要塞の黒鉄
「おっ……相方が来てもうたわ。ヤク中はんと違って、目立つ奴やから」
酒場にプレイヤーが一人入ってきた。それだけなのに酒場にいたプレイヤー達の賑やかさが一転して鎮まっていく。あれは……敵を惹き付けては全体攻撃で倒した迷惑なプレイヤーじゃないか!! 黒の重鎧、顔を隠す黒鉄仮面、黒のマント、背と同じ大盾、黒一色の装備。しかも、いるだけで威圧感が半端ないのは、スキルのせいだよな?
「要塞だよ」
「トッププレイヤーも」
「一緒の時に入りたくない」
「すでにあそこを攻略したのか?」
ヒソヒソ話が聴こえてくる。トッププレイヤーとして有名な奴らしい。もしかして、最初のシークレットボスを倒したプレイヤーの一人か? いや……【要塞】と呼ばれていたみたいだから違う。【要塞】は呼称じゃなく、オンリーワン職業の一つ。【毒】や【狂戦士】と同じ……【毒】と全然違わないか? やり込みの時間が違うかもしれないのは否めないけどさ。
「いらっしゃいませ!! 只今満席です。立って飲んでもらうなら可能ですが、酒の場とはいえ、いざこざを起こすのは禁止です」
女店員妹は物怖じせず、【要塞】に声を掛けた。けど、それを無視するように、俺達の方へ近付いてくる。アカツキが相方が来たと言ってたけど、【要塞】の事か? 彼はソロプレイヤーだと思ってたんだけど……
「おつかれさん。毎度の事やけど、最初は一人で行くのは止めや。ワイの安全を確認するためかもしれんけどな……っと!! 一人で話してたんと違うで。ヤク中はんや。面白いスキル持ちで、さっき知り合ってん」
アカツキさんは【要塞】に俺を紹介した。俺と一緒で鉄仮面で表情は読めないが、俺の方をジッと眺めていたのは、アカツキが何もないところで話してたと思ったからか? 【要塞】は頷くだけで返事はなし。一応、挨拶はしておくべきか……
「ヤク中です。先程、薬酒がないと困ってる俺にアカツキさんが声を掛けてくれて……」
「固いな~。クロちゃんは人見知りというか、恥ずかし屋なだけやねんけど……この子はみんなの声で分かるように、職業【要塞】の黒鉄のクロちゃんや。厳つい格好と名前やけど、女性の人なんや」
「それを言う必要はないでしょ。性別は関係ない」
確かに【要塞】の声は女性だった。流石に俺がクロちゃんと呼ぶのは無理だけど。
「ふぅ……あのダンジョンが開放されてるのは四階までね。そこからは何かしらの条件があるわ。それがダンジョンに解除方法があるか、それとも別とリンクされてるか。一階進むたびに毒が変化、追加と状態異常満載。アナタの道具が無ければ、私でも死んでた」
「という事は、ワイの道具があっても簡単に死ねるな。先々に進んだだけか?」
「ああ。仕掛けを探すどころか、宝箱も無視した。それと……私が探してるのはないと予想する。次に潜るのはなしだ」
アカツキさんと黒鉄さんがダンジョンについて話すけど、あんな装備をしてる黒鉄さんでも死にそうなる場所だとすれば、俺が行くのは明らかに無理だ。けど、黒鉄さんが探してるのはシークレットボスか?
「クロちゃんがそこまで言うなら、ワイだけで潜る事もせんわ。守ってもらわな何も出来ん。おっと……それよりも先に薬酒を作ってやらんとな」
そうだ。二人の事は気になるけど、ポイをこれ以上待たせるわけにもいかない。アカツキさんが【要塞】である黒鉄さんと一緒に行動してるなら、信じても良さそうだ。オンリーワン職業の出だしのしんどさは身に染みている。それを乗り越えた人と行動してるんだから。
「薬酒が必要と言ってたわね、ソロで戦う……それは【ガナナーガ】対策で、老人のイベントなの?」
黒鉄さんも爺さんのクエストの事を知ってるみたいだな? すでに攻略済みなのかもしれない。
「まぁ……別にソロじゃなくても良いんだけど。けど、一気に倒すのじゃなくて、攻撃を受けないと駄目というか……」
この二人に協力を……それはない。【要塞】の強さなら、下手すれば一撃で倒す事もあるかもしれない。毒を受ける事に関しては……流石に周囲のプレイヤーは……俺の存在に気付いてるのか? 目立つ存在、【要塞】が近くにいると【空気のような存在】で更に発見出来なくなるんだけど……まぁ、知られたくないわけで……
「そこはソロでやらんと駄目やろ。やないと、作る甲斐がない」
「一人でやれ。そのためのイベントだろ」
二人は遠回しに断るのは仕方ないとして、一人で倒す事を推してくる。ポイは……プレイヤーじゃないから問題ないはず……




