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神剣のセレスティア  作者: 玉響すばる


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第3話 今生の黒星と閃白

 五十一年眠っていた剣炉に、火が入った。


 最初は、小さな火だった。


 古い灰の底で、赤い点が灯る。


 それが薪を噛み、炭を舐め、送風管から吹き込む風を受けて、少しずつ大きくなる。


 炉の奥が赤く染まった。


 黒く眠っていた石壁に、火の色が戻る。


 煤に覆われた大炉が、長い眠りから目を覚ますように唸った。


 ごう、と音がした。


 鍛冶場の空気が変わった。


 包丁を打つ炉の熱ではない。


 農具を整える火ではない。


 戦場へ持ち出される剣を生むための火。


 鉄を溶かし、鉱石の芯を起こし、魔力を宿すための火。


 ゴルド・ガルガンドの剣炉だった。


 弟子たちは誰も喋らなかった。


 古参の職人は、震える手で送風管を調整している。


 若い弟子たちは、何が起きているのか理解しきれず、ただ親方の背を見ていた。


 五十一年間、誰も使うことを許されなかった炉。


 親方が剣を打たなくなってから、一度も火を入れられなかった炉。


 それが今、燃えている。


 理由は一つ。


 剣聖セレスティアが戻ってきたから。


 いや。


 正確には、ハイエルフ王家第1王女セレスティアが、前世の約束を果たすために戻ってきたからである。


 ゴルドは、炉の前に立っていた。


 大きな背中だった。


 ドワーフとしては老いている。


 髭には白が混じり、顔には深い皺が刻まれている。


 だが、炉の前に立つその姿は、岩のように揺るがなかった。


 五十一年前と同じだった。


 セレスティアは、その背を静かに見つめていた。


 胸の奥が熱かった。


 懐かしいからではない。


 それだけではない。


 ゴルドが再び剣を打つ。


 その意味が、分かってしまったからだ。


 前世の自分が死んでから、ゴルドは剣を打たなくなった。


 笑わなくなった。


 最高の剣士を失ったから。


 その言葉は、セレスティアの胸に深く残っていた。


 自分は死んだ。


 その事実は変えられない。


 五十一年という時間を、ゴルドに背負わせた。


 けれど今、自分はここにいる。


 今生の身体で。


 今生の魔力で。


 今生の剣士として。


 セレスティアは、木剣の柄を握り直した。


 ゴルドが振り返る。


「ぼさっとするな」


「はい?」


「採寸する。そこに立て」


 ゴルドが顎で示した先には、石の床に刻まれた円形の測定陣があった。


 白い線。


 赤い線。


 古い魔銀で引かれた細かな紋様。


 セレスティアは思わず目を細めた。


「これは」


「五十一年前にも使った」


「覚えていますわ」


「なら話が早い。立て」


 セレスティアは測定陣の中央に立った。


 木剣を背から下ろし、右手に持つ。


 ゴルドは弟子に命じた。


「魔力測定具」


「は、はい!」


 若い弟子が慌てて、箱を抱えてくる。


 箱の中には、透明な水晶板と、細い銀線で作られた腕輪のような道具が入っていた。


 ゴルドはそれをセレスティアの手首、肘、肩、腰、膝、足首へ装着していく。


 手つきは乱暴だった。


 だが、位置は正確だった。


 骨の位置。


 筋肉の動き。


 魔力の流れ。


 そのすべてを、触れただけで見抜いている。


 セレスティアは少し笑った。


「相変わらず、触り方が雑ですわね」


「必要なところに付けているだけだ」


「王女に対する扱いではありませんわ」


「剣士として見ている」


「それなら構いませんわ」


「最初からそう言え」


 ゴルドは最後に、セレスティアの右手を取った。


 指を見る。


 掌を見る。


 握りを見る。


 そして眉を寄せた。


「前より細いな」


「今生はハイエルフですので」


「だが、手の内は悪くねぇ」


「鍛えましたもの」


「知っている」


 ゴルドは、セレスティアの手のひらを親指で押した。


 硬くなった皮膚。


 剣を握り続けた者の手。


 王女の手ではない。


 剣士の手だった。


「五歳からか」


「はい」


「馬鹿か」


「よく言われますわ」


「誰にだ」


「皆に」


「だろうな」


 ゴルドは鼻を鳴らした。


 そして、水晶板を作業台に置く。


「構えろ」


 セレスティアは木剣を構えた。


 鍛冶場の空気が、さらに静かになる。


 弟子たちは息を呑んだ。


 先ほどの一振りだけでも異様だった。


 だが、今度は測定具がある。


 魔力の流れが可視化される。


 ごまかしは利かない。


 ゴルドは腕を組んだ。


「黒星を想定しろ」


「分かりましたわ」


「前の黒星ではない。今のお前が欲しい黒星だ」


 セレスティアの目がわずかに変わった。


 前世の黒星を思い出す。


 背に負った重み。


 柄を握った安心感。


 振り下ろしたときの破壊力。


 竜鱗を砕き、魔物の骨を断ち、戦場の流れを変えた剛剣。


 だが、それをそのまま求めてはいけない。


 今の自分は、前世とは違う。


 力だけで振るのではない。


 魔力で支える。


 刃筋を制御する。


 重心を読み、軌道を変える。


 大剣を、大剣のまま、より精密に扱う。


 セレスティアは息を吸った。


 踏み込む。


 木剣が振り上げられた。


 その瞬間、測定陣の線が光った。


 手首から肩へ。


 肩から背中へ。


 背中から腰へ。


 腰から足裏へ。


 魔力の流れが、水晶板に映る。


 細い光の糸が、木剣の軌道をなぞった。


 セレスティアは振り下ろした。


 空気が重く裂ける。


 だが、叩きつける直前で剣筋がわずかに沈み、次の瞬間、軽く返った。


 大剣の一撃でありながら、返しが速い。


 力任せではない。


 重さを殺さず、反動だけを逃がしている。


 ゴルドの目が細くなった。


「もう一度」


 セレスティアは頷いた。


 二度目。


 三度目。


 四度目。


 振るたびに、水晶板へ違う線が刻まれていく。


 前へ出る一撃。


 横へ薙ぐ一撃。


 下から斬り上げる一撃。


 相手の攻撃を受け流しながら踏み込む一撃。


 すべて、大剣の動きだった。


 しかし、細部が異常だった。


 刃筋がぶれない。


 重心の移動が滑らかすぎる。


 魔力が、力の不足を補っているだけではない。


 むしろ、剣の可能性そのものを広げていた。


 ゴルドは低く唸った。


「面倒だな」


「何がですの」


「お前だ」


「失礼ですわね」


「褒めている」


「やはり分かりにくいですわ」


 ゴルドは水晶板を睨みながら言った。


「前のお前なら、黒星は鈍重でもよかった。いや、鈍重であることが強さだった。重さで押し潰し、頑丈さで受け、破壊力で終わらせる剣だ」


「はい」


「だが、今のお前は違う。重いだけの剣では邪魔になる。かといって軽くすれば黒星ではない」


「黒星は重くなければいけませんわ」


「分かっている」


 ゴルドは羊皮紙に線を引く。


 太い指からは想像できないほど、細かな線だった。


「芯を変える。剣身の奥に魔力を受ける柱を作る。ただし、魔導具みたいな軟弱なものじゃねぇ。アダマンタイト本来の硬さを殺さず、魔力を通した瞬間だけ重心が前へ出るようにする」


「重心を動かすのですか」


「完全に動かすわけじゃねぇ。剣士がそう感じるようにする。実際の重心と、魔力を通したときの感覚重心をずらす」


 弟子たちがざわついた。


 一人が思わず口を開く。


「親方、それは可能なんですか」


 ゴルドが睨んだ。


「可能にするんだよ」


「は、はい!」


 セレスティアは、その言葉に笑みを深めた。


 ゴルドだった。


 この無茶を当然のように現実へ引きずり下ろす。


 だから、自分はこの鍛冶師を頼ったのだ。


 ゴルドは次に言った。


「閃白を想定しろ」


 セレスティアは木剣の構えを変えた。


 大剣ではなく、両手剣。


 実際に持っているのは同じ木剣だ。


 だが、握りが変わった。


 足の置き方が変わった。


 呼吸が変わった。


 黒星を想定したときの重さが消え、線が細くなる。


 閃白。


 白く閃く剣。


 前世の自分が、左腰に差していた両手剣。


 抜けば、戦場に白い線が走った。


 対人。


 対魔法。


 対高速の魔物。


 黒星では間に合わない局面を切り開く剣。


 セレスティアは踏み込んだ。


 木剣が走る。


 その瞬間、水晶板に細い光が幾重にも映った。


 若い弟子たちが声を漏らす。


 黒星のときとは違う。


 魔力の流れが、あまりにも細かい。


 刃筋へ直接乗る魔力。


 切っ先へ抜ける魔力。


 手首で角度を補正する魔力。


 足裏から軸を整える魔力。


 さらに、斬撃の終端で魔力がわずかに分かれ、次の線を作っている。


 ゴルドは眉間に皺を寄せた。


「……おい」


「何でしょう」


「今、斬撃を曲げたか」


「ほんの少しですわ」


「木剣でか」


「はい」


「馬鹿か」


「できますもの」


「できるから馬鹿だと言っている」


 セレスティアは首を傾げた。


「閃白なら、もっと綺麗にできますわ」


「だろうな」


 ゴルドは水晶板を見て、低く笑った。


「前の閃白では足りねぇ」


「やはりですか」


「前の閃白は、斬撃を伸ばす剣だった。魔力を通して白い線を走らせる。速く、鋭く、遠くまで斬る。それで十分だった」


「はい」


「だが、今のお前は違う。斬撃を伸ばすだけじゃなく、角度を変える。刃筋を途中で調整する。斬った後の魔力の残りまで次の動きに使う」


「便利ですわ」


「便利で済ますな」


 ゴルドは羊皮紙に、さらに細い線を引く。


「魔力導線を三層にする」


 弟子たちが固まった。


「三層、ですか」


「外層は斬撃の伸び。中層は刃筋の補正。芯は魔力の戻りだ」


「戻り?」


 古参の職人が問う。


 ゴルドは頷いた。


「こいつは、斬った後の魔力を捨ててねぇ。剣から戻し、身体に流し、次の一歩に使っている。なら、剣もそれに合わせる」


 セレスティアは、思わず目を見開いた。


「そこまで見えますの?」


「見えなきゃ、お前の剣なんぞ打てるか」


 ゴルドは当然のように言った。


 その声に、セレスティアの胸が震えた。


 前世でも、そうだった。


 ゴルドは、セレスティアが言葉にしきれない感覚まで見抜いた。


 剣を振ったときの違和感。


 踏み込んだ瞬間の重さ。


 刃が入る直前のわずかな逃げ。


 そういうものを、鍛冶師の目で拾い上げ、剣に反映してくれた。


 だから、黒星と閃白は自分の一部になった。


 今生でも、同じだった。


 いや、前よりも深い。


 ゴルドは、自分が前世より強くなったことまで見抜いている。


 セレスティアは静かに息を吐いた。


「ゴルド親方」


「あん?」


「わたくし、前世より強くなっておりますか」


 鍛冶場が静まり返った。


 弟子たちは、返答を待った。


 剣聖セレスティア。


 五十一年前、邪神に挑んだ伝説の女。


 その前世より強いなど、普通なら口にすることすら恐れ多い。


 だが、セレスティアは尋ねた。


 そして、ゴルドは即答した。


「強い」


 迷いはなかった。


 セレスティアは目を細めた。


 ゴルドは続ける。


「前のお前は化け物だった。人間のくせに、剣で人間の限界を踏み越えた。黒星を背負い、閃白を抜き、戦場で笑うような馬鹿だった」


「褒めておりますの?」


「黙って聞け」


「はい」


「だが、今のお前は別の意味で厄介だ。ハイエルフの身体。馬鹿げた魔力量。精霊に愛される魔力の質。さらに前世の剣の勘。その全部が混ざっている」


 ゴルドは水晶板を叩いた。


「前のお前は、限界を力で突破した。今のお前は、限界の位置そのものを魔法でずらしている」


 セレスティアは黙っていた。


「だから、強い」


 ゴルドの目が鋭くなる。


「ただし、完成してはいない」


「……はい」


「前の黒星と閃白がないからじゃねぇ。今のお前は、まだ自分の強さに身体と感覚が追いつききっていない。剣があれば伸びる。だが、剣を間違えれば崩れる」


 セレスティアは、真剣な顔で頷いた。


「だから、あなたに頼みに来ました」


「正解だ」


「やはり謙遜しませんのね」


「謙遜で剣は打てねぇ」


 ゴルドは弟子たちに向き直った。


「聞いたか」


 弟子たちが背筋を伸ばす。


「これから打つのは、剣聖セレスティアの形見じゃねぇ。伝説の再現でもねぇ。今ここにいるハイエルフ王女セレスティアの剣だ」


「はい!」


「黒星は、大剣だ。重さを捨てるな。だが、重さに縛られるな」


「はい!」


「閃白は、両手剣だ。速さを殺すな。だが、速さだけに逃げるな」


「はい!」


「こいつは前より細かく剣を使う。剣の方がついてこなきゃ、ただの鉄屑になる」


 若い弟子の一人が、恐る恐る尋ねた。


「親方……我々にできますか」


 ゴルドは振り返った。


「できねぇなら、ここから出て行け」


 弟子の顔が青くなる。


 だが、ゴルドは続けた。


「だが、見て覚えろ。手を動かせ。失敗したら怒鳴る。しくじったら殴る勢いで叱る。だが、この仕事を見られる鍛冶師は、世界にそういねぇ」


 古参の職人が深く頭を下げた。


「親方、手伝わせてください」


「当たり前だ。使えねぇ奴は邪魔だが、使える奴まで遊ばせるほど暇じゃねぇ」


「はい」


 鍛冶場の空気が、一気に動き出した。


 測定具が片付けられる。


 新しい羊皮紙が広げられる。


 鉱石の在庫が確認される。


 送風管の調整が始まる。


 封印されていた剣炉の周りに、人が集まる。


 五十一年止まっていた場所に、音が戻っていく。


 セレスティアは、その光景を見ていた。


 ゴルドが剣を打つ。


 その事実だけで、胸が満たされる。


 だが、感傷に浸っている暇はなかった。


 ゴルドがセレスティアへ視線を向けた。


「お前にも仕事がある」


「わたくしにも?」


「当たり前だ。剣は鍛冶師だけで作るものじゃねぇ。使い手が剣を育てる前に、剣も使い手を知る必要がある」


「何をすればよろしいですの」


「毎日ここへ来い。朝、昼、夕。黒星用、閃白用、それぞれの動きを見せろ。魔力の流し方も変えるな。隠すな。ごまかすな」


「はい」


「あと、飯を食え」


 セレスティアは瞬きした。


「飯、ですか」


「その身体で黒星を持つなら、今より筋を作れ。ハイエルフだからといって、魔力だけで剣が振れると思うな」


「食事はきちんと取っておりますわ」


「森の姫の食事だろうが」


「野菜も果実も美味しいですわ」


「肉を食え」


「肉」


「卵も食え。魚も食え。豆も食え。剣士の身体を作れ」


 セレスティアは少し困った顔をした。


「白樹の森では、あまり大量の肉は」


「ここは鍛冶町だ。食え」


「……分かりましたわ」


「それと寝ろ」


「寝ております」


「剣のことを考えて夜更かしするな」


 セレスティアは目を逸らした。


 ゴルドの目が細くなる。


「しているな」


「少しだけですわ」


「馬鹿野郎。剣は寝ている間に身体へ馴染む。鍛錬して、食って、寝ろ。王女だろうが剣士だろうが同じだ」


「承知しましたわ」


「返事だけは良いな」


「実行もしますわ」


「ならいい」


 そのやり取りを聞いて、古参の職人が小さく笑った。


 若い弟子も、少しだけ肩の力を抜いた。


 親方が怒鳴っている。


 だが、どこか違う。


 五十一年間の怒鳴り声とは違う。


 火がある。


 熱がある。


 剣を打つ者の声だった。


 ゴルドは羊皮紙に大きく二つの名を書いた。


 黒星。


 閃白。


 その下に、新しい寸法を書き始める。


 前世の設計図とは違う。


 今生のセレスティアのための設計図。


 セレスティアは、その文字を見つめた。


「ゴルド親方」


「何だ」


「黒星と閃白は、また同じ名でよろしいのですか」


 ゴルドは手を止めた。


 しばらく黙る。


 炉の火が鳴った。


 やがて、ゴルドは低く答えた。


「名前は変えねぇ」


「なぜですの」


「約束だからだ」


 セレスティアは息を呑んだ。


 ゴルドは続けた。


「だが、中身は変える。前の黒星と閃白ではない。今のお前の黒星と閃白だ」


「はい」


「名は約束を繋ぐ。剣は今を生きる。そういうものだ」


 セレスティアは目を伏せた。


 胸の奥が、静かに震える。


 前世の自分。


 今生の自分。


 五十一年前の約束。


 これから生まれる剣。


 すべてが、炉の火の前で一つに繋がっていく。


 ゴルドは作業台に槌を置いた。


 それは、包丁を打っていた槌ではなかった。


 壁の奥から取り出された、黒く古い大槌だった。


 柄には、手の形が染みついている。


 長い年月、使い込まれた職人の道具。


 五十一年間、使われることのなかった剣打ちの槌。


 古参の職人が、声を震わせた。


「親方……その槌は」


「ああ」


 ゴルドは大槌を握った。


 その瞬間、鍛冶場の空気がさらに重くなる。


「黒星を打った槌だ」


 セレスティアは、思わずその槌を見つめた。


 覚えている。


 前世の記憶の中で、その槌は何度も火花を散らしていた。


 黒星の芯を作った槌。


 閃白の魔力導線を整えた槌。


 そして今、再び手に取られている。


 ゴルドは剣炉の前に立った。


 炎が、老いた顔を赤く照らす。


 その目には、もう迷いはなかった。


「始めるぞ」


 誰かが息を呑んだ。


 誰かが祈るように手を組んだ。


 誰かが道具を握り締めた。


 セレスティアは、静かに背筋を伸ばした。


 五十一年前に途切れた約束が、今ここで形になる。


 ゴルドは振り返らずに言った。


「セレスティア」


「はい」


「今度の黒星と閃白は、お前の今の剣に合わせる」


「はい」


「だが、剣に甘えるな。剣ができた瞬間から、お前はさらに強くならなきゃならねぇ」


「望むところですわ」


「なら、見ていろ」


 ゴルドは大槌を持ち上げた。


 剣炉の火が、赤く跳ねる。


「ドワーフ一の鍛冶師が、五十一年ぶりに剣を打つ」


 その声は、鍛冶場の隅々まで響いた。


 セレスティアは微笑んだ。


 懐かしく。


 誇らしく。


 そして、今生の剣士として。


「ええ。見届けますわ」


 火花が散った。


 五十一年眠っていた剣炉の前で、今生の黒星と閃白の作剣が始まった。

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