泣いていれば
泣き喚いていれば、誰かが手を差し伸べてくれる時代は、終わってしまった。
これから私は、1人で生きていかねばならない。
それなりの年齢にも達して仕事もしている。
1人で生きられる環境はある。
でも、人との深い関わりを持てない。
・・・・・・こんな、力のせいで・・・・・・。
ピンと来る人にはピンときたと思う。
簡単な話だ。
私には、見えないはずのものが視える。
そして、特殊な体質らしく、そういったものに好かれてしまう。
敵対心を持たれるわけではなく、その、この世には存在しないものと同調してしまう。
そして、同調して何か体調が変化するでもなく、周りによってきてしまう。
だけど、私の周りの人は、かなり悪霊の影響を受けるらしく、体調を次々崩し、私の前から去っていってしまう。
私は気味わるがられ、避けられるようになりだした。
私も、どうせ大事な人を傷つけるのなら、仲のいい人なんていらないと、人を避けるようになった。
外祖父母は、すでに他界してたし、父方の方は離婚して、切り離されてた。
私には、唯一のつながりが、母しかいなかった。
その母も先週、他界したところだ。
元々体が弱かったのに、無理がたたったのだろう。
私一人では、お葬式を上げられるお金もなく、ひっそりと火葬されて今は、ビンの中。
私が泣きじゃくれば手を差し伸べてくれた母は、すでにいない。
私には、流産してしまった姉がいたらしいけど、私は一人っ子だ。
誰にも、もう何も、助けを求める事なんてできない。
薄暗い、黒にも紺にもなりきれない、今の私みたいな空の下ぼんやりと路地を歩いていた。
「うぁぁぁあああ!?」
ブチン!と言う音がして、静電気が体に走ったような痛みと共に、体が楽になった。
そして、それは次々に起こる。
「何なんだよ!?この怨念の塊は!?」
・・・・・・今、何といっただろうか?
それよりも、立て続けに起こる体の痛みに、ついつい声をあげてしまった。
「痛いっ!いや!もうやめて!」
「え?」
かたく目を閉じた私の目の前で、若い異性の声がした。
「え・・・・・・?」
その男性は、紛れもなく、私の目の前にいて、私に木刀を振り下ろそうとしていた。
「木刀・・・・・・?」
私が木刀に触れようとすると、それを避けるかのように木刀をおろし、呆気に取られた表情のまま、「人間・・・・・・?」と呟いた。
「・・・・・・視・・・・・・える・・・・・・の?私の、周りの・・・・・。」
私が尋ねている間にも、その人は結界を作り、「見えるも何も・・・・・・俺は、怨念の核が人間だって方が驚きなんだけど・・・・・・。」と結界内から答えてくれた。
悪霊達は、必死になって結界をこじ開けようとしている。
「結界までつくれるなんて・・・・・・すごい霊感の持ち主なんですね・・・・・・。」
「あなたもね。こんな悪霊沢山従えてる人間なんて見たことない。」
「別に、従えてるわけじゃ・・・・・・。」
「何か、あるの?」
私はその男性に全て打ち明けてみた。
小さい頃からこんな体質なこと、周りから嫌われものな事、誰とも深い関わりを築けない事。
行き当たりばったりの男性に、全て打ち明けたのに、男性は、面倒くさがらずに全部聞いてくれた。
私も、どうして見ず知らずの人にこんなことを打ち明けてしまったのかはわからないが、話しだした口が止まる気配を見せず、結局全てを吐き出してしまった。
すると、男性は、深いため息をついて、「俺も損な性格だ。」と言うと、頭を掻き毟った。
「・・・・・・ごめんなさい、こんなこと、何も関係ないあなたに話すなんて。」
「・・・・・・関係なく・・・・・・ないんですよ。俺とあなたが出会った、いや、俺のところにあなたの悪霊が襲ってきた時点で、もう縁は結ばれてしまった。どういう形であろうが、俺はあなたと会うでしょう。このままあなたを放置してもね。」
どういう根拠に基づいてそんなこと言い切れるのか、と聞きたかったが、聞くまでもなく、霊達は、結界内にいる男性を引きずりだしてとらえようと必死になっていた。
今まで、悪霊が暴れて、体が引きずられそうになった経験は何度かあるけど、今回は今までの比ではない。
私の全身全霊が、彼に引き寄せられているみたいだ。
まるでおいしいご馳走にかぶりつくように、霊達が、男性を食らおうと必死にもがいている。
それほどまでに、貴重で、強い霊感の持ち主なのだろうか?
「痛いの、我慢できます?俺が付き物、落としますよ。」
「え・・・・・・できるんですか!?そんなこと!」
「いやいや、出来なかったら、俺、今ごろこの悪霊達に乗ってられて貪り食われてますよ・・・・・・。」
「でも・・・・・・会ったばかりなのに・・・・・・。」
「俺は、柏原 逸樹。あなたは?」
「夏川 莉子・・・。」
「へぇ?リコさん?変わった名前だ。じゃあ、とりあえず除霊しますね。」
私が身構えると、何の効果か、霊が剥がれ落ち、イツキ?とか言った男性は、いきなり私の手首を掴むと走りだした。
「え!?え!?」
あれ?体が軽い。
「全部払いました。だけどあなたの体質は厄介だ。落としてもついてくる。だから、一度俺の家にきてください。大丈夫、襲ったりしませんよ。まず強力な結界内に入らないといけないんで・・・・・・ああ!説明は後にします!とにかく走ってください!早く!」
私にしてみれば十分早い。
こんなに早く走った事なんかなかった。
霊がまとわりついてない体ってこんなに軽いんだ、そう思ったくらいだ。
どっかの家に連れ込まれて、不安になる私を余所に、イツキとやらは床に倒れるように寝そべった。
「疲れたー・・・・・・奴らからしたら、俺らなんて恰好の餌ですよ。」
「あの、私、帰りたい・・・・・・んですけど・・・・・・。」
「ダメです。しばらくここにいてください。今出られては、俺の敵が増えるんで。あ、ちなみに部屋数はあるんで、どうぞそちらへ。」
「・・・・・・共同・・・・・・生活?」
「・・・・・・そうですね、とりあえずあなたに霊の払い方と、除霊方法を覚えて頂かなくては・・・・・・かという俺も修行中の身ですが。」
「困ります・・・・・・その、下着とか・・・・・・仕事とか・・・・・・。」
「なら、今の仕事を止めてください。外出する時は俺に言ってください。お供しますんで。」
「仕事をやめたら、生活の糧がなくなります!」
「新しい仕事を紹介しましょうか?霊媒師。俺も仕事途中だったんですよね~。それをあなたについていた怨念に邪魔された。どうしてくれるんですか?」
冗談じゃない。
こんなの悪質商法じゃないか。
いきなり「払ってやる」とか言われて、勝手に霊を払われて、いきなり部屋に連れ込まれて、今の仕事を辞めて、新しい仕事をやれだなんて、悪質商法よりももっと酷い。
こちらの意志なんか一向におかまいなしだ。
悪質商法だって、よろしければ~みたいなこと言ってちゃんと同意かどうかこちらの意志を確認してくるのに。
これじゃガサ入れだ。
いい加減にしてほしい。
別に私は霊を落とす必要なんてなかった。
そりゃ、少しは落としてほしかったけど・・・・・・それなのに、仕事の邪魔されたなんて、脅迫もいいとこだ。
そうだ。帰ってしまおう。
タクシーを拾って帰れば帰れる。
そっとドアノブを握ると、外へと走りだした。
「あ、ちょっ!」
走っているうちに霊にまとわりつかれ、あっという間に体が重くなった。
それから、私の意志に反して、私の体がズルズルとどこかに引きずられていく。
「あーぁ・・・・・・だから出るなって言ったのに・・・・・・。」
聞き覚えのある声と、電気が走るような痛み。
どうやら、私と霊には、磁石のような関係が成り立っていて、霊とイツキにもその関係は成り立っているらしい。
ようは、私がこのままであり続けるかぎり、霊は、私とイツキの接着剤となり、私達の関係をつなげるものになるらしい。
結局あの家まで連れ戻され、怒られたのは言うまでもないだろう。
私は大人しくすることに決めた。
外見に自信があるわけじゃない。
きっとこんな冴えない女、手を出そうなどとは考えないはずだ。
「あの・・・・・・やっぱり、着替え・・・・・・。」
「明日、あなたの家に行きましょう。あなたの家に結界を張れば、あなたは家に帰れますよ。ただし、外出の時はさっきも行ったとおり、俺がお供する事になりますが。」
その夜、初めて私は異性の家に泊まった。
いや、他人の家など、そもそも泊まった事がない。
どうしたらいいのかわからなかった。
翌日から、私はイツキにたっぷりと護身術を習うことになり、仕事も辞めてしまった。
誰も悲しみはしなかった。
かえってホッとしているようにさえ思えた。
そりゃそうだろう。
厄災が消えたのだから。
こんなとき、私は誰にも必要と去れていないのだと痛感する。
どこにも、居場所がない。
イツキも、ココも、一時的に身を置いてもらっているだけに過ぎない。
「あんのぉ・・・・・・そこでボーッとしてんなら、現場行くんで、手伝ってくれません?」
「へ!?あ、はい?」
「いい加減やめましょ。」
「何を?」
「敬語。俺ら、多分同年代でしょ?」
おそらくそうだろう。
私が頷くと、イツキは、「じゃあタメで!」と言って笑った。
笑い顔が、まぶしい。
ヤメテ・・・・・・ヤメテ・・・・・・私にそんな顔を向けないで!
顔をそらすと、「ほら、早く。」と急かされた。
「私に、何ができるの?」
「知らないよ。」
「え・・・・・・。」
私はイツキの顔を見たが、当の本人は、大真面目。
聞くも無駄だと判断した私は、それ以上話すことなく、イツキの三歩後ろあたりをノコノコとついていった。
ついたのは、廃墟だった。
ボロボロで、一歩歩けば床が抜け落ちそうな場所。
「・・・・・・ここは?」
「廃墟。」
「そうじゃなくて・・・・・・。」
「荒れ地。荒野。誰も買い手がつかない。当たり前だけどな。」
「・・・・・・荒れ地?荒野?建物が建っていてもそう言うの?」
「言うんじゃない?でも、正式には、ここには建物なんてない。」
「え?でも、じゃあ、この家は・・・・・・?」
「念みたいなもんだよ。全て、今、お邪魔している家も、何もない人からしたら、見えない。だから、これ以上の腐食も劣化もないってわけだ。以前霊が俺に伝えたかったらしくてね・・・・・・この家は、今はなき、廃村から越してきた家系らしい。ほら、よくあるだろ?昔の人達が儀式何ちゃらって・・・・・・その贄に選ばれた家系がどうやら、ここに逃げてきたらしくてね・・・・・・厄災を抑えきれなかった村民が怨霊になってこの家に取りついているらしい。」
「・・・・・・その廃村は、どこに・・・・・・?」
「・・・・・・埼玉の方。」
「え?埼玉?」
「の、東京。」
埼玉なのか、東京なのか、はっきりしてほしい。
埼玉なら、割と栄えているし、東京だって栄えている。
詳しく聞き出そうとする前に、イツキは、私に釘をさした。
「こんなことを聞いて、リコはどうする?」
「どうって・・・・・・。」
「すべて聞いたら、戻れなくなるぞ。」
「戻れなくなるって、何が?」
「一般人と、あまりかかわれなくなるだけじゃない。今まで以上に霊に襲われたり、俺みたいな、仕事をしている奴としか会えなくなるかもしれない。俺なんかは、特にそういった危ない系の仕事なんだ。中途半端な気持ちなら、足も首も突っ込まないほうが良い。こっからは、戦場と同時に墓場になるぞ。」
すでに人の生活メチャクチャにしておいて、半分脅しのように自分の都合に突き合わせたくせに、今更何を言うか、と思ったが、私もまだ、墓場に足を突っ込みたいとは思えなかった。
・・・・・・何故だろう?
私には、すでに関われる人間が、こんな人たちしかいないのに。
いたとしても、すぐ私の周りからいなくなっていくのに。
別に死んだっていいじゃないか。
いままてさんざん死んでいたような生活を送ってきた。
自殺だけは、酷かったからしてないけど、だからといって生きているわけではなかった。
これが私の生きる道だと言うのから、生きる理由が寧ろ見つかってくれてよかったくらいだ。
「どうせ、視えない人たちみたいに霊に振り回されず生きることは、できないんでしょう?」
反問しながら、頷くと、イツキは「へぇ、飲み込み、早いんだ。」と言って話しはじめた。
場所は東京都の埼玉より。
ちょうど、東京の山が存在する辺りだろうか?
そこら辺も今やわりと栄えているが、その上に霊の住みかが存在するのだという。
確か、山には霊が集まりやすいって話は聞いたことがあるような気がする。
実際写真に誰か移りこんじゃったーなんていうのはわりかしよく聞く話だ。
そうでなくなって、魂と思われる白い光の球体が写真に写ったなんて、ありふれてる話だし、それなりに見える人なら、それこそ石ころのようにたくさんいる。
この土地はあまりに怨念が凄まじいために、誰も買い手がつかないのだという。
広いし、条件としては悪くないのに、実にもったいないような気がする。
「じゃあ、こっからが、本番だからな。」
イツキは、そう言って、扉にかかっていた縄を切った。
切った瞬間、凄まじい悪霊が大量に部屋に流れ込んできたのを見て、私は思わず叫んでしまった。
「きゃあああああああっ!!」
すると、霊が一瞬怯んだように見えた。
その隙にイツキがすごいスピードで霊を倒していく。
「とりあえず、札!持ってて!いざとなれば霊にはりつけろ!」
投げるように手渡されたそれは、札束にも近いたくさんのお札だった。
どう使うのか聞いていないが、使い方を聞く暇もなさそうだ。
とにかく私はお札を一枚抜き取ると、イツキの後ろに回り込んだ霊に貼りつけてみた。
「えいっ!」
すると、お札は一瞬にして灰に。
霊はダメージを食らったらしく、奇声を発してよろよろと後退った。
もう一撃、期待できるかもしれない。
私は札を貼りつけ、ついには霊を倒すことができた。
消えたって言うのは、倒したと言ってもいいと言うことだろう。
一人倒すのに三枚もお札を使ってしまった。
私はお札を張りつけたことで霊に敵だと認識去れたらしく、たくさん襲い掛かってきた。
霊と同化してしまう体質の私には、霊の攻撃など効かないに等しい。
その霊がたくさん襲い掛かってきたということは、多勢に無勢で、私の体にたくさんとりつき、動けなくする事を目的としているのだろうか?
「いやぁぁあ!」
道端の霊に出会ってよってこられて、体に取りつかれたことはあるが、こんなにたくさん、しかも強い悪霊に一気に襲われたことがないので怖い。
「こないでぇぇえ!」
私は必死に札を振り回すように飛ばしたが、このままでは札がなくなってしまう。
やみくもに使ってはダメだ・・・・・・どうしたらいい?
どうすればいい?
考えようとしたところをイツキが木刀で霊を切ってくれた。
「あ、あり・・・・・・がと・・・・・・。」
「いや、こっちこそ。俺に感心寄せる霊が一気にいなくなったからな、不意討ちでほとんど簡単に倒せたよ。さあ、奥に進もう。」
「進むの?」
「決まってんだろ?ここの根本的なこうなっている原因や理由を突き止めるために来てるんだから。」
「確かに・・・・・・霊と戯れに来たわけじゃないけど・・・・・・でも、私、どう戦ったらいいか、わからないよ・・・・・・。」
「あれでいいよ。一人になったときは叫べ。駆け付ける。あとは、俺の援護をして欲しい。今のは、この家の中でも雑魚だから、多分中にはまだ核となる存在がいるはずだ。」
「あれで雑魚なの!?」
「・・・・・・ああ、そうか。リコは街中の雑魚の中の雑魚ばかり見てたのか・・・・・・中にはめちゃめちゃ強い奴もいたけどな。こーゆー風にとどまってる奴らは基本的に強い。同素質同士集まって互いに共鳴しあってるから、単体よりも厄介だが・・・・・・頑張れ!リコ!」
頑張れって、そんなむちゃくちゃな・・・・・・そう言い掛けた口を閉じた。




