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神剣のセレスティア  作者: 玉響すばる


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第71話 邪神の正義

 七十二時間のうち、四十時間が過ぎた。


 邪神の座の奥で、黒い王冠が砕けた。


 支配の理は砕かれた。


 滅びの闇も裂けた。


 その先に、邪神本体の核が見え始めていた。


 だが、まだ終焉は届かない。


 核の前に、最後の殻がある。


 正義。


 邪神なりの正義だった。


 世界を乱れから救う。


 生者を迷いから救う。


 死者を忘却から救う。


 魂を流転から救う。


 痛みを無意味から救う。


 そのために、すべてを邪神の理へ収める。


 歪んでいる。


 間違っている。


 だが、邪神自身にとっては、それが正義だった。


 剣神セレスティアは、黒星と閃白を構えていた。


 背では解白が淡く光っている。


 隣には、剣聖セレスティアが立っていた。


 無銘の白刃を構えた、前世セレスティアの残響。


 その光は、すでに薄い。


 死者の盾を開き、役目の鎖を断ち、滅びの理を裂いたことで、剣聖セレスティアの残響は確実に消耗している。


 それでも、まだ立っていた。


 眠るために。


 終わらせるために。


 邪神が言った。


『世界は残酷だ』


 セレスティアは答えた。


「はい」


『人は争う』


「はい」


『愛する者を殺す』


「はい」


『守ると誓った者を裏切る』


「はい」


『死者は忘れられる』


「はい」


『名も、顔も、声も、やがて薄れる』


「はい」


『魂は迷う』


「はい」


『神々は見守るだけ』


「はい」


『ならば、我が救う』


「違います」


 セレスティアは、静かに否定した。


 邪神の核が、黒く揺れる。


『なぜ違う』


「あなたの救いは、選択を奪うからです」


『選択が苦しみを生む』


「はい」


『迷いが争いを生む』


「はい」


『忘却が死者を二度殺す』


「はい」


『ならば、奪えばよい』


「違います」


『迷わぬように』


「違います」


『忘れぬように』


「違います」


『死者が無意味にならぬように』


「違います」


 邪神の正義の殻が広がった。


 そこに、数え切れないほどの光景が映る。


 戦争。


 飢饉。


 裏切り。


 見捨てられた者。


 名もなく死んだ者。


 記録されなかった者。


 生まれたことすら誰にも覚えられなかった者。


 救われなかった者。


 間に合わなかった者。


 地上の醜さ。


 世界の不完全さ。


 神々が見守るしかできなかった無数の悲劇。


 邪神は、それを見せつける。


『これを放置するのが世界か』


「はい」


『これを許すのが神か』


「はい」


『これを見て、なお干渉しないと言うのか』


「はい」


『ならば、我の方が慈悲深い』


「違います」


 セレスティアは、一歩前へ出た。


「あなたは、苦しみを見ることはできても、苦しむ者を人として見ていません」


『人として見るから苦しむ』


「違います」


『素材として見れば、救える』


「違います」


『魂として管理すれば、迷わない』


「違います」


『死者を役目に繋げば、無駄にならない』


「違います」


 剣聖セレスティアが、短く言った。


「眠れない」


 邪神の核が、剣聖セレスティアへ向く。


『眠れば、忘れられる』


「それでも」


『眠れば、何も残らぬ』


「それでも」


『眠れば、役に立たぬ』


「それでいい」


 剣聖セレスティアの白刃が、静かに光った。


「死者は、役に立つために眠るのではない」


 その言葉に、セレスティアは頷いた。


「はい」


 邪神の正義が、黒い法典のように広がる。


 そこには、邪神の理が刻まれていた。


 生者は迷うため、管理する。


 死者は忘れられるため、保存する。


 魂は流れるため、固定する。


 痛みは無駄になるため、力へ変える。


 怒りは散るため、刃へ変える。


 後悔は腐るため、鎖へ変える。


 世界は乱れるため、統べる。


 それは、邪神の救済論だった。


 冷たく、合理的で、完全な理。


 だからこそ、恐ろしい。


 セレスティアは、その法典を見た。


 吐き気はない。


 神格の身体に、吐き気は必要ない。


 だが、心が拒んだ。


「黒星」


『押さえる』


 黒星が、邪神の法典を押さえる。


 重い。


 正義は重い。


 ただの悪意よりも重い。


 邪神自身が、それを正しいと思っているからだ。


「閃白」


『祓います』


 閃白が、法典に絡む濁りを祓う。


 だが、濁りは少ない。


 邪神の正義は、邪神にとって濁っていない。


 それゆえに、閃白だけでは足りない。


「解白」


『結び目、複雑』


「どこですか」


『救済と支配』


「はい」


『保存と利用』


「はい」


『安息と停止』


「はい」


『意味と役目』


「はい」


『慈悲と所有』


 セレスティアは、目を細めた。


「そこを解きます」


 解白の糸が、邪神の正義の殻へ伸びる。


 救済と支配を結んだ黒い糸。


 保存と利用を同じものにした結び目。


 安息と停止を混同させる理。


 意味と役目を同一にする鎖。


 慈悲と所有を重ねる邪神の中核。


 解白が、それを一つ一つ拾う。


 邪神が囁く。


『解いてどうする』


「見極めます」


『見極めても、世界は苦しむ』


「はい」


『見極めても、死者は戻らぬ』


「はい」


『見極めても、忘却は消えぬ』


「はい」


『ならば無意味だ』


「違います」


 セレスティアは、黒星を押し込みすぎないように抑えた。


 ここで力任せに砕けば、邪神の正義を否定するだけになる。


 それでは、核に届かない。


 邪神自身が正義と信じる殻を、理として解体しなければならない。


「あなたは、死者を忘れないと言う」


『そうだ』


「ですが、眠らせない」


『眠れば失われる』


「違います」


「あなたは、生者を救うと言う」


『そうだ』


「ですが、選ばせない」


『選択が苦しみを生む』


「違います」


「あなたは、魂を守ると言う」


『そうだ』


「ですが、器にする」


『空いた器は使える』


「違います」


「あなたは、痛みに意味を与えると言う」


『そうだ』


「ですが、痛む者に聞いていない」


 邪神の法典が、一瞬だけ揺れた。


 セレスティアは、そこへ踏み込む。


「あなたの正義は、相手の声を聞いていません」


 黒星が低く鳴る。


「あなたの慈悲は、相手の選択を認めていません」


 閃白が白く澄む。


「あなたの救済は、相手を所有しています」


 解白が淡く光る。


「それは、救済ではありません」


 剣聖セレスティアが、白刃を構えた。


「使うな」


 二人の刃が動いた。


 黒星が正義の法典を押さえる。


 閃白が偽りの慈悲を祓う。


 解白が救済と所有の結び目をほどく。


 剣聖セレスティアの白刃が、死者の側から「救済されること」を拒む。


 邪神の正義の殻に、細い亀裂が入った。


 地上。


 白樹の森では、豪雨が続いていた。


 だが、雨音の中に、名を読む声が通っている。


 ミレーヌは交代後の休息を終え、再び読み上げに加わっていた。


 腕の擦り傷は痛む。


 だが、声は落ち着いている。


「氏名未判明」


「七十年前、東山脈封印補助に関与した者」


「探索継続対象」


「忘却せず」


「役目を終えた者」


「眠るべき者」


 次の記録官が続く。


「アルディス」


「境界を閉じた賢者」


「世界を封じるためではなく」


「世界を次へ渡すために、境界を閉じた者」


 ルシェルは、その文言を記録していた。


 読み上げ文は、戦いの中で少しずつ変わっている。


 単なる名簿ではない。


 死者を邪神へ渡さないための言葉になっている。


 王妃が、読み上げ班へ温かい豆のスープを配っている。


 誰かが倒れれば、交代する。


 誰かの声が枯れれば、次が読む。


 誰かが泣けば、別の者が続ける。


 それが、地上の戦いだった。


 王は大広間で報告を受け続けている。


「アルディス柱、境界歪み再拡大」


「メルゼア柱、魂流安定継続」


「ロウガン柱、圧受け再上昇」


「グランガルド、杭交換班二名負傷」


「海底楔、第三班へ交代」


「竜の谷、若竜一頭が過呼吸状態。後退」


 王は即座に命じる。


「杭交換班の負傷者は後退。予備班を出せ」


「海底楔は第三班へ移行後、第一班を強制休息」


「若竜は戻すな。老竜へ交代判断を任せる」


「アルディス柱には海底霊流を薄く」


「ロウガン柱には竜脈を増やさず、封印杭の側面補助」


 王は、剣を振るっていない。


 神格もない。


 だが、世界を支えている。


 邪神の座。


 邪神は、その光景をセレスティアへ見せた。


『王は命じる』


「はい」


『王妃は食事を配る』


「はい」


『弟は記録する』


「はい」


『妹は名を読む』


「はい」


『鍛冶師は槌を振るう』


「はい」


『皆、役目に縛られている』


「違います」


『違わぬ』


「違います」


『お前が戦っているから、彼らは逃げられぬ』


「違います」


『お前が最後の刃だから、彼らは支えざるを得ない』


「違います」


『ならば、我と何が違う』


 セレスティアの神格が、静かに揺れた。


 邪神は、さらに踏み込んでくる。


『お前も、世界へ役目を与えている』


『地上は地上で立て』


『世界は自ら守れ』


『封印柱を支えろ』


『死者の名を読め』


『それは、お前の正義による命令ではないのか』


 セレスティアは、黙った。


 問いは鋭い。


 地上は自ら選んだ。


 そう言うことは簡単だ。


 だが、本当にそうか。


 邪神戦争という状況。


 封印崩壊という危機。


 剣神セレスティアの存在。


 それらが、地上に役目を押しつけてはいないか。


 セレスティアは、この問いから逃げなかった。


 黒星が重くなる。


 閃白が静かに澄む。


 解白が、淡く言った。


『主。責任結び目、発生』


「はい」


『過剰責任に注意』


「分かっています」


 剣聖セレスティアは、セレスティアを見た。


 何も言わない。


 だが、その静けさが、問いを支えてくれる。


 セレスティアは、ゆっくり息を吐いた。


「違いはあります」


『何だ』


「わたくしは、地上の選択を奪っていません」


『状況が奪っている』


「はい」


『なら同じだ』


「違います」


「状況が厳しいことと、選択がないことは同じではありません」


 邪神の正義の殻が揺れる。


「地上は、逃げることもできました」


『逃げれば世界が滅ぶ』


「はい」


「それでも、逃げることはできた」


『卑怯な理屈だ』


「かもしれません」


 セレスティアは、静かに認めた。


「ですが、わたくしは誰の魂も縛っていません」


「死者を起こしていません」


「生者を燃料にしていません」


「祈りを力として吸い上げていません」


「役目を終えた者を、なお立たせようとはしていません」


 剣聖セレスティアが、短く言った。


「わたしは、選んだ」


 邪神が歪む。


『残渣が選択を語るか』


「選んだ」


 剣聖セレスティアは、それだけを繰り返した。


「眠るために、立った」


 セレスティアは頷いた。


「彼らも同じです」


『同じではない』


「完全には同じではありません」


「でも、選んでいます」


 セレスティアは、地上の声を感じた。


 王の命令。


 王妃の食事。


 ルシェルの記録。


 ミレーヌの読み上げ。


 ゴルドの槌。


 海の巫女。


 竜たち。


 獣人たち。


 記録官たち。


 誰も、操られてはいない。


 怖い。


 苦しい。


 逃げたい。


 それでも選んでいる。


 セレスティアは、黒星を構え直した。


「邪神」


『何だ』


「あなたの正義は、相手が選んだかどうかを見ていません」


 閃白が白く輝く。


「だから、救済ではなく支配になる」


 解白が、強く光った。


「だから、慈悲ではなく所有になる」


 剣聖セレスティアが白刃を上げる。


「だから、死者を眠らせない」


 二人のセレスティアが、邪神の正義へ踏み込んだ。


 黒星が法典を押さえ込む。


 閃白が偽りの慈悲を祓う。


 解白が選択と支配の結び目をほどく。


 剣聖セレスティアが、死者の側から「選んだ想い」を刃にする。


 邪神の殻がさらに割れる。


 地上。


 グランガルドでは、豪雨と地震の中で槌音が続いていた。


 若い弟子の一人が泣いていた。


 手の皮が破れ、血が滲んでいる。


 それでも、槌を置かない。


 ゴルドが怒鳴った。


「交代しろ!」


「まだ打てます!」


「手が潰れる!」


「でも!」


 ゴルドは、その弟子の胸ぐらを掴んだ。


「死ぬまで打つのが職人じゃねぇ!」


「親方……」


「次に渡すのが職人だ!」


 弟子は、歯を食いしばった。


 そして、槌を次の弟子へ渡した。


「頼む」


「任せろ」


 交代した弟子が槌を振るう。


 血の滲んだ弟子は後ろへ下がり、布で手を巻いた。


 そして、封印杭の運搬へ回った。


 役目は終わっても、次の役目を選ぶ。


 死ぬまで使われるのではない。


 交代しながら支える。


 それが、地上だった。


 海底。


 第二班の巫女が倒れかける。


 巫女長が交代を命じる。


「下がりなさい」


「まだ」


「まだ、ではありません」


「でも」


「あなたの命は霊流の燃料ではありません」


 若い巫女は泣きながら下がった。


 第三班が前へ出る。


 縄が結び直される。


 霊流は途切れない。


 竜の谷。


 若い竜が竜脈から下がる。


 老竜が言う。


「恥ではない」


「でも、支えきれませんでした」


「支えを渡した。それでよい」


 草原。


 避難路の入口で、戦士が倒れかける。


 族長が交代を命じる。


「休め」


「まだ立てます」


「立てるうちに休め。倒れてからでは遅い」


 世界の各地で、同じことが起きていた。


 命を燃やし切るのではない。


 交代する。


 渡す。


 支える。


 それは、邪神の理とは違う。


 邪神の座。


 その地上の選択が、邪神の正義の殻へ届く。


 黒い法典に、さらに亀裂が入る。


 邪神が、初めて苛立ちを見せた。


『なぜ燃やし切らない』


「生きるためです」


『なぜ全てを捧げない』


「次へ渡すためです」


『半端だ』


「はい」


『不完全だ』


「はい」


『だから世界は苦しむ』


「はい」


『ならば、我が完全にする』


「違います」


 セレスティアは、黒星を振るった。


「不完全でよいのです」


 閃白が白く走る。


「交代してよいのです」


 解白が結び目をほどく。


「休んでよいのです」


 剣聖セレスティアが白刃を合わせる。


「眠ってよい」


 その四つの言葉が、邪神の正義を深く裂いた。


 支配。


 犠牲。


 役目。


 滅び。


 それらに偽装された正義が剥がれていく。


 邪神の核が、さらに露わになる。


 だが、同時に剣聖セレスティアの光がまた薄くなった。


 無銘の白刃が、かすかに揺れる。


 セレスティアは、隣を見た。


「もう」


 剣聖セレスティアは首を横に振る。


「まだ」


「あなたは、役目を終えた者です」


「はい」


「眠るべき者です」


「はい」


「なら」


「だから」


 剣聖セレスティアは、邪神の核を見た。


「最後まで」


 セレスティアは、言葉を飲み込んだ。


 止めれば、それは支配になる。


 彼女の選択を奪うことになる。


 前世セレスティアの残響は、眠るために立っている。


 ならば、その一太刀を尊重する。


「分かりました」


 剣聖セレスティアは、小さく頷いた。


 邪神の正義の殻は、ほとんど割れていた。


 あと一太刀。


 だが、その一太刀を通す前に、邪神は最後の問いを投げた。


『剣神セレスティア』


「はい」


『お前が我を斬った後、世界はまた苦しむ』


「はい」


『争う』


「はい」


『忘れる』


「はい」


『死者を利用する者も現れる』


「はい」


『生者を素材にする者も現れる』


「はい」


『第二、第三の邪神が生まれるかもしれぬ』


「はい」


『それでも、我を斬るか』


 セレスティアは、静かに答えた。


「斬ります」


『なぜ』


「あなたが今、世界の理を侵しているからです」


『未来の苦しみは放置か』


「未来は、未来の者が戦います」


『無責任だ』


「はい」


『神なのに』


「はい」


『それでも』


「それでもです」


 セレスティアは、黒星と閃白を交差させた。


「わたくしは、未来すべてを支配する神にはなりません」


 解白の光が、その交点へ通る。


「今、終わるべきものを終わらせる剣神です」


 剣聖セレスティアが、無銘の白刃を重ねる。


「終わらせる」


 セレスティアは頷いた。


「はい」


 二人の刃が、邪神の正義の殻へ入った。


 黒い法典が砕ける。


 偽りの慈悲が剥がれる。


 救済を名乗る所有が裂ける。


 選択を奪う正義が終わる。


 邪神の正義の殻が、完全に崩壊した。


 地上。


 白樹の森の豪雨が、一瞬だけ止んだ。


 ほんの数呼吸。


 だが、確かに止んだ。


 空の黒雲に、大きな裂け目が走る。


 虹色の光が、そこから射し込む。


 ミレーヌは、読み上げの途中で顔を上げた。


 ルシェルは、筆を止めずに叫んだ。


「邪神正義理、崩壊推定!」


 王が大広間で立ち上がる。


「各地へ通達。油断するな。最終局面に入る」


 すぐに、雨は再び降り始めた。


 だが、先ほどより少し弱い。


 雷も少し遠い。


 地震も、間隔が空いている。


 グランガルドで、ゴルドが空を見た。


「バカ姫」


 短く呟く。


「核まで行ったか」


 邪神の座。


 邪神の核が、ついに剥き出しになった。


 黒い核。


 世界外の理そのもの。


 死者を眠らせず。


 生者を素材にし。


 魂の座を器にし。


 支配を救済と偽り。


 滅びを終焉と偽り。


 正義を所有へ変えるもの。


 邪神本体。


 セレスティアは、神眼を最大限ではなく、必要な深さまで開いた。


 核が見える。


 終焉を通せる。


 だが、最後の抵抗が来る。


 それは分かっていた。


 邪神が、静かに言った。


『見事だ』


「不要です」


『ここまで来た神は、初めてだ』


「そうですか」


『だが、最後に問う』


 邪神の核が、黒く光る。


『我を終わらせるということは、我に縛られた全ての理を終わらせること』


「はい」


『死者の鎖も』


「はい」


『生者への根も』


「はい」


『魂の座への侵入も』


「はい」


『三賢者の封印も』


 セレスティアの神格が、止まった。


 邪神が続ける。


『我が終われば、三賢者の封印も役目を失う』


「はい」


『柱は消える』


「はい」


『三賢者は完全に眠る』


「はい」


『剣聖セレスティアの残響も消える』


 セレスティアは、隣を見た。


 剣聖セレスティアは、静かに立っている。


 光は薄い。


 だが、揺れていない。


『お前は、彼女を二度目の終わりへ送るのだ』


 セレスティアは、胸の奥が痛んだ。


 だが、逃げない。


 剣聖セレスティアが、短く言った。


「眠る」


 セレスティアは、目を伏せた。


「はい」


「送って」


「はい」


 邪神が笑う。


『できるか』


 セレスティアは、黒星を構えた。


 閃白を構えた。


 解白を通した。


 剣聖セレスティアの白刃が、最後に重なる。


「できます」


『なぜ』


 セレスティアは、静かに答えた。


「それが、葬送だからです」


 黒星が低く鳴る。


 閃白が白く澄む。


 解白が淡く光る。


 剣聖セレスティアが、かすかに微笑んだ気がした。


「帰りなさい」


「はい」


「眠ります」


「はい」


 邪神の核が、全ての黒を集め始める。


 七十二時間のうち、四十八時間。


 第二日が終わり、最後の一日が始まろうとしていた。


 邪神の理は剥がされた。


 支配も、滅びも、正義も砕かれた。


 残るは、核。


 そして、最後の終焉。


 剣神セレスティアは、前世の残響と共に、邪神本体へ刃を向けた。

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