ガジガジガジ
「んぐんぐ……んあ?」
「……は? 女の子が何でこんな場所に」
叢から登場したのは小さな女の子。多分……NPCなんだろうけど、街にNPC達とは違って、服に仕立てられてない毛皮を羽織ってるだけ。けど、獣耳がある獣人というわけでもない。
紫の髪、黄色の瞳は特徴的ではある。それに何かを食べて……それは【夢キノコ】じゃないか!! 【夢キノコ】は毒があるんだぞ。【毒(幻覚)】と同じ効果だとして、時間の経過で消えるとしても危険だよな。
「そこの君……それは毒キノコだから、これ以上食べるのを止めるんだ。他のキノコなら……街に行けば食べさせてあげるからさ」
女の子は俺をジッとを見てる。イベントの一つなのか? 『毒好きの怪しい奴』が彼女って事は流石にないだろ。お腹が空いて、思わず食べたのが【夢キノコ】だったというオチのはず。
「あう!!」
「痛っ!! 俺は食べ物じゃないから!! いや……噛みついたら駄目だろ!!」
彼女は【夢キノコ】を全部食べた後、俺の腕に噛りついてきた。【夢キノコ】の幻覚の毒で、俺が食べ物にでも見えたのかもしれない。けど、【ウルフ・森】が俺に噛みついた結果、死にまで至らしめたわけで……女の子の体が【夢キノコ】以上に危険な状態のはず!! しかも、全然離れてくれない。地味にHPが減っていくし……俺が毒になったわけじゃない。彼女がガジガジするからだ。
「ああ~もう!! このまま街に連れて帰る。状態異常を回復させる施設……宿屋だったか。NPCでも効果があると期待して」
俺は彼女に噛みつかれながらも、お姫様だっこで【イチバン】まで走る事に。HPを回復するのに【薬草(食用)】を食べるけど、吸収缶が外れた状態。臭さで離れる事はないんだよな。
「何で噛む元気がまだあるんだよ!! 元気なのは良いんだけど」
【モリンギ】とか【タマノコ】を出しても、見向きもしない。勿論、HPを回復する【薬草(食用)】なんて、もってのほかだ。それに彼女と遭遇したのはクエストやイベントではなさそうだ。【キノコ採取】の時は詳細等が文字で表示されたけど、今回は何もなしだから。
「よし!! 何とか到着。【イチバン】の中に入る前は、吸収缶を装着しないと」
【イチバン】には無事に到着。【モリンコ】でも遭遇すれば面倒だと思ってたから、丁度良かった。【空気のような存在】があっても、女の子が宙に浮いてるとは誰も思わないだろうし、魔物も一緒のはず。
「……あれ? 痛みが無くなった。おい!! ……って、普通なのかよ」
痛みが無くなった事で、女の子の体力がヤバくなったのでは!! と思ったのに、実際は噛むのを止めただけ。お姫様だっこから飛び降りたのは良いけど、俺の手を繋いできた。毒状態って感じではないけど、大人しくなっている。
「何でだ? あの兵士達が怖いとか」
返事はない。【イチバン】の中に入る事を警戒してる? 吸収缶を装着したから大人しくなったというのは……
俺は【イチバン】の裏門を通り抜ける。女の子を連れていたけど、兵士達に止められる事はなかった。【空気のような存在】の効果があったとして、この子が怪しい人物なら止められていたはず。毒好きの怪しい人物は、やっぱり俺なんだろう。
「夢キノコの毒も抜けたか? 俺を食べる毒も、人には通じないのかも」
彼女が食べなくなったのは、【夢キノコ】の効果が消えたのかも。それに俺を食べて毒になるのは、人がやる事じゃないだろ。あの子は幻覚を見てたから仕方ないんだけど……
「取り敢えず、【キノコ採取】のクエストを道具屋に報告して、この子が街の子供なのかを聞かないと。連れて行くわけにもいかないし」
街に着いたからって、放り出すのも申し訳ない。【イチバン】に親NPCがいるのであれば、探してやりたい気持ちがないわけでもない。
「おっ? 早かったな。無事にキノコ達を持ってきてくれたようで何よりだ。まぁ……今は冒険者達が【毒消し草】を買う事が多くなって、そっちの方が良かったか? と思う始末なんだがね」
早朝に比べて、見るからにプレイヤーだと分かる人達が増えてきた。道具屋も俺に話し掛けてくる前、プレイヤーに何かを売っていた。今思ったけど、一度発見されると【空気のような存在】は発動しないのか? すぐに見つかったんだけど。
「原初の森に毒消し草は見つからなかったよ。何で、毒消し草がそんなに売れてるんだ?」
まさか……職業【毒】がついに登場するのが知られて、対策として【毒消し草】を買うプレイヤー達が増えたって事は……




