俺が名前呼んだら、俺見てクスクス笑いだすし。」
私は、気がとおくなるような気がした。
札を落とした部屋がわからない。
私が意識がないうちに移動してきてしまった。
ここはおそらく、あの娘の部屋の前なのだろう。
記憶の中では、この柄の襖だったように思う。
私は、正直に起こった事をイツキに告げた。
すると、イツキは、「なるほど、そんでさっきふっとリコの体から霊が飛んでったわけか。」と納得した素振りを見せた。
私が札を取りに行きたいと申し出ると、イツキも渋々付き合ってくれた。
「しかし、楔やら、儀式やら、生け贄やら・・・・・・何で人は自分たちの命を助けるために人の命を犠牲にするかねぇ。」
「・・・・・・わからないよ。わからない・・・・・・だけど、たった一人の犠牲で大勢が救われるとするなら、私も、生け贄を捧げる事に賛成するかもしれない・・・・・・。」
「命の尊さを知らないわけじゃないだろ?」
「でも、死んでないからって生きてるってわけじゃない人も、世の中にはいるよ。本当は、自分は死んだほうがいいんじゃないかとか、思う人だって、日本では多いよ。」
「日本は、自殺大国だからな。」
「え・・・・・・。」
もっと命を大切に、とか、命は大切だ、とかありふれたこと言われて、私の考えを否定されると思っていた。
イツキは、知ってるのかもしれない。
生きているのに、生きていないような人達を。
知っていて、嘆かずにはいられないのかもしれない。
そうだとするなら、私は、失礼なことを言ったかもしれない。
誤ろうと口を開けた瞬間、霊が目の前に飛んできて、目も口も丸く開けてきたので、叫んでしまった。
「きゃあああああああっ!?」
その瞬間、イツキが霊を切ったけど、イツキが一言呟いた。
「まずい。そろそろ夕刻だ。霊がよりいっそう強くなるぞ・・・・・・昼ではなく、朝方から来るべきだったか・・・・・・?」
「ただでさえ、こんなに強いのに、もっと強くなるの!?帰ろう!私、そうじゃなきゃ、私・・・・・・。」
体から嫌な汗が出てきた。
私は、イツキを殺しかねない・・・・・・。
イツキが持っているのは、木刀だけだ。
うまくいけば人も殺せるが、イツキは、私を殺せないだろう。
人の死を嘆き、人の命を大切にする人だからだ。
そうなった場合、操り人形と化した私は、イツキを殺すには最高の条件なのだ。
札だって、やたらめたらには使えない。
早く帰って、安全な場所にいなければ・・・・・・。
嫌な予感しか、しない・・・・・・。
「おい、大丈夫か?」
「帰ろう・・・・・・イツキ、一回帰って、また朝方にくればいいじゃない!ね!?」
「・・・・・・それはできない・・・・・・説明するより見たほうが早いだろうな。こっちへ。」
イツキは、歩きだし、ポケットから100均で買ったと思われる小型のLEDライトを取り出した。
暗くなったらつけるつもりなのかもしれない。
ところが、行っても行っても入り口は見つからない。
ついには歩き疲れてきた。
「イツキ・・・・・・この家、こんなに大きいの?それに、もう何周もして、同じ場所を見てる気がする・・・・・・。」
イツキは、霊を倒しながら歩き回るが、ついには、木刀も構えずに、その腕をダラリと下げた。
「出入口が、封鎖されてる。どこか一部が壁になってるんだろうが、この家は外側へと出られる窓には策があって出られないようになっている。そしてなにより、時折、部屋が移動するんだ。もともとあった場所に、なかったり、なかった場所にあったり・・・・・・実際にこの建前はあるわけじゃないから、霊達もやりたい放題さ。とりあえず、明日の朝になれば出られるかもしれない。希望は、そこだけだな。それか、今夜中に核を片付けるか。」
イツキはいたって冷静だが、それではまるで迷路ではないか。
「待ってよ。初めて会ったとき、ここから出てきたじゃん。」
「別の外からの干渉によって空間がねじれたんだろ。俺もココに来たのは今日で2回目だからよくわかんねえよ。」
「そんな・・・・・・。」
可能性は、朝方・・・・・・霊の活動が静まる頃・・・・・・?
そんなの、朝になっても出られない可能性だって否めないではないか。
さて、札を落とした部屋がうまいことみつかってくれるだろうか?
チリンと鈴のなるような音がした。
ハッとして振り替えると、顔はよく見えないが、あの記憶の中の娘と思われる女の子が「こっち・・・・・・。」と言ってどこか奥へ走っていった。
ついていっていいのか、よくわからない。
「・・・・・・・どうかしたか?」
後ろからイツキに尋ねられ、女の子の話をした。
すると、イツキは「気付かなかった。少なくともそれは悪霊の類ではないだろうな。俺は悪霊ばっか見えちまってそういうのはうすぼんやりとしか見えないんだ。」と言った。
だから霊感が強いイツキが女の子に気付かなかったのか・・・・・・。
「なら、ついていってもいいのかな・・・・・・。」
私が歩きだすと、イツキは一言、「離れんなよ?もし離れたら部屋の位置かえられて会わせないようにするのだって造作もないし、そのほうが霊にとっても有利なはずだ。」と言った。
私は強く頷くと、女の子が走りだした方向へ慎重に歩き始めた。
途中たくさんの部屋があったが、そのたび女の子は待っていてくれて、こちらをじっと見ていた。
顔は悪霊みたいに歪んだ様子は見せていないし、着物は、裾の方に血らしき何かがついているものの、特に怖いといった雰囲気は持っていなかった。
「いるな。弱い霊が。」
私はイツキの言葉に驚いた。
こんなにはっきりと見える思念の塊なのだから、弱い霊ではないことは確かなのに、イツキは弱いと言ったからだ。
だが、それもすぐに納得した。
イツキには、あの女の子がうすぼんやりとしか見えていないのだ。
おそらく、悪霊しか見えない体質なのだろう。
損な体質だ。
私も人のことは言えないけれど・・・・・・。
「違うよ、イツキ。あの子は弱くなんかない・・・・・・はっきりとした意図を持って私達をどこかに導いてる。進むたびに、待ってくれてるの。イツキにはわからないかもしれないけど・・・・・・それにしても、何で赤い着物なんか着てるんだろう?記憶の中では薄紫・・・いや、菫色って言うのかな?そういう色の着物を着てたんだけど・・・赤ってなんかお祝いとかの時に着る色じゃなかったっけ?」
「普段から着てるもんじゃねぇの?色なんか知らねぇよ。」
「あれ?お祝いとかの色でしょ?赤は・・・特に女の子の。」
そんな会話をしていると、こちらの会話から何か感じ取ったらしき女の子は、悲しげに笑った。
これぞ、守ってあげたくなる儚い女子像!とか馬鹿な事を思っていると、いきなり壁から手が突き出してきた。
「きゃあああああああっ!!」
何これ!?何これ!?何これ!?
ドンッと反対側の壁にぶつかると、今度は、髪の毛を掴まれ、壁に引きずりこまれそうになった。
「痛いっ!いや!やめてっ!!」
女の子は驚いた表情のまま固まっていて、イツキが素早く手を切ってくれた。
「部分的な雑魚じゃねぇか!まさか、この廊下にトラップみたいにいるんじゃねぇよな!?その霊がここにおびき寄せたんじゃないのか?」
木刀で女の子を指すと、私はあわてて否定した。
「違うよ!あの子はあの手の事、何も知らなかった!だから、立ちすくんじゃってたの!そんなに殺気立たないでよ!女の子が怯えて・・・・・・る・・・・・・」
女の子を振り返った時、女の子の後ろに、今まで出会った事がないような強い霊が出てきた。
女の子は、それに気付き、後ろを向くと、両手を広げ、とうせんぼのように立ち、首を横に振った。
だけど、悪霊はお構い無しに女の子をどこかに跳ねとばし、女の子は壁を越えて姿が見えなくなってしまった。
鈴の音が、どんどん遠ざかっていく。
「酷いっ!女の子に、なんて事を・・・・・・!」
「リコ。リコ、どいてくれ。そいつは、相当強い。多分リコじゃ手も足も出ないだろ。」
そう言われ、場所を交代するとまた床から手が伸びてきて私の足首を凄い力で捕まえた。
「イヤァアアアア!!」
「クソッ!悪い、そこにいて!」
イツキは、すぐに手を切ると、私に結界を張って結界内から動けなくした。
箱の中で動けない私にどんどん霊は寄ってくる。
ついには、イツキの戦いぶりも見えなくなって、全面霊に覆われてしまった。
霊が力一杯結界を殴るので、中にいる私は煩くてたまらない上に、気持ち悪くなってくる。
こんな光景、目にしたことがない。
360度、たまに見るか見ないかの強い霊がたくさんいて、結界を叩いているのだ。
下は何もないけど、上にはやはり霊がはりついている。
私は耳を塞いでしゃがみこんだ。
泣き叫びたかった。
誰かに助けを求めたくなった。
でも、今、私を助けてくれる人は戦っている。
助けてくれる人が、見つかったには見つかったが、あまり迷惑はかけられない。
身を固めてひたすらにギュッと縮こまっていた。
ようやく戦い終わったらしいイツキは、ボロボロになっていた。
「大変・・・・・・休まなきゃ!」
霊を払い、結界をといてくれたものの、どこに行ったらいいか、わからない。
すると、女の子が険しい顔つきで、札を持って現れ、スッと一つの部屋を指差した。
そこには、先ほど立っていた女の子の部屋があった。
私が頷いてから、入ると、イツキは、すぐさま部屋に結界を張った。
女の子は、札を床に置き、その上に座った。
「・・・・・・その札・・・・・・私が、持ってたやつ?」
私が女の子に問い掛けると、女の子は、首を横に振った。
女の子は、イツキの結界内に飲み込まれてしまった机を指差した。
そこには、誰かの日記らしきものが置いてあった。
「日記?」
少女は、頷いた。
どうやら少女のもので間違いないようだ。
「読んで・・・・・・いいの?」
少女は、少し苦しそうに頷いた。
昔の人の字が読めるか、私にはわからない。
が、わりと読めた。
はじめのページには、「はじめてじをならっいました」とだけ、つたない字で書いてあった。
次のページには、「じがかけるようになったから、にっきをかくことにしました。おかあさんが、にっきをつけるといいといわれたからです。」と、次のページまで続く大きな字で書いてあった。
そういえば、見た記憶に、母親らしき女性が一度も現われない。
たまたまだろうか?
その次はひらがながひたすらに書き連ねてあるページが何ページも続いた。
「じをかくのは、むすがしいです」
多分、むずかしいと書こうとしたのだろう。
「このままいけば、みやこは、かんじをおしえてもらえるそうです。ひごろのどりょくをみとめてもらえたようでとてもうれしいです。」
確かに、日記の字は、ずいぶんと読めるものに変わっていた。
まだ数十ページほどしか進んでいないとは思えない上達ぶりだ。
「きょうは、かんたんなかんじをならいました。たとえばきょうは、今日とかくのだそうです。これで、こんにちともよむそうです。おなじかんじなのに、よみかたがちがうのでむずかしいです。でも、がんばります。」
「お母さんが青いかおをしています。たいちょうがすぐれないのでしょうか?お父さんも、何かをなげいているように見えます・・・・・・どうして美弥子には、何もおっしゃってくださらないのでしょうか。」
この漢字は、みやこ、でいいのだろうか?
だとすると、今、私を導いてくれているこの少女は、美弥子という名前だということになる。
「さいきん、漢字を教えてくれる早さが、すごく早くなりました。美弥子のあたまはいっぱいいっぱいです。」
「お父さんに、もう八さいなのだから、自分のことを美弥子と呼ぶのはやめなさいと言われました。これから、美弥子は、自分の事をわたくしと呼ばなければならないそうです。」
「お母さんに初めて漢字を習いました。わたくしとは、私と書くのだそうです。私は、ずいぶんと漢字を書けるようになりました。もうすぐ九つ・・・・・・九歳です。」
かいつまんで読んでいたせいか、もう一年がすぎる頃らしい。
「私が十歳になったら、お話があるのだとお母さんは、言われていました。一体何なのでしょう?十歳頃になれば成人です。生理というものがくると、女性は、成人を迎えるそうです。」
ペラペラとページを勧めると、「この村では、女性の成人を早めている傾向にあるのだそうです。だから私にも無理やりたくさんの漢字を教え込んだのでしょうか?おかげで日記を書くことに困らなくなりましたが、何故でしょう?」というページが目に止まった。
そこから再び読み始めると、「他の村では成人は、十歳を過ぎて、十三歳くらいになると立派な大人だと聞きました。村によって成人年齢が違うのでしょうか?学問は、村によって習う時期が違うとは聞いたことがありましたが、成人年齢まで違うとは。私は、あと数日で十歳になります。お母さんが言っていた、私に言いたいこととは、何なのでしょうか?とても気になります。」と書いてあり、最後の一ページには、「私、美弥子は、今日を持って十歳になりました。お母さんの顔は蒼白です。一体なにを私に伝えたいのでしょうか?お父さんも黙ったままなので、とても重苦しい空気が流れています。成人の祝い事などをしている雰囲気ではありません。なんだか、怖いです。」と、書いてあった。
この後、何が起こったのだろうか?
何故少女は、こうなったのだろうか?
何故少女は、ここにいるのだろうか?
疑問ばかりが募り、私は少女を見た。
少女は、うつむいたままだった。
「この部屋が、何の部屋か、わかるような何かは・・・・・・書いてあったか?」
イツキは、ボロボロの体を起こしながら言った。
「・・・・・・ここは、あの少女の部屋だよ。あの子の名前は美弥子。何故こうなったかまでは書かれてない。」
手を下ろすと、日記からパラリと地図らしき何かが落ちた。
どこかの村の地図のようだ。
手書きで分かりづらいが、少女が書いたのだろう。
誰々の家、大きな石とか、よくわからないことが書き込まれている。
とにかくいろいろなものを読んでみた。
結果、わかった事は、彼女のお母さんは、贄となり、儀式をしたが、失敗した。
少女にも贄となる魔の手が差し掛かってきたので父親は、少女を連れて逃げ出してきたらしい。
その儀式と言うのがどうやら、その選ばれた家系の者にかなりの苦痛を与えるという者らしく、贄は必ず女と決まっていた。
だから、成人年齢を早めていたのだろう。
そして、選ばれた贄で儀式が失敗すると、次はその子供に手が伸びる。
それでもダメなときは、父親が天晒しという吊り首に近い儀式を行わされるらしいのだ。
そして、少女の日記にはこう続く。
「お母さんが儀式の楔となり損ねてから、お父さんは、横暴になってしまいました。今日も私を突き飛ばし、もう変な事は口にするんじゃない!と怒られました。でも、毎晩耳元でお前のせいだと聞こえるのは、事実なのです。どうしてなんですか・・・・・・お父さん・・・・・・このお札を持っていれば大丈夫なのではないのですか?どうしてこんなことになるんですか。教えてください。誰か、教えてください・・・・・・。」
私は少女の顔を見た。
困った表情を浮かべたままただ、座っていた。
次のページには、「もう、嫌です。何が私のせいなんですか?毎日同じ夢を繰り替えし見るのには、なんの意味があるのですか?私のせいだというのなら、何が私のせいなのかを詳しく教えてください。このお札は本当に効果があるのですか?毎晩同じ声がします。効果すらうかがわしいです。」
だんだん文字が乱れてきている。
精神的に不安定になってきたのだろう。
「夢・・・・・・そうだ、今日は夢の事を書きたいと思います。夢に出てくるのは、いつも数字です。そして、たまに人が出てきます。バラバラで意味のわからないものばかりです。でてくるのは、五と、二と、一と、手・・・・・・それから、人、八、それの繰り返しです。出てくる順番も、何か関係があるのでしょうか?人は、いつも見覚えのない人が居ます。あなたは、誰なんですか?」
「村は、どうなったのでしょう。楔となる人間は見つかったのでしょうか?こんな思いをすることになるのなら、いっそのこと、楔となってしまえばよかった・・・・・・お父さんもあんなに荒れてしまうなら、私一人が犠牲となって村の厄災を押さえてくればよかった、きっとお父さんには天晒しなんてさせませんから。」
「もういや・・・・・・嫌です・・・・・・いや・・・・・・いい加減にしてください!母は、何故か楔となり損ねました!父は逃げ出し、横暴になりました!一体、私の何が悪いのだと言うのです!?一体、何が私のせいなのだと言うのですか!?もう、あれから父とは一言も言葉を交わしていません。私はどうしたらいいのですか!?教えて、誰でもいいから、教えてください!」
それからしばらく先は、夢の事が書き連ねてあった。
「五、五、二、一、手・・・・・・いつつ、いつつ、ふたつ、ひとつ、手・・・・・・ご、ご、に、いち、手・・・・・・?」
「一、人、八、一、八・・・・・・ひとつ、ひと、やっつ、ひとつ、やっつ・・・・・・いち、人、はち、いち、はち・・・・・・?」
「五、五、二、一、手、一、人、八、一、八・・・・・・五五二一手一人八一八・・・・・・五五二、一手・・・・・・いって?一人・・・・・・ひとり?八一八・・・・・・?」
「お父さんが、新しいお母さんをつれてきました・・・・・・酷い、遊び人です。私をよく家から追い出し、父のいぬ間に他の男性をつれてきています・・・・・・幻聴はさらに酷くなってきました。私が成人したら、私の肉体を食らうと、今までとは違う、別の声が囁くのです。私はもう成人を迎えました。飲んべえのようになってしまったお父さんの酒代を払うため、働いています。ただ、ひたすらに働いています。なのに、声は、私が成人したら、私を食らうと・・・・・・ねえ、教えてください。私は何のために生きているのでしょうか?」
ゾクリとした。
私は、何のために、生きているのか?
その疑問は、私が自問自答していたもの、そのものだった。
やがて、少女の日記は、「困りました・・・・・・これは・・・・・・血?血が、血が・・・・・・出てきています。近所の方に助けを求めたところ、お祝いをしなければいけないと言われました。着たことのない艶やかな赤い色の着物を私は今、着ています。家にはお父さんもお母さんもいません。おばさんが手伝ってくれました。化粧もして、まるで自分ではない気分です。食事の準備も済んだので、二人の帰りを待つことにしました。なかなか帰ってこなさそうなので、日記が長くなってしまいそうです。夢は、あれから、三、八、五を繰り返しています。いったい何を私に伝えたいのかわかりません。たまに血に塗れた自分の部屋が映るので、夢を見ることが嫌になりました。眠ることすら怖いです。結局、お札はボロボロになり、あともう少しで真ん中に穴が開いてしまいそうになっています。最近、白昼夢でも見るのでしょうか・・・・・・寝ていないはずなのに、また三八五が出てきました。忙しなく現れます。声は日増しに多くなり、今は何と言っているのかすら聞き取れません。たくさんの声であふれています。
寝ている時に、誰かたくさんの人が歩いていく音がします。お父さんは、酔っ払っているし、お母さんには全く持って聞こえないそうです。私が疲れているだけなのでしょうか?お母さん、天国にいるお母さん・・・・・・どうか見ているのなら、私を・・・・・・美弥子を、お守りください・・・・・・。」と続き、そこからあとのページは、血がこびりつき、開けなくなっていた。
無理に開けばページが破けるだろう。
本から、またヒラリとお札らしき何かが落ちてきた。
真ん中が、焼けたように穴が開いていた。
それを見たイツキが、「結界を食い破られたんだな。」と呟いた。




